束の間の平穏
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四聖獣の件が一段落した平和な昼下り。
灯里は、LEAF MOONのメニューに加えられそうな料理の参考にするため、料理番組を見ていた。
灯(う〜ん。この料理、もし出すとするなら、低価格でないと無理だな。簡単なもので、お腹も心も満たされる物でないと…。何か、代用品になる物となれば、タコ…。タコ、イカ、鯛のアラ、キャベツ半玉。豚肉は、高いから、鶏のササミ辺りかな?それから――。あ〜、ダメだぁ!眠気が…。ま、負けそうι
1度寝ると、もう起きれないかもしれない。誰かぁ!この睡魔を止めてぇ!!あ、そういえば!一回、お店の売上金、今いくらあるのか、計算してみたほうが良いかもしれないな。ひょっとしたら、採算合ってないかも…。)
ガバッ!!
灯「良し!思い立ったが吉日!行動あるのみ!やるぞ〜!!オーッ!」
気合いを入れて帳面 を探している灯里だが、この行動が後々大変な事になるのは、言うまでもない。
ガサゴソ、ガサゴソ。
灯「う〜ん。何処に片付けたっけ。確か、この辺に…。あ、あったぁ〜!こんな所に!!良かったぁ。見つからなかったら、どうしようかなと思ってたから…。さて、戻って計算しますか!」
☆ゴン!☆
灯「〜っ!!痛 たァ〜。テテ…。頭ぶつけちゃったιまぁ、大丈夫でしょ!」
灯里は、『LEAF MOON』の帳面 だけではなく、なんとブラック飲食店時代からの売り上げ金も付けていたので、ザッと見ただけでも、12〜5冊は、軽くあるのではないだろうか…ι
探しものをしながらあちこちに目をやったため、注意力散漫になり、机の下にいることを忘れ、立とうとしたために頭をぶつけてしまったのだ。
今のは、相当痛かっただろう。ご愁傷さまです。(勝手に殺さないで〜汗)
涙目になりながらも、売り上げ金の帳面 をなんとか引っ張り出す事に成功したまでは、良かったのだが――。
ドンガラガンガラガッシャン!!パリーン!
派手な音を立て、嫌な音が背後から聞こえた。
灯里は、恐る恐る後ろを振り向いた。
灯(見たいような、見たくないような…。)
ドッドッドッ、ドッドッドッ。
灯「∑ひゃあ!!びっくりしたぁ〜。ん?な、な、何よこれ〜!!」
サァー|||
見事に、お鍋や食器をひっくり返してしまっていた。
灯「……。フェ〜ン!ιιι誰が、片付けんのよ、これ〜!!泣」
もちろん、貴女です。
バタバタバタ。
コンコン。
大家『ど、どうしたの!?凄い音が聞こえたから、気になって来てみたのよ…?』
灯「あ、す、すみません。煩 くしてしまって…。」
大家『何も、ないなら良いんだけど…。もし、手伝えることがあったら、何時でも言ってね。』
灯「は、はい。ありがとう、ございます。」
トントントン。
灯「ホッ。…あ〜、ドキドキしたぁ。
もぅ!!何で、こんな事になったのよ〜!!はぁ=3。やらなきゃいけないないことは、山程あるのにぃ〜〜。ブツブツ
洗濯物畳まなきゃいけないし、割っちゃった分の掃除や、洗い桶に入ってるお茶碗洗って、拭いて片付けて…。∑わ〜!宿題もしなきゃ!」
ズーン。
灯「あ〜!!思い出しただけで嫌 んなってきたぁ〜!誰か手伝ってくれないかなぁ?=3グスン。う〜ん…。まぁ、取り敢えず、今は、目の前の事だけを考えよう!まずは、割れたお茶碗の片付け・掃除をしなきゃ。」
カチャカチャ。カチャカチャ。
――しばらくお待ち下さい。――
灯「ふぅ。なんとか割れたお茶碗は、綺麗に片付いたね。でも、取り敢えず掃除機掛けといた方が、良いかも…。小さな破片があるかもしれないし、これで、怪我とかしたら、もっと大変な事になるもんね!傷は小さい方が良いし…。」
ガー。ガー。チリチリ。ジャリ、ジャリ、ジャ、リ。ガリ。キュウウ…。
ドッカ~ン!!プスプスプスプス…。カタカタカタ。
灯「………。ケホッ。コホッ。ゴホッ。もう、何が起きても動じない事にしよう。この掃除機は、明日の『大型ゴミ』に出そう。はぁ=3
お金がなくて、使い勝手の良い奴に限って、壊れるんだからぁ!!あぁ〜、誰か、譲ってくれないかなぁ?まぁ、寿命だったし、買い換え時かもね。でも、窓は開けようかな。結構、埃っぽいし。あ。下の掃除機を上に持って来てもいいんだよね?良〜し!取ってこよう!」
ガラッ!!
カチャ。タタタタタ。
ガチャ。ゴソゴソ。
秀「ん?今の、灯里ちゃん、だよね?どうしたのかな?」
秀一は、気になって灯里の後を、そっと追いかけたが、俊足の秀一の足をもってしても、灯里には、追い付けない。
『こんなに速いのに、何で、普段の体育は、見学なんだよ~!』と、心の中で愚痴ったのは、ここだけの話。笑
秀「ハァ、ハァ。やっ、と、追い、付い、た…。ゼー、ハー、ゼー、ハー。(やはり、1000年以上も生きていると、体力も落ちるのか。見た目は高校生なのに。)」
一方、LEAF MOONではー
ガサゴソ、ガサゴソ。
灯「あ!あった、あった。良かった〜、今日が定休日で。定休日でもない限り、お店休めないし、たまには、お店のメンテナンスも必要だよね。って、事は、お店の掃除も追加になるよね…。ιう〜ん。でも、こうして見ると、結構広いんだね。全然気付かなかった。ん〜。取り敢えず、店 だけでも掛けてしまおう!まずは、テーブルと椅子を綺麗にしないと。後は、ボックス席が1番汚れてるんだよね。そこから先にしようっと!」
秀(オイオイ、1人で全部やるつもりかぁ〜?無茶だよ。う〜ん…。ゴソゴソ。あ!丁度ヘアゴムがあるから、ポニーテールにしといたら、邪魔には、ならないよね。それに、今日に限って動きやすい格好だし、暇つぶしには、丁度良いか。)
キュ。パチン。
秀一は、長い赤色の髪をヘアゴムで解けないようにしっかり、くくった。
コンコン。
灯「はい、はぁい!今行きますよ〜!!」
ガチャ。ガチャ、ガチャ。
キィ。チリンチリン。
灯「あ、すみません。今日は、定休日でお店開けてないんです、よ…。」
灯里は、視線の先に立っている意外な人物に、目を瞠 った。
秀「こんにちは、灯里ちゃん。」
灯「しゅ、秀一くん!?どうしたの?今日、お店休みだよ?」
秀「うん。それは知ってるんだけど、店の掃除、するんでしょ?オレも混ぜてよ。ニコッ」
灯「なんで、あたしが店の掃除するの知ってるの?」
秀「ん〜?さっきたまたま見かけたから。これじゃ理由にならない、かな?」
灯「ううん!来てくれて嬉しい!ありがとう!!人手が足りなかったから、良かった〜。もの凄く助かるよ!!」
灯里の顔は、瞬く間にパァッと明るくなった。
