故き恋と現の愛
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「口には出さなかったみたいだがなァ、ありゃ完全にベタ惚れだったな~」
『……』
「それに、トシもミツバ殿に惚れていたと見たね、俺ァ!」
そう自慢げに語る勲さんは、ミツバさんはもう故人であることを語った後に私の顔色がよくないのに気付いてくれた。その優しさに甘えて今日は仕事を休んで、おとなしくしておくことにした。
自室に戻って浴衣に着替え、寝転がるのに邪魔だったので髪もほどいた。そして畳の上でゴロンと大の字になり、ミツバさんのことについて考えていた。
私は元々この世界の住人じゃないし、トシくんたちの過去に存在出来ないのは仕方のないことだ。でも、やっぱり悔しい。トシくんのことを大好きだったミツバさんの方が、私よりもトシくんを知っているのが悔しい。
それに、トシくんもミツバさんのこと好きだったって……いや、トシくんが嘘をつくような人じゃないって分かってるから、あの告白は嘘じゃないって信じてる。けどやっぱり、トシくんの過去の恋なんて聞きたくなかった…。
あと、勲さんの話を聞いていて私はとんでもなく悪い人間であることを思い知らされた。こんなこと思っちゃいけない……分かっていたけど「ミツバさんはもう亡くなっている」ということを聞いて、少しホッとしてしまったのだ。何て嫌な奴なんだ、私は最低の人間だ。
胸の中の黒いモヤモヤがどんどん面積を増していく。嫌だ、こんな黒い感情は嫌だ、いらない!こんな汚い私は、誰にも見られたくない…!
そんな私の願いとは裏腹に、部屋の障子に人影がうつった。このシルエットはトシくんだ。今一番会いたくない人物…。恐らく勲さんに私の体調のことを聞いて、心配で来てくれたんだろう。
そんなトシくんの優しさに触れて、自分の汚さがますます際立つように感じた。
「入るぞ」と声をかけて障子を開けるトシくんの顔が直視できなくて、私は壁の方にゴロンと体を反転させた。
「おい、大丈夫か?」
『…』
私は何も言えなかった。口を開けば、今よりもっと嫌な女になりそうだったから。
「お前、寝るなら布団敷けよ。そんなに体調悪いのか?」
『…』
「おい、本当に大丈…『トシくん…!』
そっと私の肩に触れたトシくんに我慢が出来なくなり、バッと起き上がって腕にすがり、トシくんの目を見つめて質問をした。
『トシくんは、私の恋人だよね…?』
「ハァ?何言ってんだ今更、当たり前だろ」
『じゃあね、何で私と付き合いたいって思ったの?何で?』
「何で、って…」
自分の聞きたいことを一気に捲し立てて、トシくんが私の不安を払ってくれることを期待したけれど…トシくんは私の質問にすぐには答えず、困ったような顔をして口ごもった。
トシくんのその態度に、私の中で何かが弾けた。
『…も、い……』
「へ?」
『もう……いい、疲れた……』
「…妃咲?」
『…っ!』
「妃咲っ!?」
私は勢いよく立ち上がり、トシくんの手を振り払って廊下を走った。そして、後ろで私の名前を呼ぶトシくんを無視して、裸足のまま外に飛び出した。