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Ciao,il mio iride

呼ぶ声に浮かぶ惑い


ばん、と大きな音を立てて開いた扉に研究室にいた骸とツナは同時にそちらへ目を向けた。
そこには顔に傷を持つ、黒髪黒服の男が立っていた。
――独立暗殺組織ヴァリアーの首領であり、九代目の息子である男、ザンザス。
研究室に現れるはずの無いその姿に骸は眉を寄せ、ツナは骸が気付かないほど小さく溜息を吐いた。
来訪者を見据え、骸は言う。
「何の用ですか?ここは部外者立ち入り禁止のエリアです」
「…………ツナ」
骸の問い掛けを無視してザンザスはまっすぐツナを見た。そして彼女の名を呼ぶ。その低い声にこもる感情にツナはびくりと身震いした。
(ばれてる……!)
ザンザスには、何も告げていなかった。この間スクアーロに「あいつには」問われて否定を答えたとおり、ザンザスには何一つ告げていない。
そもそもツナがここにいること自体、彼は知らないはずだった。
「何、ザンザス……」
ちら、とパソコンから目を上げてツナは答える。赤い瞳をふ、と扉の方へ逸らしてザンザスは言った。
「ジジイが呼んでる」
「九代目が?」
「ああ。すぐ来い、だと」
「えっ」
困ったようにツナは骸へ視線を送る。それに気付いて骸はひとつ、頷き答えた。
「構いませんよ。九代目の命ならば僕も逆らえません」
すみませんと骸に頭を下げた直後、ツナは慌てた様子でザンザスの横を通り抜け、研究室を去る。
同じく、用は済んだとばかりに去ろうとするザンザスの黒い背中に、骸は先ほどから浮かんでいた疑問を投げつけた。
「ツナさんとお知りあいなのですか?」
「………………」
骸の知るツナの経歴と、目の前の男は、どこをどうしても重ならない。それなのにザンザスはツナを訪ねた、それが不思議だった。
ツナにも、違和感があった。あの反応を見て、考えるまもなく彼女とザンザスは多少なりとも知人であることは分かる。更に、彼女はスクアーロを知り合いと言っていた。
二人のヴァリアー幹部と、少なくとも顔見知りの仲。
(ツナさんは……何者でしょうか)
考えてみればツナがボンゴレにいるそれ自体、不思議な事にも思えてくる。
骸がそこまで思案する長い沈黙の後、ザンザスは苦々しく問いを肯定した。
「ああ。……あいつはジジイのお気に入りだからな」
「九代目の?」
確かにツナをマザーに選んだのはボンゴレ九代目だった。ザンザスとの関係と同じように、九代目とツナを結ぶものも骸には考え付かない。
骸の考えを読んだかのようにザンザスは言う。
「ジジイの慈善活動の一環で、あいつはジジイに懐いている」
「……そうですか」
話には聞いたことがある。マフィアの中でも歴代ボンゴレの中でもかなりの穏健派である九代目ボンゴレは、慈善活動に力を入れている、と。ツナもその縁でボンゴレと関わったらしい。
――けれど、果たしてそれだけだろうか。
骸の中で疑念は消えなかった。
「六道」
考え込む骸を、ザンザスは鋭い目つきで睨んだ。ぼそりと、彼は骸に釘を刺す。
「忠告だ、巻き込まれたくなかったら深入りするんじゃねえ」
「つまりはそれだけの価値が、ツナさんにあるということですか」
「てめえで考えろ」
否定も肯定もせず、ザンザスは今度こそ研究室を後にする。
一人残された骸は口元に手を当て何か思案していたが、やがてデスクから数枚の書類と携帯電話を取るとぽつりと呟いた。
「……これは、調べさせてみましょうか」



「……仕方ない、仕方ないんだ…」
ぶつぶつツナは呟きながら、九代目の執務室へ向かっていた。
マザーになった一件がザンザスに知られてしまった事実に、彼女は少なからず動揺していた。
ぶんぶんと首を振って、ツナは仕方ないと自分に言い聞かせる。
大体スクアーロがザンザスに隠し事をして、ばれない筈がなかったのだ。
どうせいつかは気付かれる。それが、予想外に早かっただけ。
「でも、できれば産むまで隠しときたかったな……」
はあ、溜息を吐くツナは威圧感のある執務室の扉の前で足を止めた。気分を変えようと一度深呼吸をして、彼女は扉を叩いた。かすかに返事が聞こえ、ツナを部屋に招き入れる。
「お呼びですか、九代目」
執務室に入るなりじとり、とツナは琥珀色の瞳を半眼にして九代目を睨んだ。しかし九代目はたじろぐ事も無く視線を受け流し、ツナにソファを勧めた。
「やあ、ツナ。お茶にしないかい?」
ソファの前、ローテーブルには紅茶と共に見事にツナの好物ばかり並んでいて、置かれた状況を理解した彼女はすっぱりと諦めた。
この人には、どう足掻いたところで敵わない。
「……いただきます」
向かい合わせに座り、ツナが紅茶を飲むのを待って九代目は問う。
「調子はどうだい?」
「母子共に元気です。シャマル先生にも順調って太鼓判貰いました」
「そうか、それはよかった」
柔和に笑って九代目は指を組んだ。そして実はね、とまるでこどもがするように告白した。
「ザンザスに怒られてしまったよ」
「…………え?」
ぱちり、とツナは目を瞬かせる。ザンザスに知られてしまった事が、目の前のこの人にも影響を与えてしまったのだろうか。
ツナの戸惑いに感付いたのか、九代目はその理由を告げる。
「君の意思を無視したと、ね」
「そ、そんな事ありません!!」
慌ててツナは首を横に振った。そう、思って欲しくなかった。胸のタグを握って、彼女は言う。
「決めたのはオレの意思です」
すると九代目はそうか、と頷いた。その表情を、ツナは不安そうにじっと見つめる。本当です、と彼女が呟くように言うと九代目はもう一度頷いた。
「不便な事があったら何でも言いなさい。君は我慢する子だから」
テーブル越しに頭を撫でられて、ツナは少しだけむくれてみせた。
「子ども扱いしないでください」
「そうだね、すまない」
九代目はそれでもツナの髪をやさしく撫でる。それ以上強く拒否できず、ツナは眉を下げて菓子を食んだ。


*****
九代目には誰も逆らえません。
だからってやりすぎる人じゃないからうまくいってるのですかね。
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