秀(良かった。思い切って声かけて…。なんだ。たったこれだけの事なら、幾らでも力になるからね、灯里ちゃん。)
灯「じゃあ、早速で、悪いんだけど、全席のテーブルをから拭きして、床に落してくれる?」
秀「分かった。その後にやることってあるかな?」
灯「う〜ん。あ、そうそう!椅子をテーブルに上げた後、箒 で軽く履いて。それから、洗剤を付けたモップで水拭きして、乾いた雑巾で、全ての床を拭いてほしいの。後は、椅子の脚を拭き取って。テーブルは、固く絞った雑巾で全部拭いて、アルコール消毒して…。」
秀「そ、そんなに沢山!?」
灯「だって、なかなか掃除出来てなかったもん。それにさっき見たら、ボックス席の方が汚れ酷いから、あたしは、そっちをやるね。」
秀「じゃあ、オレは、テーブル席とカウンター席をやれば良いんだね?」
灯「うん。結構多くて悪いんだけど、お願いします♪」
秀「了解!オレの方は気にしないで良いからね。」
灯「ありがとう!後で、何か奢るね。」
秀「そんなに、気を遣わなくて良いのに…。」
拭き拭き。
ゴシゴシ。
2人は、話しをしていても、テーブルを拭く手は、全く止まっていない。
とても器用だ。
灯「でも、お願い。させて?キュウン」
秀「ん〜。じゃあ、お言葉に甘えようかな。(う…。わざとじゃないんだろうけど、灯里ちゃんに、あんな顔されたら、断わる訳にはいかないな。)」
灯「ありがとう!パァ」
秀「どういたしまして。ニコッ」
灯「良し、あと1席!」
秀「オレの方も終わったよ。」
灯「ありがとう!もの凄く助かったよ〜!疲れたでしょ。ちょっと早いけどお昼ごはんにしよっか!」
秀「え!?もうそんな時間!?」
ふと、時計を見ると、まだ10時を回ったところだったのだ。
灯「…うん。」
秀「どうしたの?歯切れ悪いけど?」
灯「あの、実は、まだ片付いてなくて…。」
秀「どこが?」
灯「そ、それはあの…。あ、お昼チャーハンでも良い?サラダとデザート付きで!」
ヒョコ。
秀「うん、それで良いよ。」
灯「ご飯多めでも大丈夫?」
秀「うん、ありがとう!とても助かるよ。朝から何も食べてなくて…。」
灯「え!そうだったの!?だったら早く言ってよ〜。掃除ぐらい後回しにしたのに…。」
ジャー。
カッカッカッ。
中華鍋を小さな身体で振る灯里を見ていると、やはり、『力になりたい』と、思わずにはいられない。
秀「ねぇ、何か手伝える事ない?」
灯「う〜ん。じゃあ、丸皿にサラダを盛り付けてくれる?あ、ちゃんと手洗いはしてね!」
秀「はぁい!」
ジャー。クルクルクル。
ゴシゴシ。ガラガラガラー、ペッ。
灯(こういうところはきちんとしてるから、安心出来るんだよね。フフ。)
秀「どうしたの?何か、楽しそうだね。」
どうやって持っていこうかな…。――こんな時、秀一くんがいてくれたらな…。ボソ」
秀「オレで良ければ、持っていこうか?」
噂をすれば、なんとやら。働かない頭を何とか動かしてみるも、流石に女性1人で持ち上げる事は、出来ない。かと言って、わざわざ来てもらうのも気が引ける。そんな事とは、露知らずでも、偶然通りかかった秀一が、
灯
灯
カタカタカタ。
カリカリカリ。
電卓を打つ音と、帳面に付ける鉛筆の音が静かな部屋に響き渡る。
灯(やっぱりそうだ。幽助くん達が店に来た時に限って合ってない。大抵、秀一くんが4人分を多めに出してくれてるけど…。う〜ん。ここの提供価格自体が安いからなぁ。メニュー全体を見直した方が良いかもしれないな。それと、試験的にだけど、次回ご来店時、このメニューの中で1番高い物を1つだけ 注文して貰う事と、ドリンクバーのおかわりは、『1人3杯まで』と制限を掛けなくちゃ。この事は、武村シェフリーダーに明日伝えるとして、ケーキバイキングの値段の値上げも、考えないと、火の車になっちゃうし、皆のお給料も出せなくなっちゃう。あぁ、もっと早く見直しとけば良かったかも。)
実は、ここ、灯里が店の裏口から徒歩0.05分という、なんとまぁ便利な土地で、高校生の灯里が、3軒繋がった長屋を、大家の武村優里さんから『このオンボロ長屋には、もう誰も住んでいないし、元々売り払うつもりだったから、全部で3万円前後で、買い取ってくれるんなら家賃はいらないよ。』と言われ、2万3千円で買い取り、快適に住みやすく、動きやすい導線を造り、両端のドアには鍵やチェーンロックは一切付けず、真ん中のドアだけに鍵を付け、両内側で一続きの家として住んでいる。
『家賃は、要らない』と言われたが、家賃の代わりに、光熱費諸々を店の売り上げ金から、支払う事になっている。
灯「水道代、電気代、ガス代、学費、生活費…。もう、カツカツだ。お昼ごはんは、店の残り物を詰めて行くとして、ネックは晩ごはんだ。最近、体調が良くないから、店を開ける事が出来ないんだよね…。お昼ごはんの残りを冷蔵庫に入れて、晩ごはんに回しても良いんだよね?お風呂も本当はゆっくり湯船に浸かりたい所だけど、シャワーにしたとして…。うん!大分 安上がりになるね。
問題は…、洗濯物だ!
1から水を張ると大変だから、湯船の残り湯を洗濯機 に入れて使おう!すすぎと脱水は、仕方ないから洗濯機にやってもらって、日の出てる内に干して、敷・掛け布団、枕も日干ししなきゃ!
それから、乾いてる洗濯物を畳んでいかないと後々、大変な事になる〜!!
自分のケアも早く、どうにかしなきゃ。このままじゃ、いつ倒れるか分かったもんじゃない。う〜ん。
あぁ〜!!もう!!どうすれば良いの〜!?」バンッ!!
(∑ハッ!真夜中にも関わらず、思わず大声で叫んでしまった。どうしよう…!!)
カッカッカッ。カッカッカッ。
足早にLEAF MOONの前を通り過ぎる人影が1つあった。
秀(ふぅ。やっとゆっくり出来るな。まさか、あんな下っ端妖怪に、ここまで手こずるなんて…。
平和ボケしている証か。早く、妖力が元に戻ってくれたら、1番良いんだがな。――ん?明り、まだ付いてる。どこだ?あ!LEAF MOONか。はぁ。ここの所、ずっと起きてるよなぁ。ハァ=3何時 か絶対、身体を壊すぞ。)
秀一は、[#dc=1#]の裏口から漏れる明りに毒づいた。そして、その一抹の不安が的中することになる。
灯『あぁ〜!!もう!!どうすれば良いの〜!?』バンッ!!
ビクッ!
暗闇の静寂を切り裂く様に、灯里の一際大きな声が聞こえてきた。
秀「な、何だ?今の声は!まさか、灯里ちゃんに何かあったのか!?」
嫌な胸騒ぎを覚えた秀一は、自宅へと向いていた踵 を思わず返し、声のした方向へ走っていった。
カンカンカン!カンカンカン!
ドンドン!ドンドン!
