指先からあふれる
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私は昔から小十郎さんが大好きで大好きでたまらなかった。あのはにかむような笑顔が好きだ。落ち着いた、低い穏やかな声が好きだ。笑うと細められる瞳が好きだ。実は意外と子供っぽいところも、頑固なところも、全部全部ひっくるめて彼が大好きだった。
幼稚園に入って、同じすみれ組の政宗と友だちになり、初めて彼の家に招待され遊びに行った時、私はそこで初めて小十郎さんに出会った。もうその頃、彼は既に政宗のお目付け役という立場にいたわけだけれど、今帰ったぞ、と大声出した政宗と私を玄関で出迎えた彼の姿は、やはりというかなんというか当時幼稚園児だった私にとってはかなり衝撃的な印象を与えてくれた。あの歳(当時の小十郎さんはまだれっきとした学生だった)で既にがっちり固められたオールバック。黒のかっちりしたスーツに身を包み、頬の辺りには何故か刀傷。とにかくあの時は、びっくりしすぎて開いた口が塞がらなかったことだけは今でもよく覚えている。無意識に政宗の服の袖を引っ張って、帰ろう、ねぇやっぱり帰ろう、と半ば泣きながら囁いていたことも、今となってはいい思い出だ。
それから部屋に案内され、おっかなびっくり差し出されたお茶を飲んでいた私も、帰る頃には既に時間も忘れ、日が暮れても夢中になって政宗と遊んでいた。庭先に顔を出した小十郎さんに名前を呼ばれ、そこでやっと、日が落ちて辺りが暗くなっていることに気が付いた位だ。
政宗がトイレに行ってくると言い、先に玄関でしゃがみこんで靴を履こうと奮闘していると、不意に背後から小十郎さんが声を掛けてきて、私はそれはもう驚いてびくりと肩を揺らした。ごちそうさまでしたとか、ありがとうございましたとか、今日は楽しかったですとか、気の利いた一言も言えなかった私は、ただ黙ってあちこちと視線を漂わせていることしか出来なかった。
しかし彼は、
「今日は、政宗様と遊んでくれてありがとうな。」
ふっと穏やかに目を細めて、
「もしよければ、これからも政宗様と仲良くしてさしあげてほしい。」
そう言って、私の頭を優しくなでてくれたのだ。そんな小十郎さんに、私は、初め彼に対して抱いていた印象をこの時ガラリと大きく変えられたことを実感した。そして私が小十郎さんに恋に落ちたのも、多分この時だったと思う。政宗の家に遊びに行って帰ってきたその日の夜、私は始終小十郎さんについてなんとも嬉しそうに話していたと後になって両親から聞かされた。
それから小学校、中学校、高校と、私はなにかと政宗とつるむことが多くなっていた。馬が合う、というか政宗とはお互い友人として、家族と過ごす時間とはまた違った居心地の良さを感じていた。気兼ねなく話せる相手という点で、私は政宗は最高の友人だと思っていた。私の自惚れじゃなければ、多分政宗も私のことをそう思ってくれていたのだと思う。何か相談したいことや悩みがあれば、私はいつも真っ先に政宗に話していた。それはまた、政宗もしかりだ。女の子の友達も男の子の友達ももちろん他にも大勢いたわけだが、やはり政宗は特別だったのだ。
高校卒業を間近に控えた私と政宗は、その日もいつものように屋上で並んで昼食をとっていた。
私の話はいつも小十郎さんに始まり小十郎さんに終わる。あの衝撃の出会いからはや13年、なんとまぁ健気なことに、私は、あの日からずっと小十郎さんに壮絶な片想いをしていたのだ。――13年。思い返せば気の遠くなるような数字だ。途中何度か素敵な男の子たちにも出会った。恋に落ちるには十分過ぎるほど素敵な男の子。よくよく考えてみれば、幼なじみである政宗だって俗に言う十分「イイ男」だ。しかし、私の心は変わらない。いつもどこかであの日の小十郎さんの影が私を捕らえて放さないのだ。小十郎さんは私の憧れで、理想で、今までもこれからも私の永遠だと思っていた。
ずっと、ずっとだ。
→
1/4ページ