男に投げつけられたのは、どうやらスリッパだったらしい。

少しの文句を呟きながら入り口の横の方に揃えて置かれた。
ジーナという女性に案内され、フローリングの廊下の奥へと進む。


外からの雰囲気とは一変して、中は驚くほど綺麗だった。

新築のマンションの様に掃除の行き届いた廊下には埃一つ落ちていない。

しかし、それでいて生活感があるのだから不思議なものだ。





廊下の突き当たりにある扉へ入ると、そこはリビングの様な部屋だった。

入って右手には、木製の台に置かれた大きめの薄型テレビ。

その正面には、二つのクッションの置かれた黒いソファーが置かれている。

左手には、カウンターの様な仕切りがあり、キッチンになっている様だ。

少し高めの木製テーブルがあり、同じ素材で作られているであろう椅子が２つ向かい合う様に置かれている。


女の人が手前の椅子を引いて、どうぞ。と微笑んでくれたので、俺は少し戸惑いながらも座らせてもらった。


「コーヒーは飲める？」


カウンターに置かれた機械にカップをセットしながら尋ねられたので、聞いたこともないし、ましてや飲んだこともなかったのだが、とりあえず頷いてみた。


差し出されたカップには、黒い液体が温かそうに湯気を立てて入っていた。

匂いだ事のない香りがする。

嫌な匂いではない。


俺を連れてきた男も、自分で機械にカップをセットして注いだ物を何食わぬ顔で飲んでいたので、毒はないっていないのだろうと判断し口をつけた。


「っ！？」


少し口に入れた瞬間、思わずゴホゴホと咳き込んだ。

何だこれ。苦い。すごく苦い！

ちょっと、大丈夫！？と心配してくれる女性に、声をあげて笑っている男。

くそう。恥ずかしい。