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Ciao,il mio iride

骸の研究室でマーモンの帰りを待つことになったスクアーロとそれに付き合うツナの前に、クロームがてきぱきと茶菓子が並べる。
「オレがやるのに」
そう言うツナに、クロームはティーポットを手にしたまま微笑んだ。
「いいの、今日はバイパーの検査だけだから。ツナはゆっくりしていて」
「バイパー?」
「マーモンのことだぜぇ、あいつ普段は名を偽ってんだ」
湯気の立つカップを手に取り、スクアーロは言う。彼女はマーモンを連れた骸と雲雀が消えたドアに目をやり、溜息を吐いた。
「あいつの事だ、大人しく……してねえだろうなぁ」
「多分。バイパー、骸様と仲悪いから」
クロームもそれに同意して頷く。そんな二人につられて、ツナもドアに目を向けた。奥の部屋は何か防音設備がされているのか、研究室には何の音も聞こえてこない。
「私、骸様の手伝いしてくるわ」
そう言い残して、クロームも奥へ姿を消した。




二人だけ残された研究室で、スクアーロはツナに向き直る。少しだけ、ツナは緊張した。昔馴染みの相手とはいえ、頻繁に会っていたのは数年前の話。そして、スクアーロはツナと九代目の繋がりを知る数少ない人間でもある。何を言われるか分からない。
スクアーロはじっとツナを見つめ、こう聞いてきた。
「てめえ、あれから諜報部で大人しくしてたんだろう。どこでアルコバレーノに関わった?」
「…………どこって……」
スクアーロの質問の意図が、ツナにはよく分からなかった。彼女は首を傾げて素直に答える。
「オレ、こういうことになるまでアルコバレーノに関わったこと無かったんだけど」
「じゃあ、どいつがお前をマザーに選んだ?」
「……九代目」
返ってきた答えにぴしり、とスクアーロが固まる。数十秒とも思える沈黙の後、ぼそりと彼女は呟いた。
「……珍しいこともあるもんだぜぇ」
「そうなんだ」
「マザーは基本的にアルコバレーノ本人が見つけてくるんだぁ。やらねえ奴もいるがなぁ」
さっきの骸の話によると八年。もしくはそれ以上アルコバレーノに関わっているスクアーロは、マザーの中でも年長の部類に入るらしく、色々な事情に詳しいようだった。
与えられた情報を飲み込んで、ツナはじゃあ、と尋ねる。
「スクアーロも、マーモンが選んだってこと?」
「そうだぁ、あいつ『俺なら死なない』とか言って選びやがった」
その通り、生き残っちまったなあ。
自嘲するスクアーロはちゃらちゃらとタグを弄り、ツナの膨らんだ腹に目を落とした。
「元々マザーは死亡率が高けぇ、特にソイツは」
「うん、聞いた」
ツナも自分の腹に手をあて、頷く。今まで何人も、その事を指摘している。けれどツナは、それが気にならなかった。
京子やハルは大丈夫だと言ってくれたし、何より彼女自身が、うまくいくと感じている。
「でも大丈夫だよ。そんな気がするんだ」
「てめえが言うんなら、そうなるんだろうなぁ」
笑って答えるツナに、スクアーロも唇を緩めた。だが彼女はすぐにその笑みを消し、銀色の瞳を見上げて何か思案する。
数秒のち、スクアーロは真顔でツナに問うた。
「そういやぁ、マザーの件……あいつに言ったのか?」
「……ううん、言ってない。だってあの人忙しくて、最近会えてないし」
ツナが首を横に振ると、スクアーロは眉間に皺を寄せ、ちいさく呻いた。
「マズイぞぉ……」
理由を察し、ツナは眉を下げる。元々怒りっぽい人なのだ、知られたら大目玉を食らうだろう。いくら会えなかったからとはいえ、大切な事を彼に話していないのだから。
「怒られるかな、やっぱり」
「まあ、その時は一緒に怒鳴られてやる。それより……また爺に噛み付いたら厄介だぜぇ…」
「また、って……スクアーロの時、何かあったの?」
「…………ちょっとなあ」
言いよどむスクアーロはあからさまに表情を曇らせている。 非常に嫌な予感がしたが、ツナはスクアーロのためにそれ以上の詮索はしないことにした。
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