君がお前で、お前が君で?
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あ、あなたはだんだん眠たくなる…」
俺は目の前で糸にぶら下げた5円玉を揺らしながら、ぐったりとしていた。完全に太陽は昇り、まっとうな人間なら活動し始めるような時間はとうに過ぎ、それでもまだ眠らない2人を前に俺はお手上げ状態だ。万策手は尽くした。羊を数えてみたり、ホットミルクを作ってやったり……けれど2人には少しも眠る気配がない。努力はしているらしいが、全く、ちっとも、まんじりたりとも眠くないらしい。何かここまで言われると悲しくなってくるな…。
『ご、ごめんねトシくん…』
「妃咲は悪くねェ、悪ィのは俺なんでさァ土方さん!妃咲を叱らないでやってくだせェ!」
『何を言ってるの総悟!これは連帯責任よ!私も眠くならないんだから、お互い様だよ!』
「そーゆー青春ゴッコはいいから、静かに心を落ち着けて目を閉じてろ!」
10代コンビは元気だった。いや、実際眠らせようと色々しているのは俺で、こいつらはただ布団の中で横になってるだけなので俺だけが疲れているのは歳のせいじゃないようにも思えるが、何かこう…フレッシュさ?若々しさが20代の俺とは違う気がする。あれ、涙で前が霞んで見えないや。
「…ちくしょう、もう自然に眠くなるの待つしかねーか」
『布団の中でじっとしてれば、いつか眠くなるだろうしね!』
「アイマスク貸しやしょう」
妃咲は総悟からアイマスクを受け取り、2人でそれをつけて再び寝ようとチャレンジした。端から見るとすごく変な画だった。
その姿をしばらく眺めた後、俺はふぅとため息をついた。ここまできたら俺に出来ることなんてない。妃咲のために何もやってやれない自分にイラつきを感じ、さらに「戻らなかったらどうしよう」という不安も相まって零れたため息だった。
ネガティブな考えは想像すれば連なってやって来るもので、俺は悶々と考え込んでしまった。
大体俺は妃咲に相応しい男になれてんのか?妃咲は可愛いし誰にでも優しいし、それでいて負けない芯の強さも持っている。他人の心をわかってやれるが、決して自分を見失わない。そんな妃咲に対して俺は、何かプラスになってるのか?
ぶんぶんと考えを払うように頭を振って、ぐしゃ…と顔にかかった前髪をかきあげた。
『トシくん…』
アイマスクを着用してからしばらく黙っていた2人だったが、手前の方から総悟の声で俺の名を呼ぶのが聞こえた。総悟の声、ってことは中身は妃咲か…。
妃咲はアイマスクを喉元まで下げて、もぐりこんでいた布団の中から顔を覗かせた。
「どーした?」
サラ、と前髪を撫でてやればくすぐったそうに身を捩って再び布団の中にもぐり、今度は鼻から下は布団の中に隠れたまま顔を出した。
『あのね、黙ってたら色々考えちゃって…』
「何をだ?」
『その…私って、トシくんに相応しい女性になれてるのかなぁ、って…』
「…へ?」
『だってトシくんってば!』
そこまで言った妃咲は瞳を潤ませて、しかし涙が零れるのは必死に堪えているような表情になった。
『かっこよくて強くて優しくて、みんなにも尊敬されてるし…完璧なんだもん。それに比べて私は弱いしバカだし甘えんぼだし、考え方も子供だから。いつも「トシくんに呆れられちゃったらどうしよう」って思っちゃうんだもん……!』
「妃咲…」
そこまで捲し立てた妃咲を前に、俺はポカンとしていた。俺ばっかりが妃咲のことを好きで、劣等感を感じていたわけじゃなかった。妃咲も全く同じことを考えていた。俺が妃咲に呆れる?バカなのはお互い様じゃねーか。
俺はたまらなく嬉しくて、布団を握っていた妃咲(体は総悟)の手にそっと自分の手を重ね、堪えきれなくてついプッと吹き出してしまった。
『な、何で笑っ…』
「バーカ、心配すんな」
『へ?』
「俺も全く、同じこと考えてたよ。妃咲に相応しい男になれてんのか?って」
『そんなの…!』
妃咲はまだ続きを言いたそうにしていたが、そっと口許を押さえて制した。
「大丈夫だ、俺が妃咲に呆れるなんてことはねぇ。俺は…」
妃咲が考えてるよりもずっと、妃咲のことが好きだ。
だから安心して寝ろ、な?と言って笑いかければ、妃咲は真っ赤になって頭まで布団を被った。かわいいなぁオイ。
その時ふとこの場に総悟(体は妃咲)もいたことを思い出して目を向けたが、そちらからは規則的な寝息しか聞こえてこなかった。
「よかった…」
ホッとしたら俺まで急に睡魔が襲ってきて、しばらくは戦ったが結局勝てず、俺は座ったまま寝てしまった。
「…やっぱ俺の出る幕じゃねーってことですかねィ…」
眠りに落ちる直前、そう言った妃咲の声が聞こえた気がした。
「トシー!お前が来ねーからもう飯食っちゃった…ってあれ?総悟に妃咲ちゃんも…寝てんの?」
「あれ、副長まだ出てこないんですか?」
「山崎…コレ見てみろ」
「何です…って、寝てる?」
「微笑ましいな、なんか」
「そうですね。特にホラ、副長と妃咲ちゃん…手繋いでますよ」
目が覚めたら、目の前に君の笑顔がありますように。
連載第二十六話。
ひいいい久々の更新申し訳ありません!!最後はほのぼの目指しましたが撃沈。
2009.4.7 春日愛紗