一の陣~第二篇~
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夏「ごめん!」
俺は先輩によって、屋敷の裏に連れ出された。真剣な顔をして、勢いよく頭を下げられた。
夏「あらためてアルバイトの内容を説明するね。といっても、もう分かってると思うけど」
俺は先輩を目の前にして、どういう顔をすればいいのか分からなかった。
夏「大おばあちゃんや親戚の前で、私の恋人のフリをしてほしいの」
“恋人”という単語を聞くと、胸に何かが突き刺さる。
夏「事情があって、どうしても彼氏が必要なの!お誕生会が終わるまで!」
『むっ、無理です!』
夏「さっきみたいな感じでいいから!淳樹くん、すごく演技うまいよ!」
『え?いや、あれは…』
9割演技じゃありませんでした、なんて口が裂けても言えない。恋人のフリって知っていたにも関わらず、なんとなく本音が出た気がした。
『とにかく無理です!例え偽装でも俺みたいのが先輩と釣り合うわけないじゃないですか!無理無理無理!』
夏「お願い、お願い、お願い!お願いお願いお願い!」
『それに先輩、彼氏が居るなら彼氏に頼めばいいじゃないですか!』
夏「え?私彼氏居ないけど」
『彼氏が用事があるからってなんで…え?』
今なんと…?
夏「とにかく、大おばあちゃんをがっかりさせたくないの!勢いで言っちゃったんだもん!」
必死の顔をして先輩は俺の手を握った。
『!?』
手を握られて俺の身体が少し跳ねた。女の子の手触るの久しぶりだな…じゃなくて!
夏「本人は元気だって言うけど、家の人からは最近、具合が悪いみたいだって聞いたから…私の彼氏、連れてくるまで死んじゃダメよ、って思わず約束しちゃったの」
先輩の手、温かい…細くて、柔らかくて…って何を考えてる俺!落ち着け、落ち着くんだ。
夏「大おばあちゃん、私に彼氏ができるか、ずっと前から心配してたの。自分のせいだって気にしてるみたいで…」
『そ、そうなんですか…』
夏「だから、安心させてあげたいの!大好きな大おばあちゃんに、いつまでも元気でいてほしいの!」
『先輩が言うなら…』
夏「ホント!やったあ!ありがとう!」
先輩は喜んで飛び跳ねる。その拍子に手が離れた。大好きな栄さんのためにって言ってけど、騙してまで先輩は栄さんを喜ばせたんですか?
夏「じゃ、これからは先輩じゃなくて、夏希ちゃんって呼んでね。彼氏っぽく」
『へ?』
夏「あと、設定は守ってね」
『せ、設定?』
夏「東大生で、旧家の出で、それとアメリカ留学から帰ってきたばかりの」
さっきまで熱意や興奮はどこにいったものか、急に冷静になり、指折りに数える。
『ん?誰ですか?そんな完璧な人』
夏「私の彼氏の淳樹くん」
『ええっ!?そんなの俺…僕と正反対じゃないですか!僕なんか数学と日本史以外は成績良くないし、親がアメリカで仕事をしてますけど、それに英語もそんなに話せませんし!』
夏「ちゃんと憶えた?」
先輩は笑顔で言った。こちらの主張は聞く耳を持たないらしい。おいおい、人の話を聞いてくださいって!
『やっぱ無理ですって!無理無理無理!』
夏「何でもやるって言ったのに…」
『うっ…』
頬を膨らませる。そう言えば“何でも任せてください!”って言った気がする。
夏「ね?たった4日間だけ。あとはタイミングを見て、別れたことにするから!」
付き合うのはあくまで演技の上に、振られることも決まっているらしい。ことごとくショック…
たった4日間が長くなりそうだ…
夏「お願い!」
両手を合わせる先輩に対して、何も言えなかった。それより大勢の初対面の人を騙す、と思ったら身体が急に重くなった。
身体、と言うより、心が…
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