一の陣~第二篇~
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篠原先輩の大おばあさんの屋敷に着いて屋敷内に上がると、俺にとって初めて見る光景。
庇(ひさし)のある縁側を歩いて行くといきなり大きな和室が現れた。手前、中程、そして奥と3つ連なってる。それぞれ襖を開放してるためか、ひたすら向こうまで畳が連なっている。その奥の壁際には甲冑が置いてあって、心が踊る。
夏「スゴイでしょ、この大広間。二百畳あるんだって」
甲冑に見とれて立ち止まったら、篠原先輩も立ち止まって説明してくれる。
『二百畳!』
えーと、百坪で約330㎡で、物理部の部屋の27.5倍で、俺んちの3.8372(以下省略)倍の広さで…って無意識に計算してしまった。習慣って恐ろしい…って習慣なのか、これ?
夏「大おばあちゃんは書斎にいるって。挨拶しとかないとね」
『あ、はい』
俺と先輩は日よけの簾がかかった縁側を歩いて書斎に向かう
庭には池があり、息継ぎをする鯉が見えた
夏「あのね、今ごろになって言うのもアレなんだけど」
『はい?』
前を歩く先輩がチラリと俺を見た。
夏「大おばあちゃんの前では、何を訊かれても私に話を合わせてくれる?」
『話を合わせる?どういうことですか?』
夏「いいから!それ以上は何も言わないで!」
『は、はい』
先輩の顔が本気だ。とりあえず話を合わせればいいんだな。
数寄屋(すきや)造りの屋敷を縁側伝いにグルリと半周し、西側の屋敷へ到着した。縁側には鉢がたくさん置いてあり、蔓が伸びた朝顔が並んでいる。
夏「ここよ」
障子が開かれた一室の前に着いた。いよいよ大おばあさんと対面。緊張してきた。
夏「大おばあちゃん」
開いた障子の一歩前で先輩が声をかけると、部屋の中からパチンという音がした。
?「お入り」
続いて大おばあさんのはっきりした声が聞こえた。
夏「大おばあちゃん!」
?「来たかい」
十畳ほどの書斎に、着物をきた大おばあさんが座って先輩を迎える。
姿を見たら高齢を感じされるものよ、目つきや声はしっかりとしていて力強い。さっきのパチンという音は座布団の前におかれた碁盤だった。囲碁をしてたようだ。
夏「逢いたかった!身体の調子はどう?」
?「見ての通りだ」
夏「最近、元気ないって聞いたから」
?「ふふ、ただの夏バテなのに、みんな大袈裟なのさ。心配いらないよ」
夏「ホント?よかった!」
再会を喜ぶ2人。俺は邪魔かな、と思いながら入り口の近くでじっとしていた。
?「ん?」
先輩と談笑していた大おばあさんがこちらに気づいた。何か反応をしなくては、と咄嗟に軽く会釈をした。そして先輩に手招きをされ、先輩の隣に座った。
夏「この人は陣内栄。私の大おばあちゃん」
『あ、はじめまして。お誕生日、おめでとうございます』
栄「おやおや、ありがとう」
ぎこちないながら頭を下げた。近くに来ると貫禄があって変に汗が出る。それを見て栄さんは微笑み、先輩を見た。
栄「この人が?」
夏「うん。黒崎 淳樹くん。約束通り、ちゃんと連れてきたからね」
『ええと、篠原先輩とは高校の物理部で…』
夏「ゴホン。私の彼」
『…へ?』
思わず、間抜けの声が出た。先輩の言葉に一瞬理解出来なかったから。けど、先輩はニコニコと笑っている。
栄「彼氏?」
栄さんが驚いた顔をして呟いた。
『えっ?』
夏「そう。私のお婿さんになる人」
栄「おむっ…!」
『は?』
栄さんはまじまじと俺を見た。
『えっと…』
待て待て待て、状況が分からないぞ。
栄「そうかい、この人が」
夏「ね?ちゃんと連れてきたでしょ?」
栄さんが呆然としてるなか、先輩は満面の笑みをしている。しばし、沈黙が書斎を包んだ。2人に見つめられるなか、俺はやっとこの状況を理解した。先輩は俺に恋人のフリを頼んだ、と。
『し、篠原先輩、なんで…』
栄「淳樹さん」
『は、はい!』
先輩に話しかけようとしたら、栄さんの低い声で背筋を伸ばして向き合った。
栄「この子は世間知らずでワガママなところもあるけど、本当は良い子なんだ」
先ほどとは穏和な表情から一変し、ジロリと厳しい目つきで栄さんに睨まれた
栄「ちゃんと幸せにしてくれるかい?」
『し、幸せに…』
先輩を見ると、こっそりとウィンクをされた。小さく片手を持ち上げて、“お願い”というようなジェスチャーをされた。先輩は何を考えているんだ。彼氏がいるんだから彼氏に頼めばいいのに、なんで俺なんですか。
栄「覚悟はあるかい、と訊いているんだ」
栄さんは俺の返事を待つ。いくら恋人のフリでもそんな事言えない。昔の事を嫌でも思い出す。
夏「淳樹くん?大丈夫?」
『え…!』
先輩の声に我にかえった。憧れの先輩の頼み…ええい、なるがままよ。
『はい…』
栄「本当に?命に代えても?」
栄さんに睨みつけられたが、俺は動じず。
『はい、必ず夏希さんを幸せにしてみせます!』
と、言ったが声の音量が大きいすぎた。2人を見ると、どちらもビックリした様子で凍りついている。先輩の頬がかすかに朱に染まっていたように見えた。いや、気のせいだ。
栄「そうかい…よかった」
栄さんの顔が笑顔へと変わった。
栄「淳樹さん。どうぞひ孫をよろしくお願い致します」
そういって、栄さんは畳に手をつけて深々と頭を下げた。
『あ、いえ、こちらこそよろしくお願いします』
俺も慌てて頭を下げた。そんな調子で栄さんとの面会を終えた。