故き恋と現の愛
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トシくんは急いで草履を脱ぎ捨てて縁側から妙ちゃん家に入り、私の前に来て腕を引き、強く抱き締めてくれた。
『トシ、くっ…』
「妃咲…!」
トシくんは私の肩に顔を埋め、大好きな低い声で私の名前を何度も呟いた。そのせいで私の心臓は心拍数が凄いことになっている。
このままでは命の危機に関わると思った私は一生懸命抵抗したが、トシくんが私の背中に回した手により一層の力を込めたせいで動けなくなった。
『トシくん…!』
「悪ィな、俺のせいで妃咲を不安にさせちまって…」
『え…?』
「…そのままで、聞いてくれるか?」
微妙に掠れた声でそう言われ、私はおとなしく頷いた。するとトシくんはゆっくりと息をはき、話し始めた。
「俺が妃咲と付き合いたいと思った理由は、な…」
さっきまでとは違う心臓の鼓動が私を襲う。どうしよう、聞きたいけど聞きたくないような気もする…!
「妃咲を、妃咲の笑顔を一番側で見てたかったからだ。俺が、妃咲の笑顔を守ってやりたいんだ…!」
『…』
「妃咲の一番近くにいたい、そんな理由じゃ…ダメか?」
『…違う……』
「え?」
私がそう言うと、トシくんは不安そうに顔をあげて私の顔を見た。かなりの至近距離だったけど、これだけは伝えないといけない…!
『本当は…本当は理由なんていらないの!私だってトシくんと一緒にいたいだけだから、ただそれだけなのっ……!』
また流れ始めた涙を拭うこともせずにボロボロと泣いていたら、フッと微笑んだトシくんは私の顔を自分の胸に押し付けた。私はトシくんの着流しにしがみついて涙を流し、トシくんは私の頭をポンポンと撫でてくれた。
「あとな、ミツバのことだけど…」
トシくんがそう言った瞬間、私の体がビクリと跳ねたのがわかった。トシくんもそれに気付いたのか、一呼吸置いてから話し始めた。
「確かにミツバには惚れてた、それは否定しねェ。けど…」
けど?トシくんがなかなか言葉を続けないので顔をあげてトシくんを見れば、慈しむような笑顔をしたトシくんがいた。
「俺が、俺自身の力で幸せにしてやりたいと思ったのは……妃咲、お前だけだよ」
またゆっくりと頭を撫でてくれたトシくんの言葉を聞いて、ハッとした。
そうだよ…トシくんはいつも私のことを想ってくれてたじゃない。不器用だけど、いつもいつも私の味方でいてくれたじゃない…!
今更気付いたトシくんの想いに、今まで気付けなかった自分の愚かさを思うとやりきれない感情でいっぱいになり、情けなくなって再び涙が出た。
「バカ、何泣いてんだ…」
『わたっ、私が…私がバカだったの……!勝手にヤキモチ妬いて、勝手に色々考えちゃって、勝手にワケわかんなくなって、勝手に……っ!』
そこまで言ったとき、再びギュッと抱き締められた。その先の言葉は涙にかきけされて続かなかった。
「安心しろ。お前と出会ってからは、どの女見ても何も感じなくなった……##NAME1##以外は。だから過去に捕らわれるんじゃなく、一緒に今を生きようじゃねーか」
『うんっ…!』
そう言って涙でぐちゃぐちゃになった顔で笑えば、トシくんも笑ってくれた。
そして、ゆっくりとトシくんの顔が近付いてきて………
「その先は、させやせんぜィ」
その声と同時にどかーん!という爆発音が響き、ビックリした私はとっさにトシくんにくっついた。トシくんも私を庇うように抱き締めてくれて、辺りに立ち込めていた煙の中から出てきた人物を見つめた。その人物とは、沖田総悟。
「おまっ、お前ェェ……!今、めちゃめちゃいいとこだったのによォォ!!!!」
「そんなの俺の知ったこっちゃねーですよ。あ、姐さん。ここの修理代は土方さんが払いやすんで」
「何で俺ェェ!?」
ギャーギャー言いながらの揉み合いといういつもの光景に安心感を覚え、妙ちゃんにお礼と謝罪を言って屯所に戻ることにした。
トシくんが総悟と口喧嘩をしながらも、帰るまでの道程でずっと手を繋いでいてくれたのに幸せを感じた。
連載第十三話。
帰り道もトシくんはドッキドキです。照れ隠しに総悟とケンカ。
2008.8.9 春日愛紗