奪われた太陽
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妃咲が屯所を出てから何時間か経った頃、柏木の運転するパトカーで妃咲が帰ってきたという連絡が入った。
俺は無事帰ってきたことにホッとして、妃咲に会おうと部屋に行ってみたが…そこにいた妃咲は隊服から着物に着替えており、なぜか風呂敷を広げて持ち物をまとめていた。
「おい妃咲?何やってんだ」
『…トシくん』
元気のない声と共に振り返った彼女は、俺の顔を見た途端に涙ぐんでこう言った。
『さよならっ…!』
俺は妃咲にそう言われた意味が分からず、ポケと呆けていたら、突然立ち上がった妃咲は風呂敷包を抱えて俺の隣を走り抜けた。
「おい妃咲、待て!」
咄嗟に叫んだが、その声は妃咲に届かなかったのか…妃咲は行ってしまった。廊下から「妃咲!?」「ちょ、妃咲ちゃんんん!?」という叫び声が聞こえた。大方総悟と近藤さんだろう。俺も部屋を出て妃咲を追い掛けたが、一歩間に合わず。妃咲#はデカイ車に乗ってどこかへ行ってしまった。
その後、とっつぁんがある男を連れて屯所へやって来た。客間に通された彼らと対面しているのは、近藤さんと俺と総悟。2人とも、なぜ自分が呼ばれたか分からねェ…といった表情をしていた。俺もまた然り。
「今日お前らを集めたのは他でもねェ、妃咲ちゃんのことだ」
【妃咲】という言葉に反応して、とっつぁんの声に集中する。
「もう聞いてるかもしんねェが、こちらが妃咲ちゃんの旦那になる方だ」
旦那…?誰の、妃咲のって言ったか?どういうことだよ、妃咲は俺の彼女じゃなかったのかよ…!?
「と、とっつぁん…?旦那ってのは……!」
「何だ、聞いてなかったのか…」
「局長さんが驚くのも仕方ないですよ、松平殿。妃咲も突然のことにビックリしてましたし…」
妃咲…?何お前みてェな奴が呼び捨てにしてんだコラ。誰に許可取って、んなこと言ってんだよ。
「妃咲ちゃん、抑生殿と結婚するんだよ。セレブだぜ、玉の輿じゃねーか」
「そんな…僕たちはセレブなんかじゃありませんよ」
結婚…?誰と誰が?結婚ってなァ、好きな奴同士がするもんじゃねェのかよ。妃咲があの時俺に言った『大好き!』って言葉は、もう消えちまったってことか?
「するってーと、なんですかィ」
今まで黙っていた総悟が口を開いた。
「妃咲は真選組を辞める、ってことですかィ?」
「…まァ、そうなるな」
「妃咲は…承諾したんだろうな」
「はい?」
「妃咲はテメェとの結婚、笑って承諾したんだろうな…って聞いてんだ」
「トシ!言葉遣いを…」
「いいんですよ、局長さん」
近藤さんが俺の名前を言った瞬間、奴がニヤリと笑ったのを俺は見逃さなかった。抑生は俺の方に向き直って、張り付けたような笑顔で言った。
「えぇ、笑って受けて頂きましたよ。笑ってね…」
さっきまで晴れていた空も昼からは雨が降りだし、真っ暗な雲が太陽を覆い隠してしまった。
「…土方さん、」
「なんだ」
とっつぁんたちが帰った後、屯所の縁側でその空を眺めていたら、総悟がやって来て声をかけてきた。
「…奴の言ってたことは、本当なんですかねィ?」
「知らん」
ざあざあと降り続く雨を見つめて、俺が思い出すのは最後に見た妃咲の顔だ。
『さよならっ…!』
俺は脇に置いておいた木刀を持って立ち上がり、屯所の玄関へ向かった。
「どこ行くんでェ」
「…決まってんだろ」
あんな顔した妃咲と、このまま別れるなんて出来るわけねェだろ。
俺はタバコの煙をフゥとはいて、抑生家に向かった。