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ぐんじんかぞく。

綱吉に変な癖ができた。イタリアの地で任務に赴く前、ラルは本日の子守役、リボーンにこうぼやいた。ちいさなちいさな愚痴は、むしろ呆れにも等しい。
「何だそれ?」
問われるままにラルがその癖を言えば、鋭い黒の瞳が愉しそうに光る。
こいつ、やらかすぞ。ラルはそう思いはしたものの、結局リボーンを止めることはしなかった。理由は一つだ。
どうせ、止めてもやらかす。


そして彼女の予想通り、リボーンはやらかした。


数回ノックされたのは、ヴァリアー本部、ボスの居室。返事をする間もなくドアは開かれ、入室したヴァリアーとまた違う黒衣を身に纏った凄腕のヒットマンにザンザスは鋭い視線を向ける。
「よおザンザス」
「何だ。子連れで」
客人はリボーンだけではなかった。その腕、仕立てのいいスーツにしがみつき、一人の幼児が抱かれていた。
この城に存在する子供など、ひとりきりしかいない。もちろんザンザスも知っている顔――沢田綱吉だ。
「ラルが任務で、俺が子守だ」
「はっ」
鼻で笑ってザンザスは子供を見遣る。視線を受けて綱吉はにこりと笑った。悲しいことに鋭い視線に囲まれて育った赤子は、外見を気にしない幼児へと育とうとしている。
だが問題はそこではない。
「何でてめえが――しかもそいつも連れてきた。ここに来る理由はねえはずだ」
ヴァリアーと九代目お抱えヒットマンにたいした交友関係はない。本日の任務が子守というなら尚更、だ。ボンゴレの闇に近い場所に何も知らない子供を連れてくる訳が、ザンザスには想像もつかなかった。
「面白れえことを聞いたからな」
にやりと、リボーンは不敵な笑みを見せる。彼は綱吉をカーペットの上に降ろすと、ザンザスに向けてこう言った。
「ツナを向いて両手を広げろ」
「…………は?」
「いいから、とっととやりやがれ」
今にも銃を取り出しそうな気配でリボーンが言えば、ザンザスはようやく立ち上がり、綱吉をじいと見下ろしてその両手を広げる。
反応は、すぐに現れた。
「あ!」
綱吉はぱあと喜色を浮かべると、短い足をよちよちと動かしリボーンの足下からザンザスの方へ歩み寄り、小さな手を黒ずくめの大人にのばし、言った。
「あっこ‼」
「…………あ?」
「抱っこだぞ、ほら可愛い甥っ子もどきに優しくしてやれ、ザンザス」
至極愉しそうな、声。はっとリボーンに目を向ければ彼はにやけて、今にも声を上げて笑い出しそうにしている。
「はめやがったな……」
「あっこー!」
じわじわと沸点を上げるザンザスの怒りを萎えさせる、気の抜けきった間抜けな子供のおねだり。ザンザスは深いふかい溜息を吐いて綱吉を見下ろし、困り果てた。
生まれてこの方子供を抱いたことなどない。
「……おいカス野郎」
「何だ」
「………これ、どうすればいい?」
「あ?簡単だぞ、脇の下に手を入れて持ち上げろ。後はツナが勝手にひっつくからケツを支えて落とさないようにしてやれ」
「あー‼」
待ちきれないのか、次第にザンザスの足下で綱吉は何度も抱っこをせがむ。泣き出されては困る――何せ目の前のヒットマンは凶悪な腕前と、阿呆みたいな親ばかっぷりを誇るアルコバレーノだ――とザンザスは言われたとおりに綱吉を持ち上げた。
「きゃあ!」
とたん歓声を上げて、綱吉はザンザスの胸元にしがみつく。落とさないよう支えてやりながら、ザンザスは彼らしくない溜息をまた吐く。
「どうして俺が……」
「予想どおり面白れえ光景だな。九代目にも見せてやりてえぞ」
「止めろドカス」
「デジカメでもいいぞ」
「カッ消す…」
騒ぐ二人の後ろでドアが開く。すぐにその主がおお、と声を上げてザンザスは眉間にしわを寄せた。このタイミングで面倒な奴が来るものだ。
「スクアーロ」
「よおボス、頼まれた書類持ってきたぜぇ――で、何で綱吉とリボーンがあ?」
「おもしろい話を聞いたからな、ザンザスで試してみた。見ろ、おもしろい絵だろ」
「……ノーコメントだ。うおぉいボス、んなんじゃ綱吉落とすぞぉ」
「……あ?」
まさかスクアーロにそういわれるとは思わず、ザンザスの動きが止まる。寄ってきたスクアーロはデスクに書類を放ると、綱吉に向けて両手を差しだし、ごく当たり前に、言った。
「来いチビ。ボスが困ってるぞお」
「あーお!」
「おう、なんかまたでかくなったな」
慣れた様子でスクアーロは綱吉を抱き上げ、片手で器用に柔らかな髪を撫でる。自慢の銀髪をぎゅうと握られても怒りもせずに眉を下げて苦笑するだけだ。
「スクアーロ、どういうことだ」
「あ?ボスの代わりの任務、たまにこいつの子守もあったんだぜえ」
「じじいのか」
「知らなかったのかあ?……ああ、あんた、じいさんの任務中身も見ずに俺に放るからなあ」
「てめえも慣れたもんだなスクアーロ」
笑うリボーンにスクアーロも苦笑を返す。
「……仕方ねえだろお。おい綱吉、髪は食うんじゃねえ」
きゃいきゃいと騒がしい空気に取り残されて、ザンザスは一人、本日何度目か知らない溜息を吐き出した。
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