ぐんじんかぞく。
ぐったりとソファーに背を預けてコロネロは毒づいた。
「ちっくしょ……」
仕事中、突然リボーンに呼び出された。何の用件かと思えば、連れて行かれたのはボンゴレに敵対するマフィアのアジト。
気がつけばリボーンはどこかに雲隠れし、コロネロは乱入者に殺気立つ戦闘員達相手に孤軍奮闘する羽目となった。それでも粗方壊滅させ、戻ってきたリボーンがご丁寧にアジトを爆破する。
そうしてようやくリボーンの所有する家のひとつに戻った。
その後、シャワーを浴びたコロネロは、それからソファーにもたれたまま微動だにしない。
できればもう動きたくなかった。体力はある方と自覚しているが、相手にした人数が多すぎる。
(一人相手に何人出てきたんだあの馬鹿マフィア)
何が目的でリボーンがコロネロを呼び出してまで、敵対マフィアを潰したのか。その理由は気になったが、それ以上にコロネロの身体は休息を欲しがっていた。
そんなコロネロと正反対に、リボーンは普段と変わらない様子でいる。
「お前はいちいち動きがでけえんだ、だからそんなに消耗すんだぞ」
彼はエスプレッソのカップを手に、コロネロの動きを批評した。
「これじゃあラルに及第点は貰えねーな」
あんまりな酷評に、コロネロはリボーンをぎとりと睨んだ。
「文句あんなら体術得意な奴を呼べコラ。風とかいるじゃねーか」
「奴はまだ中国だ。すぐ呼べて、しかも暴れて悪目立ちできんのはお前くらいだったぞ」
「オトリかよコラ……」
リボーンの言葉に、コロネロは今更自分の呼び出された理由に気付いてしまう。
がくり、と水気の残る金髪がソファーの肘掛に落ちた。
「いいじゃねーか、どうせ将来的にツナの為になるぜ」
「……今日は早く終わりそうだったからツナの迎え行くつもりだったんだぜコラ」
適当な慰めをかき消す恨み言に、リボーンは心底呆れた様子で呟いた。
「親ばかが……」
重たい空気をかき消すように、ドアチャイムが鳴る。
今リボーン達がこの住居にいると知っている人間は少ない、一体誰だ。
リボーンは不審がったが、すぐに思い直した。態々来訪を知らせるということは敵ではない、若しくはとんだ間抜けだ。
壁に掛かるインターホンの親機をリボーンは操作する。その画面に大写しになったのは、満面の笑みを浮かべた綱吉の顔だった。
(カメラに近すぎるだろ)
どうでもいい感想を抱きながら、リボーンは事態を考える。当然の事だが、インターホンのカメラは子供の顔が映る高さには設置していない。つまりは少なくとももう一人――綱吉を抱き抱えている奴がいる。彼は画面越しの子供に声を掛けた。
「おい、何してんだ」
『あ、リボーン!おれね、おとーさんおむかえにきた!』
「ひとりか?」
『ううん、おかーさんと。ほいくえんからまっすぐきたの』
そう子供は言い、えへへーと気の抜けた声で笑う。
「……入れ」
ドアロックを操作したリボーンは、相変わらずぐったりしているコロネロに言った。
「コロネロ、ツナが迎えに来たぞ。連絡したのか?」
「してねーぞコラ」
「じゃあ、どっから聞いてきたんだ?」
「笹川に聞いた」
解答は、リボーンの後ろから聞こえた。
部屋に上がったラルが挨拶もなく答える。保育園の鞄を肩に掛けた綱吉は、ぱたぱた走ってコロネロに飛びついた。
「おとーさん!」
「おー、ツナ。よく来たなコラ」
子供を受け止めたコロネロは首を傾げた。
弟子で部下の笹川了平をラルは挙げたが、彼には「リボーンに呼び出された」とだけしか言っていない。
「了平には行き先言ってないぞコラ……」
「リボーンが呼び出したなら、大体用件は分かる」
半眼でラルは言葉を続けた。
「念のためボンゴレにも確認を取った」
どうやら、彼女の方が一枚上手だったらしい。リボーンは思わず舌打ちした。
「口が軽い連中め……」
「依頼主がボンゴレなら俺を呼べばよかっただろうが」
わざわざ半分外部のコロネロを呼ぶ理由があるのか、とラルは問う。リボーンは頷いて答えた。
「勿論だ。お前に怪我させたら煩い奴がいるんだぞ」
「コロネロが怪我しても、綱吉は騒ぐだろう?」
綱吉は痛みに敏感で、しかも泣き虫だ。包帯を巻いている両親を見るだけで、じんわりと目に涙を浮かべる。
迂闊に入院沙汰など起こしてしまった時は、琥珀色の目が真っ赤になるまで泣きじゃくってしまう。散々その光景を見ているリボーンはそれをよく知っていた。しかし、リボーンの言う煩い奴は別にいる。
