きせつのもの
黄のアルコバレーノからクリスマスプレゼントに貰ったチケットを使い、僕たち三人は現在、日本の旅館で短い休暇を過ごしています。新年を祝うパーティーは――どうして短期間に二度もパーティーをするのでしょうか、――無事に終わり、ボンゴレの思惑通り、きちんと盛り上がりました。いえ、盛り上がりすぎでした。良い大人が何をああ馬鹿騒ぎを。
まあ、そういう経緯があってこの休暇です。僕とクロームが双子の兄妹、ボンゴレはその父親という設定でチェックインを済ませ、昨日から快適に過ごしています。久しぶりに祖国に帰ってきたせいかボンゴレが一番楽しそうで、クロームもイタリアでは見慣れないものにちょっとはしゃぎ気味です。そういう僕も、つられて遊んでしまっています。
「むくろさま、なにつくってるの?」
庭に降り積もった雪を山型に盛り、手でまるく固めているとクロームが聞いてきました。
「雪うさぎを作ってます。笹で耳をつけて、赤い実を目にして……」
言いながら長い笹の葉と赤の実を雪に付けていけば、うさぎが一羽、出来上がりました。
「すごい……!」
「クロームも作りますか?」
「うん!」
こうして、庭には数羽の雪うさぎが並びました。童心に帰るのもたまには良いですね。
雪遊びから戻ると、見慣れない和服姿のボンゴレが手招きをして言いました。
「お年玉あげるよ」
「……はい?」
「おとしだま?」
クロームは不思議そうに、僕は胡乱気にボンゴレを見ました。彼は何をしでかすつもりなのでしょうか。
小遣いはありませんが、僕たちはちゃんと給与を貰っています。二人でひとつとはいえ、ちゃんと霧の守護者ですし、役が振られることは少ないですが事が起きれば働きます。
それに生活の面倒はボンゴレが自ら見ています、一般的に言う『保護者』はボンゴレである訳です。本当に養育していくつもりか、生活費を要求されたことはありません。きっとこれからも無いでしょう。衣服もボンゴレが喜んで買ってきて、嬉しそうに着せています。何故かは知り得ませんが彼はお揃いが好きですね。だから、今回の旅行でも疑われること無く双子の兄妹を演じられているのですが。
おやつ、雑貨、文具、本――子供が買えるものは限られています。ついでに言うと僕たちに物欲は乏しく、お陰で給与の殆どは手付かずです。
という訳で、お年玉を貰う必要性が感じられません。
けれどボンゴレはいそいそと、実に楽しそうにお年玉を取り出します。当然、僕たちにそれは止められません。
「はい!」
どーん、と机に置かれた二つの、長方形のお年玉袋は長辺を机と直角にして、自立していました。
何をどう詰めたらこうなるのですか。後ろに支えがある訳でもないようですし。
「ぼす!?」
「ボンゴレ……何ですかこれは!?」
「これって、お年玉に決まってるじゃないか、ちょっとイレギュラーだけど」
驚く僕たちに対し、平然とボンゴレは答えました。イレギュラーなのはお年玉じゃなくて貴方です。
「まあ開けてよ。喜んでもらえるようにがんばったから」
「…………有難うございます」
「ありがとう、ぼす」
手に取ったお年玉からは甘い香りが。封を開けると、数枚の紙幣を挟むように二枚の分厚い板チョコが詰め込まれていました。袋を破らないよう慎重に取り出すと、ご丁寧なことにミルクとホワイトがひとつずつだったことが分かります。そして日本の紙幣――幾らかは言わないでおきます。ただ、子供に与えるには大金だと僕は思いました。
「おいしそう」
「ですねえ。大事に食べさせてもらいますよ」
「二人の好みに合わせるの選ぶの、大変だったんだからな」
そこですか、貴方の努力は。とは言え、美味しそうなチョコレートです。それが僕たちの共通の好物だったということは、すっかりお見通しだったみたいですね。あれだけ近くにいたら、自然に分かってしまうのでしょうか。僕にはよく分かりません。
「じゃあ、散歩ついでに初詣に行こうか、寒いからしっかりコート着ろよ」
「はーい」
重なる僕たちの声、コートもやっぱりお揃いで、いつもの様にボンゴレを挟んで手を繋いで歩きます。傍目から見れば、仲むつまじい親子なのでしょうか。
「おでかけですか」
通りすがりの仲居がボンゴレに聞きました。ボロが出ないように、僕たちは黙っています。
「ええ。まだ初詣もしてないので散歩がてら行ってきます」
「お気をつけていってらっしゃいませ」
「ボンゴレ」
旅館から出て、人の気配が無くなってから、僕はボンゴレを見上げて言いました。外じゃそう呼ぶな、と何度も言われていますが僕もクロームも普段している以外の呼び方を思いつきません。親子のふりをしているのだから「お父さん」と呼んでも良いのですが、実行に移したらきっとボンゴレは壊れるでしょう、個人的にはそっちの方が恐ろしいことです。
「何だい?」
「この近くにおいしいぜんざいを出す茶屋があるそうです、帰りにおごってあげますよ」
「おごるって……」
「お小遣いはたんまり貰いましたから。ね、クローム」
ボンゴレ越しにクロームの方を見れば、彼女も頷いてくれました。
「うん!くりがのってるのでもいいよ、ぼす」
年始の子供の財力を舐めちゃいけませんよ、ボンゴレ。
*****
あけましたおめでとうございます!!
