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Ciao,il mio iride

骸の研究室は大抵静かだ。客も少なく、犬を除く研究員たちは大人しい性格ばかりなので、隣の研究室を使う雲雀が面倒ごとを持ってこない限り、閑散とした雰囲気を漂わせている。
「はず、なんだよな……」
ドアの向こうに普段の骸の研究室とは異質な状況を察知して、ツナは首を傾げた。目には見えないが、ドア越しに花が飛んでいるような気がする。自分が体調不良で寝ている間に、誰か新しい研究員でも補充したのだろうか。




「こんにちはー」
恐る恐るツナがドアを開ける。と、聞いたことのない声が彼女を出迎えた。
「噂をすれば、だ。来たぞコラ」
「……え?」
見回せども、声の主が見えない。きょろきょろとするツナが見たのは骸と、見覚えの無い笑顔がふたつ、だった。茶色と黒色の髪をした、ふたりともツナとそう変わらない、もしくは幾つか年上の女性だ。それに、ヘルメットですっぽりと頭を覆った妙なものが、ひとつ。
さっきの声は彼女たちのものではない。
「下だコラ」
同じ声が呆れた様子でツナを呼ぶ。その通りに彼女が視線を落とすと、そこには胸から青のおしゃぶりを下げた金髪の子供が――それにしては小さすぎる、サイズ的には新生児がけれどしっかりと二本の足で、しかも大きな頭に鳥を乗せて――立っていた。
冗談めいた光景にツナは言葉をなくす。
「…………えーと」
こういうとき、どうするんだっけ。
混乱が極まった挙句、逆に冷静になってしまったツナはぎぎぎ、とぎこちなく顔を上げて研究室の主を探した。すぐにこちらを見ていたオッドアイを見つけるとツナはその色違いの赤と青を見つめながら子供を指差し、ぎこちなく聞いた。
「なんですか、これ」
「これって何だコラ!!」
「コロネロ君っ」
即座に金髪の子供が吼える。すると茶髪の女性が子供を窘めるように呼び、彼を抱き上げた。彼女の腕の中で、コロネロと呼ばれた子供はツナと同じくオッドアイを睨んだ。
「どういうことだコラ」
「……どういう、という問題でもありませんが……」
骸はツナと子供を交互に見、薄笑いを浮かべて答える。
「ツナさんは、アルコバレーノを見るのが初めてなんですよ」
アルコバレーノ。その単語に、ツナは思わず首から下げたタグを見る。彼女のそれには黄のラインと共にその単語が彫りこまれていた。
それの指す意味は、虹。
「六道先生、アルコバレーノって……何ですか?」
「彼の――コロネロのような、呪われた虹の一色を宿す子供たちですよ。人工授精によってマザーから産まれる、同じ姿で成長もせず、同じ生を繰り返す呪われた子供たち。誰かから、聞いたことはありませんでしたか?」
「……初耳です」
「それは、悪いことをしました」
悪びれもせず言ってのけた骸はついでとばかりに黒と茶色のふたりを指して言う。
「で、彼女達はかつてのマザーです」
「三浦ハルといいます!こっちは紫のアルコバレーノのスカルちゃんです」
黒髪の方がびし、と手を挙げて名乗った。簡単な消去法でスカルというのは彼女の膝に座っている子供のことだとツナは理解する。ツナはてっきり人形かなにかだと思っていたが、よくよく見ればスカルはもぞもぞと動いてハルの膝から降りようとし、そして阻止されていた。
フルフェイスのヘルメットで顔は分からないが、コロネロとサイズは同じ、胸元には紫のおしゃぶりが下がっている。つまりは彼もアルコバレーノだろう。
「私は笹川京子。……この子はコロネロ君。よろしくね」
にこり、と人の良い笑顔を浮かべてもう一人が名乗る。どこかで聞いたことがあるような名だ、とツナは思ったが直ぐには記憶を辿れなかった。それよりもまずは二人の顔と名を覚えることに集中し、自分も名前くらいは伝えないと、と口を開く、
「えと、オレは……」
「聞いてますよ!沢田ツナさんですよね、噂以上にプリティです!」
目をきらきらさせたハルがツナの発言を奪って言う。同意するように京子も頷いた。
