きせつのもの
七月七日、研究室で書類の片づけを手伝っているツナのもとにまず現れたのは、コロネロとラル・ミルチの二人だった。
「あれ、二人ともどうしたの?検査だっけ?」
そういう予定を、ツナは聞いていない。二人も、その問いかけはすぐに否定した。
「待ち合わせだコラ」
「……そうなるな」
「誰と?」
「京子だコラ」
わざわざこんな場所で待ち合わせというのもおかしな気がしたが、待ち合わせの相手を聞いてツナは納得した。そうして、ほほえましい気持ちにもなる。
「それは、楽しみだね」
「……だが、あいつ……はしゃいでるだろうな」
「そりゃあな。何せ、お前がいるのは初めてだぜコラ」
コロネロの言葉に、ラルはしぶい顔をして頷く。理由をツナが問う前に、奥から戻ってきた骸がコロネロとラルを見つけ声をかけた。
「おや、お揃いで。バースデー休暇ですか。それとも、サービス?」
「後者だな」
「……そうだぜコラ」
「それはそれは」
面白がって茶々を入れたいだけなのだろう。骸はそれだけで話を流して、まだ分かった顔をしていないツナに説明を足した。
「二人は、今日が誕生日なんですよ――まあラル・ミルチの方は『今回は』ということらしいですが」
「そうなんだ!二人とも、おめでとう!!」
ぱあと満面の笑みを咲かせて祝うツナに、コロネロとラルは揃って頬を染め、ぷいと視線を逸らし。それでも、感謝を口にした。
「ありがとうなコラ」
「感謝する」
二人とも素直じゃない照れ屋だ。けれどそれもほほえましくて、ツナはにこにこと笑う。
そうしている間に、ドアの向こうからぱたぱたとこちらに駆けてくる足音が聞こえた気がして。すぐに、研究室のドアがノックされた。
「おや。いらっしゃいましたね。――どうぞ」
「ごめんなさい、遅くなっちゃった!」
息を切らせて入ってきた京子の弾む声に、コロネロとラルは揃って返事をする。
「そんなに急がなくてもいいだろう」
「そうだぜ。大体まだ遅刻って時間じゃねえぞコラ」
「けど、何だか早く会いたくって」
そう言う京子は眉を下げて笑う。そんな彼女に焦りすぎだ、と言ったのはラルだった。
「急ぎすぎて転んでは叶わん。どうせ今日は俺もコロネロもオフだ、ゆっくりでいいぞ」
「うん。ありがとう、ラルちゃん」
今度こそ、にこりと――いつものように優しく笑った京子は、そうだ、と骸に紙袋を一つ、差し出した。
「これ、皆さんでどうぞ。おやつにしてくださいね」
「いいのですか?」
「はい!今日はラルちゃんとコロネロ君とショッピングで、ご飯もおやつもお外で食べるんです。ね」
「おう。昼はハンバーガーだぞコラ」
「…………らしいな」
「それと、この間のお礼もあって…」
照れ笑いをして、京子はツナを見る。視線に気づいてツナはいいよ、と首を振ったが、京子は譲るつもりはないようだった。
「皆さんの好きなものを作ってみたんです!あ、お隣の雲雀さんにもお裾分けお願いしますね」
ここまで言われたら、ツナはもう折れるしかない。
「う、うん……」
こっくり頷いたツナの隣では、骸が苦笑を浮かべている。コロネロとラルも、似たような表情だった。
それでようやく納得がいったのか、京子はラルとコロネロに声を掛け、入ってきたばかりのドアを開けた。
「じゃあ行こっか!ハルちゃんのおすすめのお店も聞いたんだよ」
「……それ、趣味は確かか?」
「行けばわかるだろコラ。じゃ、行ってくるぜ」
「うん、行ってらっしゃい」
「お気をつけて」
ドアが閉まる。それまで手を振って三人を見送っていたツナは、ふと閉まったドアを見ながら、ぽつりと言った。
「すっかり仲良しですね」
そうですね。骸もうなずきを返して、ツナを見やると色違いの瞳をそっと細める。そうして、こう言った。
「よかったですね、ツナさん」
「……はい」
これからも、きっとあんな風にいてくれるんだろう。
