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ふたつの霧と空色の王様

ぎゅう、とうさぎのぬいぐるみを抱きしめて、クロームは呟いた。
「ぼす……はやくかえってこないかな」
急に起きた抗争に綱吉が駆り出されてもう二日が経つ。「危ないから」といういつもの理由でそれに連れて行ってもらえなかった霧の守護者たる子供たちの生活は普段と変わりなかったが、主たる大空の不在はそれなりの不安感をクロームのちいさな心に植えつけていた。
骸は昼前にふらりと外に出てしまっていた。彼が急にどこかに行ってしまうことは良くあることで、並みの大人よりはよほど世慣れしている骸を心配する必要は無い。ふわふわのうさぎを撫でながらクロームは何となく、彼も待ちくたびれてしまったのかな、と思っていた。
『いい子にしてたらお土産買ってきてあげるね!』
出掛ける直前、綱吉はいつもと同じ笑顔で、クロームと骸を撫でた。マフィアのボスには到底見えないあの優しい人が、早く帰ってくればいいのに。
「まだかな……」
クローム一人しかいない部屋は、しんと静まる。うさぎを抱いたまま、彼女はいつの間にか眠ってしまっていた。




ドアの開く音でクロームは目を覚ます。骸が帰ってきたのか、とぼんやり思った彼女はまずいつの間に灯されていた明かりに気付いた。そしてそれに照らされる、柔らかな茶色の髪をした男に、ぱちりと覚醒する。
「ぼす!」
うさぎも放り出して駆け寄ると、綱吉は嬉しそうな表情でクロームを抱き上げた。
「ただいまクローム!」
「おかえりなさい」
つられてクロームも笑顔を返す。しばらく綱吉はクロームをぎゅうぎゅうと抱きしめていたが、ふと聞いた。
「あれ、骸は?」
「おさんぽにいっちゃったみたい……」
「待ちくたびれたのかな。……思ったより長引いちゃったんだ、ごめん」
謝る綱吉を見て、クロームはぶんぶんと首を振った。謝って欲しくなかった。
「ぼすがかえってきてくれるなら、それでいいの。きっとむくろさまも、そうおもってる」
「……そっか」
少しだけ眉を下げながら、それでも綱吉は嬉しそうにしている。クロームの眼帯で覆われていない方の瞳と視線を合わせ、彼は提案した。
「じゃあ、骸探しに行こうか。あいつのことだからそんなに遠くまでは行ってないだろうし、お夕飯までに見つけよう」
「うん!」
はぐれないように手を繋いで、綱吉とクロームはもうひとりの霧を探しに星と月が照らし始めた宵闇のなかへ歩き出した。
ほんの少し拗ねた様子の骸が見つかるのは、きっとすぐ。
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