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彼らと僕らの過ごす日々

無防備な背中にもたれ、しなやかな胴体をぎゅうと抱きしめる。その瞬間、びく、と獄寺君の体が引きつるのが分かった。
だから、君を抱きしめるのはいつも少しだけ、かなしい。
何だかんだ言って、獄寺君は接触が苦手だったりする。抱きしめられたり、触られたりするといつも少しだけ身構えて、その相手がオレだったりすると落ち込んだりする。
今も。
「十代目」
しょげた声。「すみません」の言葉が出る前に、オレは獄寺君の背中に頭を押し当てて言った。
「いい天気だね」
思い切り、話題を転換。獄寺君は頷いたようだった。
「そうっスね」
本日は快晴で、空は青一色。心地よい風が吹く屋上は、只今オレと獄寺君の二人っきり。だからこんな大胆なことができるんだけど。
獄寺君はオレの手を振りほどこうとはしない。嫌なら振り払えばいいけど、もしそうだとしても彼はきっとオレに嫌とは言わないんだろう。
それが、オレとしては気になるわけで。
目を閉じて、オレは聞いてみた。
「触られるの、嫌い?」
視界が閉ざされる分、獄寺君が身じろぎするのがはっきり伝わる。それと、すっかり慣れて馴染んだ、煙草の香り。
俺のすきな人が纏う、香り。
「……十代目になら、嫌じゃないっス。嬉しいです」
――ちょっと嬉しい。
気分が乗ったオレは、もっと大胆になろうとしていた。
獄寺君の背から離れて、彼の正面に回る。そんなオレを獄寺君はきょとんと見ていた。
「獄寺君」
「はい」
なぜか居住まいを正して返事した獄寺君の胸に、オレは思い切り抱きついた。
頭の上で、息を飲む音。耳を胸にくっつけると、ドキドキと跳ねてる心臓の鼓動。
「じゅ、十代目っ!?」
「折角なら、顔が見たいなーって思ったんだけど」
真っ赤になって慌てふためく獄寺君を見上げて笑う。すると、彼は血の上りきった頬に手を当てて、小さな声で言った。
「あなたには、敵いません」
そういうわけで獄寺君に思う存分抱きついて堪能して、ゴキゲンなオレだったりする。
好きな人に触れて、嬉しい。我ながら単純だ。
ふ、とオレの目は屋上のコンクリートに投げ出された獄寺君の手を捉えた。ダイナマイトを操って、時にはピアノの美しい音色を奏でる器用な手のひら。
オレはわきあがった感情に任せて、その手を取る。獄寺君の手とオレの手を合わせて、指を絡める。オレよりも大きな手のひら、長い指。
幾つもはめられた指輪も冷たかったけど、獄寺君の指先も、冷たかった。
「冷たいね、獄寺君の手」
「そうっスか?……俺、体温低いので十代目はそう思われるかもしれませんね」
獄寺君の返事に、相槌を打ちながら、オレは違うことを考えてた。
手の冷たさと、さっきの獄寺君の反応が重なって、オレは苦しくなる。気がつけば、オレの口は言葉を紡いでいた。
「オレ、君を溶かしたい」
温めるように獄寺君の両手をオレの手で包んで、不思議そうにオレを見つめる緑色の瞳を見つめ返す。
「君が溶けちゃうくらい、君の事を温めたいんだ。……身体も、心も」
オレの温度で、君のさびしさを、かなしさを、きょうふを、全部溶かしてしまえたらいいのに。
すると、獄寺君はゆっくりオレの手を解いて、ぎゅう、とオレを抱きしめた。そして、オレの肩に頭をもたれ掛けて、言う。
「十代目になら、何されたって嬉しいです」
「覚悟しといてね、嫌ってくらい、溶かしてやるから」
「望むところです」
痛いくらいお互いを抱きしめあって、オレ達は笑った。
ひたすらに、温かかった。


*****
なにいちゃついてんだお前等、っていう話を書きたかったのです。
接触恐怖の獄寺君とそれをほどいてあげるツナがいいと思います。何だかんだ生育環境が反対の気がする二人。
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