夜中にも関わらず、秀一は、灯里の家の扉を叩いた。
秀「灯里ちゃん!どうしたの!?くそっ!開かない!…待てよ。両側のドアには、確か、鍵もチェーンも付いてないんだよな?」
秀一は、焦っていた自分を落ち着かせてから、どのドアを開けたら、短距離で行けるか逡巡 した後、左ドアから入った。
秀「灯里ちゃん!!入るよ!?」ガチャ。
そこで秀一が見た光景は、何とも悲惨な状態で、声の主は、小さすぎて、一体何処にいるのか分からない。
取り敢えず、『お邪魔します。』と、律儀に挨拶をし、靴を綺麗に揃えて上がった。
秀「灯里ちゃ〜ん!どこにいるの〜!?お〜い!」
灯「…こ、ここ〜!」
秀「ここ!?」
バサバサ。ガサガサ。ヒョコ。
秀「あ、灯里ちゃん。は〜、良かったぁ〜。無事で。」
ヘナヘナ。
秀一にしては、珍しく取り乱していたが、灯里の顔を見た途端、疲れと呆れが同時にどっと押し寄せ、気付いたら、無意識に小さい子を抱き上げる様に、自分の膝の上へ向かい合わせになるように座らせ抱きしめていた。
秀一の大きな手が、そっと灯里の頭に乗せ、ポンポンとリズム良く安心感を与える。
灯「ご、ごめんね。秀一くん。びっくりさせて。」
秀「いや、大丈夫だけど、一体何があったの?」
灯「…え、えっと、とても言い難 いんだけど、聞いて、くれる?」
心細そうに、恐る恐る秀一の腕の中で灯里が、漸く発した言葉だった。
秀「ニコッ。もちろん。オレで良いなら、喜んで。」
その、安心出来る腕の中で、安心出来る言葉で、優しく落ち着いた声で、『自分を肯定してくれる人がここにいる。』と言うだけで、張り詰めていた糸が少しずつ解 けて来て、思わず秀一の首にギュッと細い腕を回し、泣き顔を見られない様に、でも、小さく声を上げて泣き始めた。
灯里の瞳 からは、今まで我慢していた、温かい水がポロポロと止めどなく流れ、秀一の頬と制服を濡らし続けた。
キュ。
灯「…ック。ヒック。ウェ〜ン。しゅ、ち、く…。うああん!ああ〜ん!フェッ…。フック…。ヒゥッ…。う〜…。」
自分の腕の中で泣く灯里は、まるで、『子どものように彼女の感情が読み取れない。』と思うほど小さく見え、思わず綺麗に整った眉を辛そうにしかめた一方、秀一は、灯里が、やっと自分の腕の中でわんわん泣いてくれた事に安心していた。
今までは、鉄の仮面を被っていて感情を表に出した事は1回もなかったからだ。
そんな彼女が、唯一弱味を見せる事が出来るのは、秀一の前だけでだった。小さな背中をトントンと、幼い子どもをあやす様に、今までの苦労を労 う様に、落ち着くまで抱きしめ、子守唄を歌って、寝かしつけた。その子守唄をぼんやり聞いていた灯里は、秀一の耳の前から垂れている髪を一房握り、灯里の綺麗な顔には、涙の跡が幾筋も残こり、安心したような顔で深い眠りに付いた。
秀一は、そんな仕草をチラッと盗み見て、『そういえば、魔界である女の子もオレの髪の毛を握りしめながら眠っていたな。』と子守唄を歌いながら、ふと昔を思い出していた。
改めて灯里の部屋をゆっくり見回してみると、あちこちにハンガーに掛けられたままになった洗濯物が、1箇所に集められていた。これから畳むつもりだったのだろう。
洗い桶には、溜まっているお茶碗の洗いかけ。
ふと、食卓テーブルの方へ目をやると、売り上げ金の帳面と、計算をするために電卓が出っ放しになっていた。
秀「ん?売り上げ金の帳面か?ちょっとだけ見てみようかな…。って、これ、全部1人で計算するつもりなのか!?無理があるだろう…。」
灯「……ん…。」
灯里が一瞬、小さく身じろぎをしたが、起きる気配はまだない。それもそうだ。
目元には、周囲 に、誤魔化しが効かないほど大きなクマを作り、寝不足だと言う事を物語っている。
灯
1時間後―――
灯
秀一の腕の中で、一頻 り泣いた灯里は、モゾモゾと動き秀一の腕から身体を離したが、まだ起きる気配はなさそうだ。
灯「スースー。ん〜。ムニャムニャ…。美味し…そう。今度、出してみようかにゃ――。クー。」
結構、大きな寝言ですな。苦笑
秀『夢の中でも仕事か。少し休まないと身体に毒だぞ?』
――1時間経過
灯カクン。「ーハッ。いつの間にか寝てた。う〜ん。よく寝たなぁ。」伸びをしようとしたら、隣から毎日聞き慣れた、暖かくて優しい声がした。
?「ホントに、よく寝てましたよ。まるで、疲れを取るかのように―。クスクス。まだ寝てても良いですよ。」
灯「…ゴメンね、秀一くん。せっかく来てくれたのに、制服汚しちゃって。」
秀「いや、大丈夫だよ。最近、顔色が悪いから、少し心配だったんだ。それより、何時もこんな時間に寝てるの?」
灯「ん。これでも早いくらい。昔に比べると身体は楽、かな…。前は、河原で寝てたから。布団なんて、そんな上等な物なんてないし、ダンボールが1枚あれば、良い方だから笑」
秀「∑え!?『河原で寝てたから』って、いつ頃!?」
灯「ん〜、6歳ぐらい、かな?言ってなかったっけ?あたし、1度死んでるんだよ。『監獄に入ってまで辱 めを受けるくらいなら、死んだほうがまだマシだ!』って、男の監視員達に楯突いてやったら死刑になって、ね。理不尽でしょ ?クスクス。」
秀「笑い事じゃないよ!!一体いつから…。」
灯「――あの日の晩、秀一くんの家からの帰り道、あの人達 を殺したのは、あたしだ。って、警察の人やご近所さん達が言い張って、いて…。5ヶ月にも渡って、“事情聴取”という名の『尋問』をされたわ。それこそ、自白するまで締め上げられたり、ローソクのロウを身体全体に垂らされたり…。ご飯は、全く与えて貰えなかったけどね…。ハハ。」
何処か投げやりな灯里の態度に秀一は、怒りがフツフツと湧き上がってきた。もう、生きる事を諦めたようだった。
昔は、あまり寝る方ではなかったのだが、歳を取ったのか、最近は、もっとろくに眠れていない。なので、こうした休みの日は、貴重な睡眠時間なのだが、その静寂を壊す出来事があった。それは、叔母である、志保利から貰った1本の電話から始まった。
トゥルルル、トゥルルル…
灯「はいはい、今出ますよ。」
パタパタパタ。ガチャ!
灯「はい、[#dc=4#]です。」
志『こんにちは。南野です。灯里ちゃん、お元気?』
灯「あ、志保利さん。こんにちは!お久しぶりです。はい!元気にしてますよ。秀一くんとは、たまたま、同 じクラスになって席も隣で…。いつも良くしただいています。ありがとうございます。」
志「そう。なら、良かったわ。ねぇ、灯里ちゃん。」
灯「はい?」
志『たまには、家 に、お昼ごはんでも、晩ご飯でもいいから、食べに来ない?幽助くんも誘って!』
灯(始まった。“家に来い”攻撃が…。まぁ、睡魔は、飛んでくれたから、いっか!)
