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きせつのもの

ボンゴレ屋敷がおかしな事になっている。
雲の守護者、雲雀恭弥はきわめて冷静に事態を見た。
「君の頭。なんで、そうなってるの?」
問う相手は雨の守護者、山本武。彼はいつもと変わらない様子でへらへらと笑い、こう答えた。
「ツナにやられちまった」
――彼の頭には、髪と同じ色をした猫耳が生えていた。
雲雀はちいさく溜息を吐いた。
「君も、だね」
山本だけではない。先ほど会った笹川や獄寺も、それぞれ猫耳を生やしていた。つまらない飾りだね、と雲雀はからかいもせず猫耳を引っ張り、盛大に痛がられた。
どうやらそれは飾りではなく、感覚を持って「生えている」らしい。
その状況について問うと、全員が「沢田綱吉にやられた」と回答した。
「被害にあってない守護者は雲雀だけと思うぜ」
笑う山本の言葉に雲雀は溜息を吐いた。どうやら自分がまだその被害に遭っていないのは、沢田綱吉と出くわしていないから。ただそれだけの偶然らしい。
遅かれ早かれ、魔の手は雲雀に迫るだろう。そして不幸なことに、雲雀も沢田綱吉に用事がある。
(不穏な事をしたら咬み殺してやる)
決意して雲雀は黒猫耳を振るわせる山本に聞いた。
「沢田は?」
「執務室じゃねえか」




「沢田、いるんでしょう」
ノックすらせず、雲雀は執務室に押し入る。
「雲雀恭弥、ノックくらいしなさい」
その行為を咎めたのは、霧の守護者の片割れ、六道骸だった。もう一人の霧、クローム髑髏を連れて彼は雲雀の前に立つ。
「ボンゴレに何か用件ですか?」
「…………」
ちいさな二人の守護者を雲雀は見下ろす。
案の定、骸にもクロームにも、それぞれ髪色と同じブルーブラックの猫耳が生えていた。更に二人は同じデザインの黒服を着ている。
「出かけるのかい?」
雲雀の問いかけに、骸はまさか、と首を横に振った。
「猫耳で外に出るなんて何処の馬鹿がしますか」
「ぼすのおねがいだったの」
ちいさな声でクロームは言う。散々沢田綱吉に甘やかされている二人は、逆に綱吉に対して甘い。
「あれ、雲雀さん」
奥から現れた綱吉は、茶トラの猫耳を生やしていた。
「やあ」
「ちょうどよかった。呼ぼうと思ってたんです」
綱吉の笑顔の奥に、雲雀は不穏なオーラを感じ取る。
そもそもこういうトンデモ状態において、沢田綱吉は誰よりも早く諦めをもって順応する。そして、周りを巻き込んで騒ぎを起こすのだ。
丁度今のように。
綱吉が口を開く前に雲雀は猫耳を指差し、突っ込みを入れた。
「何それ、ふざけてるの?」
「リボーンにやられたんですよ」
元家庭教師の名を挙げ、綱吉はポケットから瓶を取り出した。その中には薄茶色の飴玉が、幾つか入っている。
「ヴェルデ特製のミラクル★キャンディです」
「ワオ。怪しい事この上ないね」
マッドサイエンティストが作った飴玉。当然、マトモなものではない。雲雀の言葉を、綱吉は肯定した。
「怪しいですよね。で、食べたら猫耳が生えます」
自分の頭に生えた猫耳を指差して綱吉は説明する。どうやって食べさせたのかは不明だが、それを使って猫耳人間を増殖させたらしい。
彼は瞳を輝かせて雲雀の黒髪を見た。
「雲雀さんきっと綺麗な黒猫になりますよ!」
「なに、それで僕にタンゴでも踊らせたいの?」
「それはもうやりました」
呆れた様子の骸が口を挟む。二人の子供が黒服を着せられていた理由を察し、雲雀は溜息を吐いた。
「……そう」
「雲雀さん雲雀さん、かぎ尻尾の黒猫になってください!」
瓶を両手で差し出して綱吉は懇願する。だが、雲雀はそれを冷たく跳ね除けた。
「生憎だけど沢田、僕は雪道を走るつもりも聖なる騎士になるつもりも無いよ」
「ですよね、でも」
瞬間、綱吉の額に橙色の焔が灯った。琥珀色の瞳も、瞬きの間に橙に色を変える。
「死ぬ気で食わせます!」
「やれるものならやってごらん。その前に咬み殺す」
雲雀もトンファーを取り出し冷笑した。
睨みあう綱吉と雲雀に深い溜息を吐いて、骸はクロームの手を引いた。
「逃げましょう。というかほっときましょう」
「……うん」
心底呆れた様子の骸に、クロームも同意する。止めても無駄だということははっきりしている。大体、彼らを止められる技量を持った人間など、いないのだ。
二人は執務室の扉に手をかけ、ふと綱吉に振り返った。
「ボンゴレ、終わったら呼んでください。僕達は避難しています」
「ぼす、おへやこわしたらだめだよ」
扉が閉まる音が、戦闘開始の合図となった。
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