女達の仁義なき戦い
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驚いたように集団を見つめるトシくんの目線を追って、私もそちらに目を向けた。総悟の乗ったパトカーのヘッドライトに照らされた集団の顔を見ると、10代から20代くらいの女性たち30人程の集団だった。私には全く見覚えがなかったが、トシくんは左の頬をヒクヒクさせながら彼女たちを見ていた。
『…あの人たち、トシくんの知り合い?』
「し、知り合いっつーか…」
私がこそこそとトシくんに耳打ちして尋ねると、女性たちはざわざわと騒ぎだした。あれ、何かさ…私ものっそい睨まれてない?殺気すら感じられるんだけど…気のせい?
自分に寄せられた視線に戸惑っていると、パトカーのヘッドライトはそのままに総悟が車から降りてきて私たちの隣に立った。
「今日は2人で出掛けてたんですかィ?」
『そうなんだけど…今はそんなこと言ってる場合じゃなくて!』
のん気に風船ガムを膨らましながら話しかける総悟を相手にしつつ、内心焦りを感じながら対応に困っていた。すると私の隣にいたトシくんは、抜刀していた刀を静かに鞘に戻した。
『トシくん…?』
トシくんは小さくため息をついて、前髪をクシャッとかきあげた。総悟も女性たちを見て何かに気付いたのか、ニヤニヤしながら私の肩をポンと叩いて「頑張りなせェ」と呟いた。私だけが展開についていけずワタワタしていた。
「日向…妃咲!!」
『はいっ?!』
相手が私の名前を知っていたことに驚きを隠せず、呼ばれた瞬間ヘビに睨まれたカエルのように固まってしまった。しかもその声には気のせいか恨みがこもっていたように感じられ、嫌な汗が一筋流れた。私の名前を呼んだ女性はそのまま言葉を続けた。
「…せん……こ、よ」
『え?』
「…これは宣戦布告よ!」
『どれが?何の?!』
どういう話の流れで何が宣戦布告なのかがさっぱりわからなかったけど、集団のリーダー格の女性は一歩前へ踏み出してこう言った。
「私たちは…あなたが真選組に入る前からずっと、ずーっと土方さんが好きだったのよ!」
『ええ?!』
バッとトシくんの方を見れば、苦い顔をして口を真一文字に結んでいた。
「私たちは《土方組》…土方さんのオフィシャルファンクラブだと思ってもらえればいいわ」
「ちょっと待て、いつ公式になったんだ!」
その発言にトシくんが噛みつくと、女性は照れたように頬を赤らめ、周りの人々は羨ましそうに感嘆の声を上げていた。
「と、とにかく私たちはずっと土方さんを応援してきてるの!そんな私たちには数々の掟が存在しているのよ」
リーダー格の女性の脇にいた子達が、バッと巻物を広げた。遠くて内容は読めなかったけど、どうやらそれに掟が書いてあるらしい。
「それでっ!」
私が一生懸命掟の書を読もうとしていたら、こちらに意識を向けろと言わんばかりに女性は大声を上げた。
「その中でも最も重要な掟……それが《抜け駆け厳禁》なのよ!それなのに…あなたは!」
「いきなりひょっこり現れて」
「土方さんの隣に立って」
「いつも一緒に行動して」
「終いには付き合い出すなんて」
「何様なのよォォ!」
複数の女性に言葉を畳み掛けられ、私はポカーンとしていた。頭の中で彼女たちの言いたいことを整理すると、どうやら私がトシくんと付き合っていることが気に食わないらしい。そんなこと言われたって私だってトシくんと離れたくないし…!
「あなたに別れる気がないなら…私たちとの接触は避けられないわよ!」
『わ、私だってトシくんのこと大好きなんです!別れる気なんて全くありません!』
両手をグッと握って必死に訴え、『ねっ!』と確認するようにトシくんの方を見れば、右手で軽く口元を覆って明後日の方向を見ていた。心なしか頬が赤く染まっているように見えた。
『トシくん…?』
「そ、そーだ!俺と妃咲は別れねェぞ」
トシくんの言葉が嬉しくて、自然とニヤけてしまう顔で(きっと迫力皆無だ)彼女たちを睨むと、一瞬うっとたじろいた土方組は「私たちだって譲る気はないんだから!」と叫んですたこらと逃げていった。
残された私たちは、総悟が「…帰りやせんか」と言うまで誰も言葉を発せず、ただそこに立ち尽くしていた。
28*女達の仁義なき戦い