灯「う〜ん…。お気持ちは、とても嬉しいんですけど、2人は、あたしが実の姉だとは、知らないんですよ?なら、2人の為にも今まで通り黙ってたほうがいいんじゃ…」
志『だ・め・よ!』
灯「え?」
志『だって、いっつもそうじゃない!!“機会があれば、寄せて頂きます。”って言うだけで、なかなか来てくれないじゃない!』
灯「………あιあははは…。汗」
暫しの沈黙のあと、灯里は、古い記憶をなんとか手繰 り寄せた後、乾いた笑い声で返した。
毎日が、目まぐるしく過ぎていく為、彼女との約束も、自分の時間も持てないほど、すっかり忘れていたのだ。
否 、『忘れていた』というより、『最近、何故か体調が芳 しくないため、落ち着いたら伺うつもりだった』のだ。
しかし、志保利は、そんなことは、お構いなしで、灯里の顔を見たいが為に、プレッシャーを懸けていることに志保利は、全く気付いていない。
灯(あっちゃ〜、忘れてた〜!!なんでそんな細かい事、覚えてるの〜ιιなんて、言おう〜。“学費と生活費を稼ぐために、店を経営している”だなんて、言いたくないし!!でも、いつかは、バレる事だしな〜。どうしよ〜ιι)
志『灯里ちゃん!?ちょっと聞いてるの!?』
志保利は、何かにつけ、1人暮らしをしている姪の事が心配で心配で、たまらないようだ。
#dn=5#]「スースー。ん〜。ムニャムニャ…。美味し…そう。今度、出してみようかにゃ――。クー。」
結構、大きな寝言ですな。苦笑
南野家と葉月家の距離は、そんなに離れていないのだが…、今の灯里には、志保利の声も右から左へと流れるだけだ。『わざわざ、志保利さんから、気を遣って電話を寄越して頂いてるんだから、きちんと対応しなくては失礼にあたる。』と思い、最初は、律儀に対応していたのだが、最近では、『早く来い』、『今度は、いつ来る』、『今、何してる』攻撃が続いている。
灯(弱ったなぁ〜。志保利さんのとこには、瑞希がいるし、かと言って、温子さんのとこには、幽助がいる。なんとか3人と志保利さんを上手く言いくるめる方法は、ないかな?う〜ん……。あ!そうだ!もう言っちゃえ!!)
志『灯里ちゃん!?ちょっと〜!?』
灯「ハ、ハイ。聞いてます、聞いてます!いつ来るのか?って事ですよね?」
志『そうよ!ちゃんと聞いてるじゃない!!偉い、偉い!!』
なんとかして、この場をどう乗り切るかは、灯里自身にかかっている。
灯(そういえば、昔、蔵馬お兄ちゃんに『面倒な相手を傷付けず上手く躱 す方法がある』って、言って、教えて貰ったっけ。良し!一か八か、試してみよう!!営業ボイスで!!)
灯「あ、あの、志保利、さん。」
志『なぁに?』
灯「あの、前に瑞希ちゃんと一緒に来られたお店、覚えてらっしゃいますか?」
志『?えぇ、覚えてるわ〜。とても感じの良いバイトの子が確かいたのよねぇ。』
灯「それはそれは、ありがとうございます。」
志『?なんで、灯里ちゃんが、お礼を言うの?』
灯「だって、あのバイトの子は、あたしですから!ニコッ」
志『∑エェェェェ!!??う、嘘でしょう!?』
灯「いえ、嘘じゃないですよ。あたしです♪」
志『じゃ、じゃあ、あのお店は…。』
灯「今は、あたしが引き継いでやっています。ニコッ。もちろん、学校にも、警察にも届けてますし、調理師免許も衛生管理士資格も持っていますので、ご安心を。それで、ご相談なんですが、もし、南野くんと瑞希ちゃんと幽助くんの3人とお2人の都合が合えば、皆さんを店に招待したいのですが、それでも構わないでしょうか?そうすれば、ゆっくり出来るし、店は、貸し切りにも出来ますよ♪(ここで一気に畳み掛ける!!)」
志『あら!そうなの!?そうねぇ=3じゃあ、秀一達にも聞いてみるわね。決まったら、秀一から電話するように伝えるから。(?何か、上手く乗せられたような気がするのだけれど、気のせいかしら?)』
そんな志保利の違和感を露ともせず、灯里の『逆に巻き込む作戦』は、無事に成功した。
灯「ありがとうございます!自分のとこは、何時でも大丈夫ですので!!では、よろしくお願いします♪」 ガチャ。
灯(よっしゃ、上手くいった〜γ蔵馬お兄ちゃんに聞いといて、正解だったな〜>ε<)
これで、もう志保利からの『早く来い』攻撃は、なくなるだろう。と、たかをくくっていたが、張り詰めていた糸がプツンと切れたかのように、最近灯里は、学校で、人が変わったように、グッタリしている事が多くなっていた。
寝不足気味は、もちろん、仕込みの準備、店の算段。曜日合わせ。全て、1人で、こなさなければならない。
灯『身内で親睦会を開くためだけに、家族を優先させているシェフたちを休日出勤させるわけにはいかないし、ましてや秀一くん達にも相談するわけにはいかない。びっくりさせたいし、八方塞がりだ~!!ど〜しよ〜!泣』
そんなこんなで、昼食も、睡眠も全くと言って良い程摂ることが出来なくなっていたのだが、灯里の体調の変化にいち早く気づいたのは、同じクラスで、右隣に座っている秀一だった。
灯「〜〜!さぁ、忙しくなりそうだ!楽しみだなぁ〜!では、早速仕込みをしに行きますか!」
カチャ。バタン。ガチャ。
トントントン。キィ。カチャ。
――本日は、店長の都合上、営業はありません。ご了承下さい。――
ペタペタ。
灯「ふぅ。張り紙はしたし、後は、仕込みをするだけね。何からしようかな〜。ん〜。やっぱり、1番時間の掛かりそうなタコから行こうかな♪」
ジャー。ジャッジャッ。サク。ザクザク。ザクザク。
ボッ!ブクブク。ポチャン。キュウウ。ブツブツ。トントントン。
灯「バットの下にキッチンペーパーを敷 いて、上に網を乗せて、水気を切る。これをしないと、生臭くなっちゃうからね。」
フワリと安心する薔薇の香りと、頭を優しく撫でる大きな手と、その一言を聞いた途端、安心したのか、緊張の糸が解けたのか、疲れが、どっと押し寄せてきた。
灯「…ひゃあ、おほはひにあみゃへて…(じゃあ、お言葉に甘えて…)たへかしひゃないへほ、あいあと。(誰か知らないけど、ありがと。)クー、クー。」
?「大分 、疲れてるな。今は、ゆっくりおやすみ。灯里ちゃん。」
秀一は、再び眠りに就いた灯里を横抱きにし、店内の休憩スペースへと運び、灯里の額に濡れタオルを載せ、小さな肩まで毛布を掛けてやり、暫くの間、横に付いていた。
秀「体調の悪い時まで、頑張らなくても良いのに…。たまには、オレを頼ってよ、灯里ちゃん。キミは、ずっと独りで、泣き言1つ言わずに、ここまで頑張って来たんだから、こんな時ぐらい、甘えてよ――。」
そう小さく寂しそうに、呟いた秀一の声は、闇の中に溶けて消えた。
灯「…ん。しゅ…い、…く…。か…な、で…。」
小さく魘 され、眠っている灯里の頭を撫で、落ち着かせた途端、頬から、水がツーと、流れていることに、気付き、頬を親指でゆっくり拭ってやった。