骸が突っ込み役過ぎて書きながら何か方向を間違えた気がしました。しかし骸一人称は何でこんなに書きやすいんだろう。最初はクローム一人称もいいな、と思いましたが台詞がすべて平仮名なので速攻没になりました。童話になる。
お年玉は多分ゆきちさまが複数人いらっしゃるでしょう。
今年も宜しくお願いします!
まあ、そういう経緯があってこの休暇です。僕とクロームが双子の兄妹、ボンゴレはその父親という設定でチェックインを済ませ、昨日から快適に過ごしています。久しぶりに祖国に帰ってきたせいかボンゴレが一番楽しそうで、クロームもイタリアでは見慣れないものにちょっとはしゃぎ気味です。そういう僕も、つられて遊んでしまっています。
「むくろさま、なにつくってるの?」
庭に降り積もった雪を山型に盛り、手でまるく固めているとクロームが聞いてきました。
「雪うさぎを作ってます。笹で耳をつけて、赤い実を目にして……」
言いながら長い笹の葉と赤の実を雪に付けていけば、うさぎが一羽、出来上がりました。
「すごい……!」
「クロームも作りますか?」
「うん!」
こうして、庭には数羽の雪うさぎが並びました。童心に帰るのもたまには良いですね。
雪遊びから戻ると、見慣れない和服姿のボンゴレが手招きをして言いました。
「お年玉あげるよ」
「……はい?」
「おとしだま?」
クロームは不思議そうに、僕は胡乱気にボンゴレを見ました。彼は何をしでかすつもりなのでしょうか。
小遣いはありませんが、僕たちはちゃんと給与を貰っています。二人でひとつとはいえ、ちゃんと霧の守護者ですし、役が振られることは少ないですが事が起きれば働きます。
それに生活の面倒はボンゴレが自ら見ています、一般的に言う『保護者』はボンゴレである訳です。本当に養育していくつもりか、生活費を要求されたことはありません。きっとこれからも無いでしょう。衣服もボンゴレが喜んで買ってきて、嬉しそうに着せています。何故かは知り得ませんが彼はお揃いが好きですね。だから、今回の旅行でも疑われること無く双子の兄妹を演じられているのですが。
おやつ、雑貨、文具、本――子供が買えるものは限られています。ついでに言うと僕たちに物欲は乏しく、お陰で給与の殆どは手付かずです。
という訳で、お年玉を貰う必要性が感じられません。
けれどボンゴレはいそいそと、実に楽しそうにお年玉を取り出します。当然、僕たちにそれは止められません。
「はい!」
どーん、と机に置かれた二つの、長方形のお年玉袋は長辺を机と直角にして、自立していました。
何をどう詰めたらこうなるのですか。後ろに支えがある訳でもないようですし。
「ぼす!?」
「ボンゴレ……何ですかこれは!?」
「これって、お年玉に決まってるじゃないか、ちょっとイレギュラーだけど」
驚く僕たちに対し、平然とボンゴレは答えました。イレギュラーなのはお年玉じゃなくて貴方です。
「まあ開けてよ。喜んでもらえるようにがんばったから」
「…………有難うございます」
「ありがとう、ぼす」
手に取ったお年玉からは甘い香りが。封を開けると、数枚の紙幣を挟むように二枚の分厚い板チョコが詰め込まれていました。袋を破らないよう慎重に取り出すと、ご丁寧なことにミルクとホワイトがひとつずつだったことが分かります。そして日本の紙幣――幾らかは言わないでおきます。ただ、子供に与えるには大金だと僕は思いました。
「おいしそう」
「ですねえ。大事に食べさせてもらいますよ」
「二人の好みに合わせるの選ぶの、大変だったんだからな」
そこですか、貴方の努力は。とは言え、美味しそうなチョコレートです。それが僕たちの共通の好物だったということは、すっかりお見通しだったみたいですね。あれだけ近くにいたら、自然に分かってしまうのでしょうか。僕にはよく分かりません。
「じゃあ、散歩ついでに初詣に行こうか、寒いからしっかりコート着ろよ」
「はーい」
重なる僕たちの声、コートもやっぱりお揃いで、いつもの様にボンゴレを挟んで手を繋いで歩きます。傍目から見れば、仲むつまじい親子なのでしょうか。
「おでかけですか」
通りすがりの仲居がボンゴレに聞きました。ボロが出ないように、僕たちは黙っています。
「ええ。まだ初詣もしてないので散歩がてら行ってきます」
「お気をつけていってらっしゃいませ」
「ボンゴレ」
旅館から出て、人の気配が無くなってから、僕はボンゴレを見上げて言いました。外じゃそう呼ぶな、と何度も言われていますが僕もクロームも普段している以外の呼び方を思いつきません。親子のふりをしているのだから「お父さん」と呼んでも良いのですが、実行に移したらきっとボンゴレは壊れるでしょう、個人的にはそっちの方が恐ろしいことです。
「何だい?」
「この近くにおいしいぜんざいを出す茶屋があるそうです、帰りにおごってあげますよ」
「おごるって……」
「お小遣いはたんまり貰いましたから。ね、クローム」
ボンゴレ越しにクロームの方を見れば、彼女も頷いてくれました。
「うん!くりがのってるのでもいいよ、ぼす」
年始の子供の財力を舐めちゃいけませんよ、ボンゴレ。
*****
あけましたおめでとうございます!!
骸が突っ込み役過ぎて書きながら何か方向を間違えた気がしました。しかし骸一人称は何でこんなに書きやすいんだろう。最初はクローム一人称もいいな、と思いましたが台詞がすべて平仮名なので速攻没になりました。童話になる。
お年玉は多分ゆきちさまが複数人いらっしゃるでしょう。
今年も宜しくお願いします!