その事実がツナには何より嬉しいことだった。
「あれ、二人ともどうしたの?検査だっけ?」
そういう予定を、ツナは聞いていない。二人も、その問いかけはすぐに否定した。
「待ち合わせだコラ」
「……そうなるな」
「誰と?」
「京子だコラ」
わざわざこんな場所で待ち合わせというのもおかしな気がしたが、待ち合わせの相手を聞いてツナは納得した。そうして、ほほえましい気持ちにもなる。
「それは、楽しみだね」
「……だが、あいつ……はしゃいでるだろうな」
「そりゃあな。何せ、お前がいるのは初めてだぜコラ」
コロネロの言葉に、ラルはしぶい顔をして頷く。理由をツナが問う前に、奥から戻ってきた骸がコロネロとラルを見つけ声をかけた。
「おや、お揃いで。バースデー休暇ですか。それとも、サービス?」
「後者だな」
「……そうだぜコラ」
「それはそれは」
面白がって茶々を入れたいだけなのだろう。骸はそれだけで話を流して、まだ分かった顔をしていないツナに説明を足した。
「二人は、今日が誕生日なんですよ――まあラル・ミルチの方は『今回は』ということらしいですが」
「そうなんだ!二人とも、おめでとう!!」
ぱあと満面の笑みを咲かせて祝うツナに、コロネロとラルは揃って頬を染め、ぷいと視線を逸らし。それでも、感謝を口にした。
「ありがとうなコラ」
「感謝する」
二人とも素直じゃない照れ屋だ。けれどそれもほほえましくて、ツナはにこにこと笑う。
そうしている間に、ドアの向こうからぱたぱたとこちらに駆けてくる足音が聞こえた気がして。すぐに、研究室のドアがノックされた。
「おや。いらっしゃいましたね。――どうぞ」
「ごめんなさい、遅くなっちゃった!」
息を切らせて入ってきた京子の弾む声に、コロネロとラルは揃って返事をする。
「そんなに急がなくてもいいだろう」
「そうだぜ。大体まだ遅刻って時間じゃねえぞコラ」
「けど、何だか早く会いたくって」
そう言う京子は眉を下げて笑う。そんな彼女に焦りすぎだ、と言ったのはラルだった。
「急ぎすぎて転んでは叶わん。どうせ今日は俺もコロネロもオフだ、ゆっくりでいいぞ」
「うん。ありがとう、ラルちゃん」
今度こそ、にこりと――いつものように優しく笑った京子は、そうだ、と骸に紙袋を一つ、差し出した。
「これ、皆さんでどうぞ。おやつにしてくださいね」
「いいのですか?」
「はい!今日はラルちゃんとコロネロ君とショッピングで、ご飯もおやつもお外で食べるんです。ね」
「おう。昼はハンバーガーだぞコラ」
「…………らしいな」
「それと、この間のお礼もあって…」
照れ笑いをして、京子はツナを見る。視線に気づいてツナはいいよ、と首を振ったが、京子は譲るつもりはないようだった。
「皆さんの好きなものを作ってみたんです!あ、お隣の雲雀さんにもお裾分けお願いしますね」
ここまで言われたら、ツナはもう折れるしかない。
「う、うん……」
こっくり頷いたツナの隣では、骸が苦笑を浮かべている。コロネロとラルも、似たような表情だった。
それでようやく納得がいったのか、京子はラルとコロネロに声を掛け、入ってきたばかりのドアを開けた。
「じゃあ行こっか!ハルちゃんのおすすめのお店も聞いたんだよ」
「……それ、趣味は確かか?」
「行けばわかるだろコラ。じゃ、行ってくるぜ」
「うん、行ってらっしゃい」
「お気をつけて」
ドアが閉まる。それまで手を振って三人を見送っていたツナは、ふと閉まったドアを見ながら、ぽつりと言った。
「すっかり仲良しですね」
そうですね。骸もうなずきを返して、ツナを見やると色違いの瞳をそっと細める。そうして、こう言った。
「よかったですね、ツナさん」
「……はい」
これからも、きっとあんな風にいてくれるんだろう。
その事実がツナには何より嬉しいことだった。