その手の温もりに安心したのか、15歳とは思えない灯里の小さな手は、すっぽりと秀一の両手に、包み込まれた。
灯里がすっかり、落ち着いて来た頃、額の上に載せていた濡れタオルを交換しようとした時、荒い息をしているのに気づいた。
意識のない、灯里に、秀一は、一言声をかけた。
秀「灯里ちゃん、喉乾いたでしょ?お水、少しで良いから、ゆっくり飲もうか。」
未だ眠っている灯里の身体を自分の左側の胸板にぐっと引き寄せ、灯里の頭を、自分の左腕に乗せ、気道を確保した後、コップに注いでいた水を、ゆっくり慎重に右手で少しずつ飲ませたが、小さな口では、飲みきれず、コホッと小さく戻してしまう。戻した水は、喉を伝い、灯里の胸元へと届いた。
困った秀一は、眉をへの字に曲げ、『ゴメンね。』と灯里に小さく断りを入れ、水を自分の口に少し含み舌で歯を押し上げ、口を開けさせ、口移しで、水を飲ませた。
それでもなかなか飲み込めない灯里を見て、『ペースが早すぎたかな?』と少し後悔したが、それと同時に飲み込むのを恐れている灯里の背中を優しく擦 り、急かす事なく、ゆっくり飲み込むよう、促した。
それに従うように、灯里の口の中に入っていた水は、コクンと、喉を通った。
それを見た秀一は、ホッと安堵の息を漏らした。
その動作を何度かしていく内に、コップ内にあった水は、すっかり無くなっていた。
それに満足した秀一は、『よく頑張ったね』と一言灯里を褒め、頭を優しく一撫でし、コップから、水を飲ませる際、口から溢 れ、濡れた服を着替えさせるため、一旦、店の裏口から出て、2階にある、灯里の自宅に連れて行き、自室で着替えさせようと服を脱がしたその時、灯里の身体を見た秀一は、愕然とした。そこには、煙草の火を押し付けられたと思われる跡が、残っており、皮膚は、焼けただれ、おそらく、幼少期にお腹から背中、脚まで殴られたと思われる跡と、最近、鞭で叩かれたと思われる跡と真新しい殴打痕が、上に重なり合い、痣となって残っていた。
そこで秀一は、やっと合点 がいった。転校時に着ていた学ラン、体育や体育祭を『見学あるいは、実況役』という形で、人前には参加していなかった事。ウェイターで食事を運んで来る時の制服姿。四聖獣との戦いの際、戦闘服でも長袖、長ズボンを履いていた事。それらは、全て身体の痣を隠すためのものだったのだ。
いつも、直ぐ側にいたのに、何故、気付けなかったのかと、後悔の念ばかりが押し寄せてきたが、今は、灯里の着替えが先だと思い直し、『ゴメンね。』と心の中で謝りながら、あらかじめ、電子レンジで温めてあったタオルで身体全体を拭き、新しい寝間着に着替えさせた。
暫くした後、呼吸もやっと落ち着いてきて、濡れタオルを額に乗せ、トントンと寝かしつけ始めた――。
灯「…や、しゅ、ち、く…。ぃ、か、な、で…やっ、いや、イヤーッ!ッハ!ハァハァ、ハァハァ。」クラッ。
次に灯里が再び目を覚ました時は、既に昼前になっており、慌てて飛び起きたその時、目眩がし、後ろに倒れそうな感覚に襲われた時、傍にいた秀一の大きな手によって、抱きとめられた。
秀「おはよう、灯里ちゃん。気分は、どう?」
灯「…しゅ、秀、一、くん?どうして、ここ、に?」
秀「仕込みの最中に倒れたんだよ。」
灯「へ?たお、れた?」 パチクリ。
秀「うん。」
灯「誰が?」
秀「灯里ちゃんが。」
灯「うそ…。」
秀「ホント。」
灯里は、LEAF MOONのメニューに加えられそうな料理の参考にするため、料理番組を見ていた。
灯(う〜ん。この料理、もし出すとするなら、低価格でないと無理だな。簡単なもので、お腹も心も満たされる物でないと…。何か、代用品になる物となれば、タコ…。タコ、イカ、鯛のアラ、キャベツ半玉。豚肉は、高いから、鶏のササミ辺りかな?それから――。あ〜、ダメだぁ!眠気が…。ま、負けそうι
1度寝ると、もう起きれないかもしれない。誰かぁ!この睡魔を止めてぇ!!あ、そういえば!一回、お店の売上金、今いくらあるのか、計算してみたほうが良いかもしれないな。ひょっとしたら、採算合ってないかも…。)
ガバッ!!
灯「良し!思い立ったが吉日!行動あるのみ!やるぞ〜!!オーッ!」
気合いを入れて
ガサゴソ、ガサゴソ。
灯「う〜ん。何処に片付けたっけ。確か、この辺に…。あ、あったぁ〜!こんな所に!!良かったぁ。見つからなかったら、どうしようかなと思ってたから…。さて、戻って計算しますか!」
☆ゴン!☆
灯「〜っ!!
灯里は、『LEAF MOON』の
探しものをしながらあちこちに目をやったため、注意力散漫になり、机の下にいることを忘れ、立とうとしたために頭をぶつけてしまったのだ。
今のは、相当痛かっただろう。ご愁傷さまです。(勝手に殺さないで〜汗)
涙目になりながらも、売り上げ金の
ドンガラガンガラガッシャン!!パリーン!
派手な音を立て、嫌な音が背後から聞こえた。
灯里は、恐る恐る後ろを振り向いた。
灯(見たいような、見たくないような…。)
ドッドッドッ、ドッドッドッ。
灯「∑ひゃあ!!びっくりしたぁ〜。ん?な、な、何よこれ〜!!」
サァー|||
見事に、お鍋や食器をひっくり返してしまっていた。
灯「……。フェ〜ン!ιιι誰が、片付けんのよ、これ〜!!泣」
もちろん、貴女です。
バタバタバタ。
コンコン。
大家『ど、どうしたの!?凄い音が聞こえたから、気になって来てみたのよ…?』
灯「あ、す、すみません。
大家『何も、ないなら良いんだけど…。もし、手伝えることがあったら、何時でも言ってね。』
灯「は、はい。ありがとう、ございます。」
トントントン。
灯「ホッ。…あ〜、ドキドキしたぁ。
もぅ!!何で、こんな事になったのよ〜!!はぁ=3。やらなきゃいけないないことは、山程あるのにぃ〜〜。ブツブツ
洗濯物畳まなきゃいけないし、割っちゃった分の掃除や、洗い桶に入ってるお茶碗洗って、拭いて片付けて…。∑わ〜!宿題もしなきゃ!」
ズーン。
灯「あ〜!!思い出しただけで
カチャカチャ。カチャカチャ。
――しばらくお待ち下さい。――
灯「ふぅ。なんとか割れたお茶碗は、綺麗に片付いたね。でも、取り敢えず掃除機掛けといた方が、良いかも…。小さな破片があるかもしれないし、これで、怪我とかしたら、もっと大変な事になるもんね!傷は小さい方が良いし…。」
ガー。ガー。チリチリ。ジャリ、ジャリ、ジャ、リ。ガリ。キュウウ…。
ドッカ~ン!!プスプスプスプス…。カタカタカタ。
灯「………。ケホッ。コホッ。ゴホッ。もう、何が起きても動じない事にしよう。この掃除機は、明日の『大型ゴミ』に出そう。はぁ=3
お金がなくて、使い勝手の良い奴に限って、壊れるんだからぁ!!あぁ〜、誰か、譲ってくれないかなぁ?まぁ、寿命だったし、買い換え時かもね。でも、窓は開けようかな。結構、埃っぽいし。あ。下の掃除機を上に持って来てもいいんだよね?良〜し!取ってこよう!」
ガラッ!!
