象牙の塔シリーズ② 進藤先生は今日もゴキゲン

戸田へ

今回は、本当に迷惑をかけて申し訳ない。
悪いのは俺です。あいつらではありません。

お前を好きになってしまってからの俺は、欲張りになってしまったようです。
お前と出会えた。それなのに、それだけじゃ幸せなことだと思えない。
素敵な思い出もたくさん有る。それなのに、思い出だけでは満足できない。
俺は今、戸田が他の人と話をしていると思うと、とても苦しい気持ちになります。どうして、隣にいるのが俺じゃないのかって。

以前に戻りたいとは言いません。
あの時も、今も、お前が、ただ一言、俺の事を好きだと言ってくれるのなら、それ以上の事を望むつもりはなかったのに。
こうなったのも、きっと俺がわがままを言い過ぎたせいです。
でも、俺が本当に欲しかったのはお前の心だけです。
それが伝わらなかったら哀しいです。

言い訳みたいに聞こえるかもしれませんが、俺は今でも戸田の事が、大好きです。

進藤 規幸



手紙を元に戻すと、進藤はため息をひとつ落とした。
あの頃の自分の青臭さに、居たたまれない気持ちもあるが、自分の中の葛藤やひたむきさ、そして若すぎる情熱などを思い出し、未熟な自分に愛おしささえ感じた。
(…この頃から、たくさん変わった…)
進藤は、ギュッと唇を噛んだ。
好きになった相手が戸田だったことで、悩んだこともいっぱいあった。けれど、想いを告げ、受け止められ、ようやくこれからという時に、「あの事件」が起きた…。
事件の原因となったのは進藤自身だ。それは、悔いても、悔いても取り戻せないことだと思っていた。
それなのに…。進藤は戸田と再会し、そして…。
(…そして、この頃から、何も変わらない)
初恋が報われた自分を、進藤は幸せだと思った。
これからも変わらず、戸田を愛し続ける自分でいたいと、思った…。

間もなく、戸田の講義が終わる時間だった。
進藤は手紙を戻し、この部屋に帰って来た戸田にどんな迫り方をしようかと、悪戯っぽい瞳を輝かせた。
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