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きせつのもの

鳴ったコール音は、骸の研究室に備え付けの電話。主に内線として使われるそれを取ったのは主の骸で。彼は数秒のち、ふと苦笑を浮かべた。
「分かりました。すぐに向かわせましょう」
電話を切った骸は、ぱちぱちとデータの入力をしていたツナに、声を掛けた。
「ツナさん、お願いがあるのですが」
「どうしたんですか六道先生」
手を取め、きょとと骸を見やるツナに、彼は苦笑のまま、言う。
「ちょっとお隣に――雲雀君のところに行ってあげてください」
少し、楽しそうに。
ツナは腑に落ちない表情を返して、しかし頷いた。断るつもりもなかったが、骸の反応といい言葉といい、どこかおかしい。
「じゃあ、行ってきますね」
「ええ」
研究室を出、廊下をぺたりぺたり歩きながらツナはぼやいた。
「なんなんだろ」
しかし考えるまもなく、雲雀の研究室にたどり着く。
ノックを二回。ドアの奥で返事が聞こえて、ツナはノブを捻った。入りながら、声を掛ける。
「どうしたんですか、急に」
「僕じゃないよ」
雲雀は自分のデスクで書類を見ながら答え、ふいとペンを持った指で壁を指す。
部屋の奥。そこには、大きなおおきな水槽がある。ツナはそれを見る度におぼれたらどうしようと運動音痴の自分を心配した。いつもは空っぽの水槽。
けれど今日はそこに大きなタコと、その前で頬を膨らませるハルが、いた。
「タコでっか……それにハルも、どうしたのこんなところで?」
「ツナさん……ハル、大きなたこ焼きを作ろうと思って」
「は?」
とんちんかんな返事をするハルにきょとんとして、ツナはタコを見上げた。
確かに食べごたえのありそうなサイズだが、あまり美味しそうではない。そもそもこれはハルが持ってきたのだろうか。考えるツナも、だんだんと混乱していく。
「それ、食べれないよ」
言うのは雲雀で。彼は呆れた様子で二人を見て、言葉を続けた。
「それはヨロイダコ。恐らくは非食用――というか、美味しくないんじゃないの?」
「何でそんなのがここにいるんですか?」
「……アルコバレーノの」
そこまで言われたら、さすがにツナにも見当がつく。アルコバレーノの、相棒たる動物。
だいたいここの研究室は、それが調査対象だ。
「このタコが、ですか」
もう一度タコを見上げて、ツナはぽつりと呟いた。水槽も、その為に設えられたに違いない。ただ問題は残る。
「それで何でたこ焼き?」
未だふくれっ面のハルだった。
「スカルちゃんに嫌がらせです。タコちゃんのことかわいがってるから」
むう、と唸ってハルは答える。タコちゃんとはこのタコなのだろう。適当に事態を認識しながら、ツナの疑問は減らない。
「かわいがってるって?」
「……スカルちゃんはハルよりタコちゃんが好きなんですー!!」
涙目で叫ぶハルに、ツナはあっけにとられて。しばらくして、首を傾げた。
「……そこ、比べるとこなの?」
リボーンだって相棒のレオンを、大事にしている。いつも一緒だろうし、レオンは何せ何にでも変身するカメレオンだ。便利でもあろう。けれど、同じくらい自分のことも大切にしてくれていると、ツナは思う。
ハルはじいっとツナを見て、やがてはあと溜息を吐いた。
「ハルがおばかさんだったみたいです……」


「ハル、探したんだぞ!!お前から会おうって言っといて、待ち合わせ場所にも来ないし!!」
「スカルちゃん!」
「雲雀のとこにいて。タコに相談でもしてたのか?」
ヨロイダコを見上げるスカルを抱き上げ、ハルはふふんと鼻を鳴らして答えた。
「ハルはそんなことしませんー。あ、今日のお弁当のウインナー、タコちゃんの形ですよ!」
「そうか。タコは留守番だからな」
「残念だったね、検査と重なって」
答える雲雀にハルもスカルも頷いて、けれどハルはびし、と窓の外、よく晴れた青空を指さして言う。
「じゃあ行きましょう!今日は楽しいピクニックです、お誕生日のスペシャルサプライズでケーキも――あ!!」
口に手を当てても出た言葉は帰らない。腕の中でスカルは溜息を吐き、呟いた。
「自分でサプライズをばらしてどうする……」
「もー、スカルちゃんのせいですよ!」
押しつけられた責任をどうでもいいとばかりに頷いて、スカルはハルを見上げる。
「はいはい。じゃあ行くぞ」
「レッツゴーですー!」
賑やかに出発したハルとスカルを見送り、ドアが閉まってようやく雲雀の研究室らしい静寂が戻る。そうしてツナはふ、と思い出した。ハルの勢いに流されてすっかり忘れていたけれど――彼女は、ここに呼ばれてきたのだった。
「……それで、オレは何で呼ばれたんだっけ」
すっかり忘れていたが、骸に言われてここまで来たのだった。雲雀を見れば、彼は小首を傾げて答える。
「今、解決したじゃないか」
「……何もしてませんけど」
勝手にハルが落ち込んでスカルが来てハルを元気にして二人が連れ立って出かけただけだ。残念なことに、ツナは春の話を聞いただけでなにも関与していない。
「僕よりは役に立ったよ」
「はあ……」
首を傾げながら、ツナは骸の研究室に戻る。そうして数時間のち、おやつ時に彼女は一通のメールを見て、微笑んだ。
「楽しそうだなあ」
大きなケーキを頬張るスカルの写真だった。
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