カチャ。タタタタタ。
ガチャ。ゴソゴソ。
秀「ん?今の、灯里ちゃん、だよね?どうしたのかな?」
秀一は、気になって灯里の後を、そっと追いかけたが、俊足の秀一の足をもってしても、灯里には、追い付けない。
『こんなに速いのに、何で、普段の体育は、見学なんだよ~!』と、心の中で愚痴ったのは、ここだけの話。笑
秀「ハァ、ハァ。やっ、と、追い、付い、た…。ゼー、ハー、ゼー、ハー。(やはり、1000年以上も生きていると、体力も落ちるのか。見た目は高校生なのに。)」
一方、LEAF MOONではー
ガサゴソ、ガサゴソ。
灯「あ!あった、あった。良かった〜、今日が定休日で。定休日でもない限り、お店休めないし、たまには、お店のメンテナンスも必要だよね。って、事は、お店の掃除も追加になるよね…。ιう〜ん。でも、こうして見ると、結構広いんだね。全然気付かなかった。ん〜。取り敢えず、
秀(オイオイ、1人で全部やるつもりかぁ〜?無茶だよ。う〜ん…。ゴソゴソ。あ!丁度ヘアゴムがあるから、ポニーテールにしといたら、邪魔には、ならないよね。それに、今日に限って動きやすい格好だし、暇つぶしには、丁度良いか。)
キュ。パチン。
秀一は、長い赤色の髪をヘアゴムで解けないようにしっかり、くくった。
コンコン。
灯「はい、はぁい!今行きますよ〜!!」
ガチャ。ガチャ、ガチャ。
キィ。チリンチリン。
灯「あ、すみません。今日は、定休日でお店開けてないんです、よ…。」
灯里は、視線の先に立っている意外な人物に、目を
秀「こんにちは、灯里ちゃん。」
灯「しゅ、秀一くん!?どうしたの?今日、お店休みだよ?」
秀「うん。それは知ってるんだけど、店の掃除、するんでしょ?オレも混ぜてよ。ニコッ」
灯「なんで、あたしが店の掃除するの知ってるの?」
秀「ん〜?さっきたまたま見かけたから。これじゃ理由にならない、かな?」
灯「ううん!来てくれて嬉しい!ありがとう!!人手が足りなかったから、良かった〜。もの凄く助かるよ!!」
灯里の顔は、瞬く間にパァッと明るくなった。
秀(良かった。思い切って声かけて…。なんだ。たったこれだけの事なら、幾らでも力になるからね、灯里ちゃん。)
灯「じゃあ、早速で、悪いんだけど、全席のテーブルをから拭きして、床に落してくれる?」
秀「分かった。その後にやることってあるかな?」
灯「う〜ん。あ、そうそう!椅子をテーブルに上げた後、
秀「そ、そんなに沢山!?」
灯「だって、なかなか掃除出来てなかったもん。それにさっき見たら、ボックス席の方が汚れ酷いから、あたしは、そっちをやるね。」
秀「じゃあ、オレは、テーブル席とカウンター席をやれば良いんだね?」
灯「うん。結構多くて悪いんだけど、お願いします♪」
秀「了解!オレの方は気にしないで良いからね。」
灯「ありがとう!後で、何か奢るね。」
秀「そんなに、気を遣わなくて良いのに…。」
拭き拭き。
ゴシゴシ。
2人は、話しをしていても、テーブルを拭く手は、全く止まっていない。
とても器用だ。
灯「でも、お願い。させて?キュウン」
秀「ん〜。じゃあ、お言葉に甘えようかな。(う…。わざとじゃないんだろうけど、灯里ちゃんに、あんな顔されたら、断わる訳にはいかないな。)」
灯「ありがとう!パァ」
秀「どういたしまして。ニコッ」
灯「良し、あと1席!」
秀「オレの方も終わったよ。」
灯「ありがとう!もの凄く助かったよ〜!疲れたでしょ。ちょっと早いけどお昼ごはんにしよっか!」
秀「え!?もうそんな時間!?」
ふと、時計を見ると、まだ10時を回ったところだったのだ。
灯「…うん。」
秀「どうしたの?歯切れ悪いけど?」
灯「あの、実は、まだ片付いてなくて…。」
秀「どこが?」
灯「そ、それはあの…。あ、お昼チャーハンでも良い?サラダとデザート付きで!」
ヒョコ。
秀「うん、それで良いよ。」
灯「ご飯多めでも大丈夫?」
秀「うん、ありがとう!とても助かるよ。朝から何も食べてなくて…。」
灯「え!そうだったの!?だったら早く言ってよ〜。掃除ぐらい後回しにしたのに…。」
ジャー。
カッカッカッ。
中華鍋を小さな身体で振る灯里を見ていると、やはり、『力になりたい』と、思わずにはいられない。
秀「ねぇ、何か手伝える事ない?」
灯「う〜ん。じゃあ、丸皿にサラダを盛り付けてくれる?あ、ちゃんと手洗いはしてね!」
秀「はぁい!」
ジャー。クルクルクル。
ゴシゴシ。ガラガラガラー、ペッ。
灯(こういうところはきちんとしてるから、安心出来るんだよね。フフ。)
秀「どうしたの?何か、楽しそうだね。」
どうやって持っていこうかな…。――こんな時、秀一くんがいてくれたらな…。ボソ」
秀「オレで良ければ、持っていこうか?」
噂をすれば、なんとやら。働かない頭を何とか動かしてみるも、流石に女性1人で持ち上げる事は、出来ない。かと言って、わざわざ来てもらうのも気が引ける。そんな事とは、露知らずでも、偶然通りかかった秀一が、
灯
灯
カタカタカタ。
カリカリカリ。
電卓を打つ音と、帳面に付ける鉛筆の音が静かな部屋に響き渡る。
灯(やっぱりそうだ。幽助くん達が店に来た時に限って合ってない。大抵、秀一くんが4人分を多めに出してくれてるけど…。う〜ん。ここの提供価格自体が安いからなぁ。メニュー全体を見直した方が良いかもしれないな。それと、試験的にだけど、次回ご来店時、このメニューの中で1番高い物を
実は、ここ、灯里が店の裏口から徒歩0.05分という、なんとまぁ便利な土地で、高校生の灯里が、3軒繋がった長屋を、大家の武村優里さんから『このオンボロ長屋には、もう誰も住んでいないし、元々売り払うつもりだったから、全部で3万円前後で、買い取ってくれるんなら家賃はいらないよ。』と言われ、2万3千円で買い取り、快適に住みやすく、動きやすい導線を造り、両端のドアには鍵やチェーンロックは一切付けず、真ん中のドアだけに鍵を付け、両内側で一続きの家として住んでいる。
『家賃は、要らない』と言われたが、家賃の代わりに、光熱費諸々を店の売り上げ金から、支払う事になっている。
灯「水道代、電気代、ガス代、学費、生活費…。もう、カツカツだ。お昼ごはんは、店の残り物を詰めて行くとして、ネックは晩ごはんだ。最近、体調が良くないから、店を開ける事が出来ないんだよね…。お昼ごはんの残りを冷蔵庫に入れて、晩ごはんに回しても良いんだよね?お風呂も本当はゆっくり湯船に浸かりたい所だけど、シャワーにしたとして…。うん!
問題は…、洗濯物だ!
1から水を張ると大変だから、湯船の残り湯を
それから、乾いてる洗濯物を畳んでいかないと後々、大変な事になる〜!!
自分のケアも早く、どうにかしなきゃ。このままじゃ、いつ倒れるか分かったもんじゃない。う〜ん。
あぁ〜!!もう!!どうすれば良いの〜!?」バンッ!!
(∑ハッ!真夜中にも関わらず、思わず大声で叫んでしまった。どうしよう…!!)
カッカッカッ。カッカッカッ。
足早にLEAF MOONの前を通り過ぎる人影が1つあった。
秀(ふぅ。やっとゆっくり出来るな。まさか、あんな下っ端妖怪に、ここまで手こずるなんて…。
平和ボケしている証か。早く、妖力が元に戻ってくれたら、1番良いんだがな。――ん?明り、まだ付いてる。どこだ?あ!LEAF MOONか。はぁ。ここの所、ずっと起きてるよなぁ。ハァ=3
秀一は、[#dc=1#]の裏口から漏れる明りに毒づいた。そして、その一抹の不安が的中することになる。
灯『あぁ〜!!もう!!どうすれば良いの〜!?』バンッ!!
ビクッ!
暗闇の静寂を切り裂く様に、灯里の一際大きな声が聞こえてきた。
秀「な、何だ?今の声は!まさか、灯里ちゃんに何かあったのか!?」
嫌な胸騒ぎを覚えた秀一は、自宅へと向いていた
カンカンカン!カンカンカン!
ドンドン!ドンドン!