「うん、さっき六道さんから話を聞いてね、ハルちゃんと話してたの。今度のマザーはどんな子なのかな、って」
私的にも仲がよいのか、二人は顔を見合わせて笑う。見た目の可憐さとは裏腹に、それなりにたくましい女性らしい。母親は強いのか、とツナが感心していると、骸が細く情報です、と前置きをした。
「参考程度に言っておきますが、タグの色はハルさんが紫、京子さんが青です」
色がどうだか、という問題でもないのでツナは曖昧に聞き流す。どうやらタグの色はアルコバレーノのおしゃぶりと同じらしい。
「……ツナちゃんは何色?」
「聞くまでもねーだろコラ」
「黄色ですね。……今欠けてるの、リボーン先輩だけですから」
子供たちは京子の問いに回答を出しながら、顔を見合わせる。スカルの表情はヘルメットに覆われて見えなかったが、コロネロは幼いながらきりりとした青の瞳に、明らかな迷いの色を浮かべていた。
「…………大丈夫なのかコラ」
「……どうでしょう、いい噂は聞いたことないですよ俺」
子供たちが同時にツナのほうを向いて、溜息を吐く。あまりにその深刻な様子にツナは慌てた。
「なにその哀れみの顔!?」
「黄のアルコバレーノのマザーは、死亡率が非常に高いのですよ」
骸の説明を聞いても、ツナは腑に落ちなかった。どうして、アルコバレーノ達はそんなにうかない顔をしているのだろう、と考える。紫と青の子供は黙ってツナを見上げていた。
「それは……シャマル先生にも言われて、覚悟はしてます。……色、でどうにかなるっていうのははじめて聞いたんですけど」
リボーンからも、そういう話は聞いたことが無い。彼とはいつも他愛の無い話――この間はレオンの脱走癖についてだった――しかしなかった。
あの黄のアルコバレーノはそんなに問題児なのだろうか。
ツナはそれも不思議がった。性格に多少の難点があるような気もしなくもないが、今日知り合ったアルコバレーノもそれぞれ個性的だ。特にリボーンだけが問題児だとは、感じない。
「まあ最後は相性ですよ。ツナさんが気にする問題ではありません」
「ってか、そもそもあれはリボーンが悪いんだコラ」
「そこは先輩に同意しておきます」
こくこくとスカルが頷き、コロネロの意見に賛同する。結局どう反応していいか分からなくなって、ツナは京子とハルを見る。すると京子がふんわりと笑ってツナの手を取った。
「でも、ツナちゃんなら大丈夫よ」
「ハルもそう思います!」
もう片手もハルに取られ、ぶんぶんと振られる。
「おや、貴女がたがそう言うとは……珍しいお墨付きを貰いましたね」
と骸が何が目的なのかメモ片手にオッドアイを細める。
「どうしてか、ってうまく説明できないんだけど……ツナちゃんならきっと、うまくいくと思うの」
「ミステリーですけど、そう思えるんです」
口を揃えて京子とハルは言い張る。
「……そこまで言うなら」
「ま、俺等のマザーだしな、信じてやるぜコラ」
アルコバレーノ達は苦笑交じりの溜息を吐き、ツナはその言葉と、繋いだ手の温かさに勇気付けられた。




「ツナちゃん」
用件はツナに会うことだけだったらしいハルと京子は二人の子供と共に研究室を出て行く。
その去り際、ツナの袖を引き、内緒話をするように京子は囁いた。
「私みたいなマザーになっちゃ駄目だよ」
「……え?」
二枚のタグを大事そうに両手で包みながら、彼女は悲しそうに微笑んだ。
「ちゃんと、向き合わなきゃ……。じゃないと、後悔するんだから」
その細い声は、自分に言い聞かせているようでもあった。


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何が拙かったって、今まで書いたことのない人を書いたところにあると思います。女の子、むずかしい。
あ、ハルとスカルがセットなのは単純な消去法と気が合うんじゃないかという妄想です。
スカルは散々振り回されているものだと思っています。
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