故き恋と現の愛
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屯所を飛び出したはいいが、お金も何も持っていなかった私は下駄さえ買うことも出来ずに、妙ちゃんの家の前に来ていた。
『い、いきなり来たら迷惑かな…』
よく考えてみたら私は今とんでもない格好をしている。髪はぐちゃぐちゃだし、浴衣もだらしなく着崩れていて、おまけに足元は傷だらけの泥だらけときた。
いくら友達でも迷惑だったかもしれないと思い、どうしようかと顎に手を当てて考えていると、両手にスーパーの袋を提げた妙ちゃんがやって来た。
「あら、妃咲ちゃん?」
『妙、ちゃ…』
私が妙ちゃんの声に応えるように振り向くと、妙ちゃんはとても驚いたような顔をしてスーパーの袋を落とした。そして私の方に駆け寄ってきて、優しく抱き締めてくれた。
「妃咲ちゃん!?どうしたのよこの格好!それに目も腫れて…」
『妙ちゃん、荷物が…』
「それよりも妃咲ちゃんの方が大事でしょ!?さ、早く家に入って…」
妙ちゃん家でお風呂を借りて足を洗わせてもらい、居間に戻ると黙って髪をとかしてくれた。
身なりを整えた後、妙ちゃんは何も聞かなかったけど、話さないとと思って私は全てのことを話した。すると妙ちゃんは「辛かったわね」と言って頭を撫でてくれた。
「だけど私、妃咲ちゃんの気持ち分かるわ」
『へ…?』
妙ちゃんの優しさに、一旦は止まった涙が再び溢れて来ていた私は、それを拭いながら次の言葉を待った。
「誰も好きな人の過去の恋なんて聞きたくないわよ……まぁ付き合ってなかったにしても、両想いだった女の人なんて見たくない。それに、その女性に対してそういう感情を抱くというのも、普通のことだと思うわ」
『…』
「人間って、そんなものよ。完璧なまでに【いい人】なんていない…むしろ、だからこそ人間って面白いんじゃない?」
『妙ちゃん…』
「そんなに考え込む必要ないわよ。逆に好きな人の過去の恋を聞いて、何とも思わない人の方が少ないわ」
『そう、かな…』
「そうよ!それに土方さんは今、妃咲ちゃんのことが大好きなんだから」
妙ちゃんにそう言われて、何だかくすぐったかった。
そっか、そうだよね。トシくんが前どんな人を好きだったとしても…今は私を想ってくれてるはずだよ。トシくんは嘘をつくような人じゃない、あの言葉を信じるんだ…!
俯いて涙を拭っていた私が『ありがとう』と声をかけるために顔をあげると、妙ちゃんは玄関の方に何かを見つけてニコリと微笑んだ。
「ほら、王子様のお迎えよ」
王子様?と思って玄関の方に目を向ければ、着流し姿で息を切らしてキョロキョロしているトシくんがいた。
妙ちゃんが「土方さん」と声をかけるとトシくんはこちらを向いて「あ!」と短く声を上げてこっちにダッシュしてきた。