夜中にも関わらず、秀一は、灯里の家の扉を叩いた。
秀「灯里ちゃん!どうしたの!?くそっ!開かない!…待てよ。両側のドアには、確か、鍵もチェーンも付いてないんだよな?」
秀一は、焦っていた自分を落ち着かせてから、どのドアを開けたら、短距離で行けるか
秀「灯里ちゃん!!入るよ!?」ガチャ。
そこで秀一が見た光景は、何とも悲惨な状態で、声の主は、小さすぎて、一体何処にいるのか分からない。
取り敢えず、『お邪魔します。』と、律儀に挨拶をし、靴を綺麗に揃えて上がった。
秀「灯里ちゃ〜ん!どこにいるの〜!?お〜い!」
灯「…こ、ここ〜!」
秀「ここ!?」
バサバサ。ガサガサ。ヒョコ。
秀「あ、灯里ちゃん。は〜、良かったぁ〜。無事で。」
ヘナヘナ。
秀一にしては、珍しく取り乱していたが、灯里の顔を見た途端、疲れと呆れが同時にどっと押し寄せ、気付いたら、無意識に小さい子を抱き上げる様に、自分の膝の上へ向かい合わせになるように座らせ抱きしめていた。
秀一の大きな手が、そっと灯里の頭に乗せ、ポンポンとリズム良く安心感を与える。
灯「ご、ごめんね。秀一くん。びっくりさせて。」
秀「いや、大丈夫だけど、一体何があったの?」
灯「…え、えっと、とても言い
心細そうに、恐る恐る秀一の腕の中で灯里が、漸く発した言葉だった。
秀「ニコッ。もちろん。オレで良いなら、喜んで。」
その、安心出来る腕の中で、安心出来る言葉で、優しく落ち着いた声で、『自分を肯定してくれる人がここにいる。』と言うだけで、張り詰めていた糸が少しずつ
灯里の
キュ。
灯「…ック。ヒック。ウェ〜ン。しゅ、ち、く…。うああん!ああ〜ん!フェッ…。フック…。ヒゥッ…。う〜…。」
自分の腕の中で泣く灯里は、まるで、『子どものように彼女の感情が読み取れない。』と思うほど小さく見え、思わず綺麗に整った眉を辛そうにしかめた一方、秀一は、灯里が、やっと自分の腕の中でわんわん泣いてくれた事に安心していた。
今までは、鉄の仮面を被っていて感情を表に出した事は1回もなかったからだ。
そんな彼女が、唯一弱味を見せる事が出来るのは、秀一の前だけでだった。小さな背中をトントンと、幼い子どもをあやす様に、今までの苦労を
秀一は、そんな仕草をチラッと盗み見て、『そういえば、魔界である女の子もオレの髪の毛を握りしめながら眠っていたな。』と子守唄を歌いながら、ふと昔を思い出していた。
改めて灯里の部屋をゆっくり見回してみると、あちこちにハンガーに掛けられたままになった洗濯物が、1箇所に集められていた。これから畳むつもりだったのだろう。
洗い桶には、溜まっているお茶碗の洗いかけ。
ふと、食卓テーブルの方へ目をやると、売り上げ金の帳面と、計算をするために電卓が出っ放しになっていた。
秀「ん?売り上げ金の帳面か?ちょっとだけ見てみようかな…。って、これ、全部1人で計算するつもりなのか!?無理があるだろう…。」
灯「……ん…。」
灯里が一瞬、小さく身じろぎをしたが、起きる気配はまだない。それもそうだ。
目元には、
灯
1時間後―――
灯
秀一の腕の中で、
灯「スースー。ん〜。ムニャムニャ…。美味し…そう。今度、出してみようかにゃ――。クー。」
結構、大きな寝言ですな。苦笑
秀『夢の中でも仕事か。少し休まないと身体に毒だぞ?』
――1時間経過
灯カクン。「ーハッ。いつの間にか寝てた。う〜ん。よく寝たなぁ。」伸びをしようとしたら、隣から毎日聞き慣れた、暖かくて優しい声がした。
?「ホントに、よく寝てましたよ。まるで、疲れを取るかのように―。クスクス。まだ寝てても良いですよ。」
灯「…ゴメンね、秀一くん。せっかく来てくれたのに、制服汚しちゃって。」
秀「いや、大丈夫だよ。最近、顔色が悪いから、少し心配だったんだ。それより、何時もこんな時間に寝てるの?」
灯「ん。これでも早いくらい。昔に比べると身体は楽、かな…。前は、河原で寝てたから。布団なんて、そんな上等な物なんてないし、ダンボールが1枚あれば、良い方だから笑」
秀「∑え!?『河原で寝てたから』って、いつ頃!?」
灯「ん〜、6歳ぐらい、かな?言ってなかったっけ?あたし、1度死んでるんだよ。『監獄に入ってまで
秀「笑い事じゃないよ!!一体いつから…。」
灯「――あの日の晩、秀一くんの家からの帰り道、
何処か投げやりな灯里の態度に秀一は、怒りがフツフツと湧き上がってきた。もう、生きる事を諦めたようだった。
昔は、あまり寝る方ではなかったのだが、歳を取ったのか、最近は、もっとろくに眠れていない。なので、こうした休みの日は、貴重な睡眠時間なのだが、その静寂を壊す出来事があった。それは、叔母である、志保利から貰った1本の電話から始まった。
トゥルルル、トゥルルル…
灯「はいはい、今出ますよ。」
パタパタパタ。ガチャ!
灯「はい、[#dc=4#]です。」
志『こんにちは。南野です。灯里ちゃん、お元気?』
灯「あ、志保利さん。こんにちは!お久しぶりです。はい!元気にしてますよ。秀一くんとは、たまたま、
志「そう。なら、良かったわ。ねぇ、灯里ちゃん。」
灯「はい?」
志『たまには、
灯(始まった。“家に来い”攻撃が…。まぁ、睡魔は、飛んでくれたから、いっか!)
灯「う〜ん…。お気持ちは、とても嬉しいんですけど、2人は、あたしが実の姉だとは、知らないんですよ?なら、2人の為にも今まで通り黙ってたほうがいいんじゃ…」
志『だ・め・よ!』
灯「え?」
志『だって、いっつもそうじゃない!!“機会があれば、寄せて頂きます。”って言うだけで、なかなか来てくれないじゃない!』
灯「………あιあははは…。汗」
暫しの沈黙のあと、灯里は、古い記憶をなんとか
毎日が、目まぐるしく過ぎていく為、彼女との約束も、自分の時間も持てないほど、すっかり忘れていたのだ。
しかし、志保利は、そんなことは、お構いなしで、灯里の顔を見たいが為に、プレッシャーを懸けていることに志保利は、全く気付いていない。
灯(あっちゃ〜、忘れてた〜!!なんでそんな細かい事、覚えてるの〜ιιなんて、言おう〜。“学費と生活費を稼ぐために、店を経営している”だなんて、言いたくないし!!でも、いつかは、バレる事だしな〜。どうしよ〜ιι)
志『灯里ちゃん!?ちょっと聞いてるの!?』
志保利は、何かにつけ、1人暮らしをしている姪の事が心配で心配で、たまらないようだ。
#dn=5#]「スースー。ん〜。ムニャムニャ…。美味し…そう。今度、出してみようかにゃ――。クー。」
結構、大きな寝言ですな。苦笑
南野家と葉月家の距離は、そんなに離れていないのだが…、今の灯里には、志保利の声も右から左へと流れるだけだ。『わざわざ、志保利さんから、気を遣って電話を寄越して頂いてるんだから、きちんと対応しなくては失礼にあたる。』と思い、最初は、律儀に対応していたのだが、最近では、『早く来い』、『今度は、いつ来る』、『今、何してる』攻撃が続いている。
灯(弱ったなぁ〜。志保利さんのとこには、瑞希がいるし、かと言って、温子さんのとこには、幽助がいる。なんとか3人と志保利さんを上手く言いくるめる方法は、ないかな?う〜ん……。あ!そうだ!もう言っちゃえ!!)