――ラルが怪我をして騒ぐのは甘えたな子供だけではない。旦那も、中々に煩かった。
「ツナもだが、そっちじゃねえ」
「…………っ」
リボーンの本意を察したラルはほんのり頬を染めて顔を逸らした。からかいが成功したことに彼はにやりと笑む。
こういう反応が面白い。
ふと、リボーンは会話に参加しなくなったコロネロに目を向ける。彼は綱吉を膝に乗せ、今日の保育園での話を聞いてやっていた。ぎゅうと父親に抱きついて、綱吉は甘える。
「おとーさん、おうちまでかたぐるまして!」
「おう、ちゃんと掴まってるんだぞコラ」
「……あいつ疲れてんじゃねーのか」
――子供に使う体力はあるのか、この親ばかが。
本日二度目の悪態を飲み込んで、リボーンはじゃれあう父子になんともいえない視線を送った。
「ちっくしょ……」
仕事中、突然リボーンに呼び出された。何の用件かと思えば、連れて行かれたのはボンゴレに敵対するマフィアのアジト。
気がつけばリボーンはどこかに雲隠れし、コロネロは乱入者に殺気立つ戦闘員達相手に孤軍奮闘する羽目となった。それでも粗方壊滅させ、戻ってきたリボーンがご丁寧にアジトを爆破する。
そうしてようやくリボーンの所有する家のひとつに戻った。
その後、シャワーを浴びたコロネロは、それからソファーにもたれたまま微動だにしない。
できればもう動きたくなかった。体力はある方と自覚しているが、相手にした人数が多すぎる。
(一人相手に何人出てきたんだあの馬鹿マフィア)
何が目的でリボーンがコロネロを呼び出してまで、敵対マフィアを潰したのか。その理由は気になったが、それ以上にコロネロの身体は休息を欲しがっていた。
そんなコロネロと正反対に、リボーンは普段と変わらない様子でいる。
「お前はいちいち動きがでけえんだ、だからそんなに消耗すんだぞ」
彼はエスプレッソのカップを手に、コロネロの動きを批評した。
「これじゃあラルに及第点は貰えねーな」
あんまりな酷評に、コロネロはリボーンをぎとりと睨んだ。
「文句あんなら体術得意な奴を呼べコラ。風とかいるじゃねーか」
「奴はまだ中国だ。すぐ呼べて、しかも暴れて悪目立ちできんのはお前くらいだったぞ」
「オトリかよコラ……」
リボーンの言葉に、コロネロは今更自分の呼び出された理由に気付いてしまう。
がくり、と水気の残る金髪がソファーの肘掛に落ちた。
「いいじゃねーか、どうせ将来的にツナの為になるぜ」
「……今日は早く終わりそうだったからツナの迎え行くつもりだったんだぜコラ」
適当な慰めをかき消す恨み言に、リボーンは心底呆れた様子で呟いた。
「親ばかが……」
重たい空気をかき消すように、ドアチャイムが鳴る。
今リボーン達がこの住居にいると知っている人間は少ない、一体誰だ。
リボーンは不審がったが、すぐに思い直した。態々来訪を知らせるということは敵ではない、若しくはとんだ間抜けだ。
壁に掛かるインターホンの親機をリボーンは操作する。その画面に大写しになったのは、満面の笑みを浮かべた綱吉の顔だった。
(カメラに近すぎるだろ)
どうでもいい感想を抱きながら、リボーンは事態を考える。当然の事だが、インターホンのカメラは子供の顔が映る高さには設置していない。つまりは少なくとももう一人――綱吉を抱き抱えている奴がいる。彼は画面越しの子供に声を掛けた。
「おい、何してんだ」
『あ、リボーン!おれね、おとーさんおむかえにきた!』
「ひとりか?」
『ううん、おかーさんと。ほいくえんからまっすぐきたの』
そう子供は言い、えへへーと気の抜けた声で笑う。
「……入れ」
ドアロックを操作したリボーンは、相変わらずぐったりしているコロネロに言った。
「コロネロ、ツナが迎えに来たぞ。連絡したのか?」
「してねーぞコラ」
「じゃあ、どっから聞いてきたんだ?」
「笹川に聞いた」
解答は、リボーンの後ろから聞こえた。
部屋に上がったラルが挨拶もなく答える。保育園の鞄を肩に掛けた綱吉は、ぱたぱた走ってコロネロに飛びついた。
「おとーさん!」
「おー、ツナ。よく来たなコラ」
子供を受け止めたコロネロは首を傾げた。
弟子で部下の笹川了平をラルは挙げたが、彼には「リボーンに呼び出された」とだけしか言っていない。
「了平には行き先言ってないぞコラ……」
「リボーンが呼び出したなら、大体用件は分かる」
半眼でラルは言葉を続けた。
「念のためボンