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きせつのもの

「ケーキかいにいくの!」
留守番中、ぴょんぴょんと跳んで突然そう主張してきた綱吉に、リボーンは壁に掛けてある14日に赤い丸のついたカレンダーをしっかりと確認して答えた。
「お前の誕生日は明日だろ」
「そうだよ?」
それがどうしたの、とリボーンを見上げる綱吉は薄手のジャンパーを羽織りしっかりと外出の支度を整え、まんまるのがまぐち財布を首から提げている。
「金はどうしたんだ?」
「おかーさんがくれた!」
「……見せてみろ」
「やーだー」
嫌がる綱吉を抑え、リボーンは財布を開ける。畳まれたお札が二枚、どちらも髭をたくわえた科学者のものだ。それと、小銭が幾らか。
「ラルにお使いでも頼まれたのか?」
そう聞けば、綱吉はふるふると首を横に振った。
「ううん。オレがおねがいしたの」
奇妙な話だ。リボーンはラルの性格を考え、そう思った。彼女は何かと厳しい面を持つ。最終的に夫になってしまった元教え子に対してもスパルタを平気で敢行していたし、この子供に対しても他の相手より甘めとはいえ、なかなか厳しい。
そのラルが、綱吉のわがままを聞き入れるとは。
「何があった?」
「なんにもないよ」
きょとんとした表情で答えて、綱吉はリボーンの手を引いた。
「ケーキやさん、いこう」
「ラルかコロネロと行けばいいだろ」
「おとーさんもおかーさんもおしごと。だからリボーンといっしょにいくの!」
「……わかった」
帽子のズレを直し、リボーンは頷く。非常に迷子になりやすい綱吉を一人で買い物に行かせて後からラル達にこっぴどく叱られるよりも、大人しく子供の願いを聞き届けることにしたのだった。




「ど、れ、に、し、よー、か、なー」
ショーケースに並べられたケーキを順番に指差しながら、綱吉はむう、と悩む様子を見せた。くるりと振り向き、彼はリボーンに問う。
「リボーンはどれがいい?」
「お前の好きなのにしたらいいぞ」
「うん。じゃーねー…………えっと、これと、これください!」
苺のショートケーキと色とりどりのフルーツの乗ったタルトを選び、綱吉は背伸びしてどうにか会計を済ませる。小さなケーキ箱を大事そうに持つと彼はおうちにかえろう、とご機嫌で言った。


慎重にケーキを持ち帰った綱吉は、さっそくおやつにしようと言い出した。時間も丁度よい三時過ぎで、止める理由も無いとリボーンはケーキを綱吉に任せ、キッチンに向かった。
勝手知ったる他人の家、と慣れた動作でコーヒーとココアを淹れる。コロネロとラルはそう頻繁にコーヒーを口にしないが、リボーンがしょっちゅう家に顔を出すため、いつも粉が用意されていた。ココアは最近綱吉が気に入って飲んでいる、とコロネロが言っていたのをリボーンは覚えていた。
それを運びながら、彼は危なっかしい手つきで皿にケーキを並べる綱吉に聞いた。
「お前が二つ食べるのか?」
「ううん、オレと、リボーンの」
ことり、二つのマグカップを机に並べ、リボーンはさらに聞く。
「そういや、ラルとコロネロの分は?」
「あしたもたべるから、いらないって」
「……じゃあ、なんで俺の分があるんだ?」
ぱちくりと瞬きをして、綱吉は首を傾ける。
しかし直ぐに小さな手をぱちんと叩いて、満面の笑みを浮かべた。
「リボーン、わすれてる」
「ん?」
綱吉は隣に座るリボーンの膝によじ登り、広い胸元に抱きついた。
「きょうはリボーンのおたんじょうびでしょ?おたんじょーびおめでとう!」
「…………ああ」
そういうことか。
ようやくリボーンは合点した。そういえば、腕の中の子供と自分の生まれは一日違いだ。子供の誕生日こそ盛大に祝うが、そればかりに気をとられてリボーンは自分の誕生日を、すっかり失念してしまっていた。
「ありがとな、ツナ」
「どういたしまして。だからね、オレがえらんだケーキたべて!」
勧められるままケーキを口に運ぶ。酷く甘いそれは、けれど幸せな味がした。




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リボーン先生お誕生日おめでとうございます。
気がついたのは日付変更線を超えてからでした。
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