志『灯里ちゃん!?ちょっと〜!?』
灯「ハ、ハイ。聞いてます、聞いてます!いつ来るのか?って事ですよね?」
志『そうよ!ちゃんと聞いてるじゃない!!偉い、偉い!!』
なんとかして、この場をどう乗り切るかは、灯里自身にかかっている。
灯(そういえば、昔、蔵馬お兄ちゃんに『面倒な相手を傷付けず上手く
灯「あ、あの、志保利、さん。」
志『なぁに?』
灯「あの、前に瑞希ちゃんと一緒に来られたお店、覚えてらっしゃいますか?」
志『?えぇ、覚えてるわ〜。とても感じの良いバイトの子が確かいたのよねぇ。』
灯「それはそれは、ありがとうございます。」
志『?なんで、灯里ちゃんが、お礼を言うの?』
灯「だって、あのバイトの子は、あたしですから!ニコッ」
志『∑エェェェェ!!??う、嘘でしょう!?』
灯「いえ、嘘じゃないですよ。あたしです♪」
志『じゃ、じゃあ、あのお店は…。』
灯「今は、あたしが引き継いでやっています。ニコッ。もちろん、学校にも、警察にも届けてますし、調理師免許も衛生管理士資格も持っていますので、ご安心を。それで、ご相談なんですが、もし、南野くんと瑞希ちゃんと幽助くんの3人とお2人の都合が合えば、皆さんを店に招待したいのですが、それでも構わないでしょうか?そうすれば、ゆっくり出来るし、店は、貸し切りにも出来ますよ♪(ここで一気に畳み掛ける!!)」
志『あら!そうなの!?そうねぇ=3じゃあ、秀一達にも聞いてみるわね。決まったら、秀一から電話するように伝えるから。(?何か、上手く乗せられたような気がするのだけれど、気のせいかしら?)』
そんな志保利の違和感を露ともせず、灯里の『逆に巻き込む作戦』は、無事に成功した。
灯「ありがとうございます!自分のとこは、何時でも大丈夫ですので!!では、よろしくお願いします♪」 ガチャ。
灯(よっしゃ、上手くいった〜γ蔵馬お兄ちゃんに聞いといて、正解だったな〜>ε<)
これで、もう志保利からの『早く来い』攻撃は、なくなるだろう。と、たかをくくっていたが、張り詰めていた糸がプツンと切れたかのように、最近灯里は、学校で、人が変わったように、グッタリしている事が多くなっていた。
寝不足気味は、もちろん、仕込みの準備、店の算段。曜日合わせ。全て、1人で、こなさなければならない。
灯『身内で親睦会を開くためだけに、家族を優先させているシェフたちを休日出勤させるわけにはいかないし、ましてや秀一くん達にも相談するわけにはいかない。びっくりさせたいし、八方塞がりだ~!!ど〜しよ〜!泣』
そんなこんなで、昼食も、睡眠も全くと言って良い程摂ることが出来なくなっていたのだが、灯里の体調の変化にいち早く気づいたのは、同じクラスで、右隣に座っている秀一だった。
灯「〜〜!さぁ、忙しくなりそうだ!楽しみだなぁ〜!では、早速仕込みをしに行きますか!」
カチャ。バタン。ガチャ。
トントントン。キィ。カチャ。
――本日は、店長の都合上、営業はありません。ご了承下さい。――
ペタペタ。
灯「ふぅ。張り紙はしたし、後は、仕込みをするだけね。何からしようかな〜。ん〜。やっぱり、1番時間の掛かりそうなタコから行こうかな♪」
ジャー。ジャッジャッ。サク。ザクザク。ザクザク。
ボッ!ブクブク。ポチャン。キュウウ。ブツブツ。トントントン。
灯「バットの下にキッチンペーパーを
フワリと安心する薔薇の香りと、頭を優しく撫でる大きな手と、その一言を聞いた途端、安心したのか、緊張の糸が解けたのか、疲れが、どっと押し寄せてきた。
灯「…ひゃあ、おほはひにあみゃへて…(じゃあ、お言葉に甘えて…)たへかしひゃないへほ、あいあと。(誰か知らないけど、ありがと。)クー、クー。」
?「
秀一は、再び眠りに就いた灯里を横抱きにし、店内の休憩スペースへと運び、灯里の額に濡れタオルを載せ、小さな肩まで毛布を掛けてやり、暫くの間、横に付いていた。
秀「体調の悪い時まで、頑張らなくても良いのに…。たまには、オレを頼ってよ、灯里ちゃん。キミは、ずっと独りで、泣き言1つ言わずに、ここまで頑張って来たんだから、こんな時ぐらい、甘えてよ――。」
そう小さく寂しそうに、呟いた秀一の声は、闇の中に溶けて消えた。
灯「…ん。しゅ…い、…く…。か…な、で…。」
小さく
その手の温もりに安心したのか、15歳とは思えない灯里の小さな手は、すっぽりと秀一の両手に、包み込まれた。
灯里がすっかり、落ち着いて来た頃、額の上に載せていた濡れタオルを交換しようとした時、荒い息をしているのに気づいた。
意識のない、灯里に、秀一は、一言声をかけた。
秀「灯里ちゃん、喉乾いたでしょ?お水、少しで良いから、ゆっくり飲もうか。」
未だ眠っている灯里の身体を自分の左側の胸板にぐっと引き寄せ、灯里の頭を、自分の左腕に乗せ、気道を確保した後、コップに注いでいた水を、ゆっくり慎重に右手で少しずつ飲ませたが、小さな口では、飲みきれず、コホッと小さく戻してしまう。戻した水は、喉を伝い、灯里の胸元へと届いた。
困った秀一は、眉をへの字に曲げ、『ゴメンね。』と灯里に小さく断りを入れ、水を自分の口に少し含み舌で歯を押し上げ、口を開けさせ、口移しで、水を飲ませた。
それでもなかなか飲み込めない灯里を見て、『ペースが早すぎたかな?』と少し後悔したが、それと同時に飲み込むのを恐れている灯里の背中を優しく
それに従うように、灯里の口の中に入っていた水は、コクンと、喉を通った。
それを見た秀一は、ホッと安堵の息を漏らした。
その動作を何度かしていく内に、コップ内にあった水は、すっかり無くなっていた。
それに満足した秀一は、『よく頑張ったね』と一言灯里を褒め、頭を優しく一撫でし、コップから、水を飲ませる際、口から
そこで秀一は、やっと
いつも、直ぐ側にいたのに、何故、気付けなかったのかと、後悔の念ばかりが押し寄せてきたが、今は、灯里の着替えが先だと思い直し、『ゴメンね。』と心の中で謝りながら、あらかじめ、電子レンジで温めてあったタオルで身体全体を拭き、新しい寝間着に着替えさせた。
暫くした後、呼吸もやっと落ち着いてきて、濡れタオルを額に乗せ、トントンと寝かしつけ始めた――。
灯「…や、しゅ、ち、く…。ぃ、か、な、で…やっ、いや、イヤーッ!ッハ!ハァハァ、ハァハァ。」クラッ。
次に灯里が再び目を覚ました時は、既に昼前になっており、慌てて飛び起きたその時、目眩がし、後ろに倒れそうな感覚に襲われた時、傍にいた秀一の大きな手によって、抱きとめられた。
秀「おはよう、灯里ちゃん。気分は、どう?」
灯「…しゅ、秀、一、くん?どうして、ここ、に?」
秀「仕込みの最中に倒れたんだよ。」
灯「へ?たお、れた?」 パチクリ。
秀「うん。」
灯「誰が?」
秀「灯里ちゃんが。」
灯「うそ…。」
秀「ホント。」
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