風邪は万病の元
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『う、ん…』
「お、目ェ覚めたか?」
夕日が差し込んで来るのに気付いて目を開けると、そこには私を覗き込むトシくんがいた。
『トシくん…どうして?』
さっき勲さんたちが来たときにはいなかったトシくん。実はちょっと寂しかったんだよね…。でもなんで今ここに?疑問に思って聞こうとしたとき、右手に自分のものとは違う温もりがあることに気付いた。
『…手……』
「ん、あ!違う!これは違う!」
私の右手はトシくんに握られていて、ポーッとその手を見つめるとトシくんは慌てて私の手を離した。
「いや、妃咲が寝苦しそうだったから…つい……」
『トシくん……ありがとう…!』
「…ん?ああ……」
『手、握ってて?』
「へ?…いいのか?」
『当たり前じゃない!トシくんの手、大きくてあったかくて…安心する』
そう言ってニコリと微笑めば、トシくんは照れ臭そうにまた手を握ってくれた。
『さっきね、勲さんとザキくんと総悟が来てくれたんだよ』
「あぁ、そうだろうな」
『あれ?知ってたの?』
「あいつらの行動なんて、大体わかんだよ」
『そうなんだー!じゃあトシくんも来てくれればよかったのに…』
ぶうと頬を膨らまして拗ねたフリをすると、トシくんは少し焦って弁解した。
「お、俺はだなぁ…今日の分の仕事を全部終わらせて、残りの時間はずっと妃咲のそばにいてやろうと思って…」
『…そう、だったの……』
「…そーだよ」
言って恥ずかしくなったのか、トシくんは顔を赤くさせてそっぽを向いてしまった。私も何となく恥ずかしくなって、でも同時にとても嬉しくて、布団の中でこっそり笑った。
「それで、風邪の具合はどうなんだ?」
『だいぶ楽になったよ、トシくんが来てくれたお陰かも!』
「か、からかうなよ!」
『からかってないよ!本当に嬉しかったんだから』
そう言い切ると、トシくんはまた真っ赤になって、私まで頬に熱が集まるのを感じた。何コレ何コレ、今日は照れる会話ばっかりじゃない!
「ホラ、騒ぐと熱が上がるぞ!」
『そ、そうだね…!』
トシくんが掛け直してくれた布団の中でおとなしくしていると、トシくんがゆっくりと頭を撫でてくれた。それが妙にくすぐったくて、私は体調が悪いはずなのにとても幸せを感じた。
…が、あることに気付いた。
『…あああ!』
「わっ!どうした!?」
『トシくん、移っちゃう!風邪移っちゃう!』
あわばばば…と慌ててトシくんを追い出そうとしたが、トシくんは微動だにしなかった。
咳やくしゃみをしたら絶対移る!と思った私は、必死に堪えてトシくんの体を布団の中から一生懸命押した。
『移しちゃったらダメだからっ…早く出ないと!』
「平気だ」
『な、何で…』
私がポカンとトシくんを見ると、ニヤリと笑ったトシくんは私の右手を握る手にギュッと力を込めた。
「妃咲が楽になるなら、全部俺に移しちまえ」
『そんな…』
「俺は風邪なんかにゃ負けねェよ。だから、妃咲は自分の体のことだけ心配してりゃいいんだ」
『トシくん…』
「だからゆっくり休め、な?」
『…うん、ありがとう……!』
トシくんの気持ちを聞いて、目頭が熱くなるのを感じた。風邪で気持ちが弱くなってるのかな?…ううん、それもあるかもしれないけど、この涙はトシくんの優しさが嬉しくて出たんだ。
「バカ、何泣いてんだ」
『…トシくんのせいだよ』
「な、何でだよ!俺は妃咲を泣かすことなんて何も…」
『トシくんのバカ………だいすきっ!』
「だ、大好きって…!オイコラ、言い逃げか!!」
言った直後に恥ずかしさが込み上げてきた私は、すぐに布団を頭まで被った。
それでも繋がれていた右手は絶対に離したくないと思って、ギュッと握り返した。
そして、小さい声ですごく聞き取りにくかったけれど「俺の方が妃咲のこと好きだっつーの…」というトシくんの呟きを聞いて、私はまたこっそり笑った。
連載第二十話。
みんなに心配される愛されヒロインVv
2008.11.15 春日愛紗