きせつのもの
「こんにちはバイパー!」
玄関先に飛び出し、抱きついてきた綱吉を見下ろしてバイパーは呟いた。
「猫だねえ」
黒い縁取りのされたクリーム色の猫耳をつけた綱吉は大きく頷いてにこにこと笑う。
「リボーンがくれたの!きぐるみつくってくれるって」
見ればクリーム色の尻尾もズボンからぶら下がっている。くるくる丸まった尾の先は茶色をしていて、恐らくは何かのキャラクターらしい。
「リボーンも来てるんだ。他は?」
「いないよ。ふたりでおるすばんなの」
鬼の居ぬ間になんとやら、という事か。
バイパーはリボーンの企みを感付いたが、止めてやろうとは思わなかった。
いつものことだ。過去を振り返る事無く、そう言い切れる。それだけあの黄色のアルコバレーノは悪戯が好きだ。
そもそも、例え綱吉が猫耳をつけたところでバイパーにはメリットもデメリットも無い。
ただ子供の両親がオーバーリアクションを見せてくれるだろう。
「とりあえず、お邪魔するよ」
「うん!」
猫耳と尻尾を揺らして綱吉はバイパーの手を引いた。
二人が歩く廊下にまでじゃきじゃきと、布地を断つ音が聞こえる。
リビングでは、リボーンが床にクリーム色の布を散らかし、何か作業をしていた。
顔も上げずにリボーンはバイパーに声を掛ける。
「よおバイパー」
「やあ。また何かつまらないことを始めたようだね」
皮肉たっぷりの口調でバイパーは言うが、それもまたいつものこと。リボーンは人の悪い笑みを浮かべ、そうか?と返した。
「俺は楽しいぞ」
「おれも!」
ぴし、と手を挙げて綱吉がリボーンの言葉に同意する。
けれど、二人が楽しいと感じる理由は、あまりにもかけ離れていた。
綱吉は単純に猫耳の仮装を喜んでいる。反対にリボーンは、仮装させたことで起こる反応を、楽しみにしている。
「楽しいの理由が違うね」
バイパーの指摘に、リボーンは当たり前だ、と軽口を叩いた。
「……猫に小判って言うよね」
ソファーに座り、楽しそうにリボーンの作業を見ていた綱吉を眺めていたバイパーが、不意にそんな事を言う。彼は懐からコインチョコを取り出し、綱吉の掌に乗せた。
「おやつだよ。これは小判じゃなくてコインだけど」
「ありがと!」
早速金色の包み紙をむしりとり、中身のチョコレートを齧った綱吉はバイパーに満面の笑みを向けて言った。
「ねこにこばん!おれしってるよ」
「お馬鹿な君が珍しいね。言ってごらん」
「わざ!」
「………………」
予想を裏切る回答にバイパーは絶句する。
たっぷりの間を置いて、彼は綱吉の頭にぽんぽんと手を乗せた。
「君はおばかだねえ」
「実は間違ってねーぞ」
切り分けた布地を手にちくちくと針作業を進めるリボーンが笑って綱吉の肩を持つ。
「こないだテレビで見たもんな、ツナ」
「うん!」
「その子が好きなアニメなんて知らないよ」
首を傾げて言い返したバイパーは、綱吉の視線に気付いた。隣に座っている子供はじっと、彼を見上げている。その傍らには、金色の紙くず。
無邪気な子猫にコインチョコはすっかり食べつくされていたらしい。
「…………」
「……ね、バイパー」
期待に満ちた視線に、バイパーは折れた。懐に手をやって彼は問う。
「チョコレート、まだ食べるかい?」
「うん!」
「出世払いだからね」
小さな掌に金色のチョコレートを乗せ、バイパーはくすりと笑った。
玄関先に飛び出し、抱きついてきた綱吉を見下ろしてバイパーは呟いた。
「猫だねえ」
黒い縁取りのされたクリーム色の猫耳をつけた綱吉は大きく頷いてにこにこと笑う。
「リボーンがくれたの!きぐるみつくってくれるって」
見ればクリーム色の尻尾もズボンからぶら下がっている。くるくる丸まった尾の先は茶色をしていて、恐らくは何かのキャラクターらしい。
「リボーンも来てるんだ。他は?」
「いないよ。ふたりでおるすばんなの」
鬼の居ぬ間になんとやら、という事か。
バイパーはリボーンの企みを感付いたが、止めてやろうとは思わなかった。
いつものことだ。過去を振り返る事無く、そう言い切れる。それだけあの黄色のアルコバレーノは悪戯が好きだ。
そもそも、例え綱吉が猫耳をつけたところでバイパーにはメリットもデメリットも無い。
ただ子供の両親がオーバーリアクションを見せてくれるだろう。
「とりあえず、お邪魔するよ」
「うん!」
猫耳と尻尾を揺らして綱吉はバイパーの手を引いた。
二人が歩く廊下にまでじゃきじゃきと、布地を断つ音が聞こえる。
リビングでは、リボーンが床にクリーム色の布を散らかし、何か作業をしていた。
顔も上げずにリボーンはバイパーに声を掛ける。
「よおバイパー」
「やあ。また何かつまらないことを始めたようだね」
皮肉たっぷりの口調でバイパーは言うが、それもまたいつものこと。リボーンは人の悪い笑みを浮かべ、そうか?と返した。
「俺は楽しいぞ」
「おれも!」
ぴし、と手を挙げて綱吉がリボーンの言葉に同意する。
けれど、二人が楽しいと感じる理由は、あまりにもかけ離れていた。
綱吉は単純に猫耳の仮装を喜んでいる。反対にリボーンは、仮装させたことで起こる反応を、楽しみにしている。
「楽しいの理由が違うね」
バイパーの指摘に、リボーンは当たり前だ、と軽口を叩いた。
「……猫に小判って言うよね」
ソファーに座り、楽しそうにリボーンの作業を見ていた綱吉を眺めていたバイパーが、不意にそんな事を言う。彼は懐からコインチョコを取り出し、綱吉の掌に乗せた。
「おやつだよ。これは小判じゃなくてコインだけど」
「ありがと!」
早速金色の包み紙をむしりとり、中身のチョコレートを齧った綱吉はバイパーに満面の笑みを向けて言った。
「ねこにこばん!おれしってるよ」
「お馬鹿な君が珍しいね。言ってごらん」
「わざ!」
「………………」
予想を裏切る回答にバイパーは絶句する。
たっぷりの間を置いて、彼は綱吉の頭にぽんぽんと手を乗せた。
「君はおばかだねえ」
「実は間違ってねーぞ」
切り分けた布地を手にちくちくと針作業を進めるリボーンが笑って綱吉の肩を持つ。
「こないだテレビで見たもんな、ツナ」
「うん!」
「その子が好きなアニメなんて知らないよ」
首を傾げて言い返したバイパーは、綱吉の視線に気付いた。隣に座っている子供はじっと、彼を見上げている。その傍らには、金色の紙くず。
無邪気な子猫にコインチョコはすっかり食べつくされていたらしい。
「…………」
「……ね、バイパー」
期待に満ちた視線に、バイパーは折れた。懐に手をやって彼は問う。
「チョコレート、まだ食べるかい?」
「うん!」
「出世払いだからね」
小さな掌に金色のチョコレートを乗せ、バイパーはくすりと笑った。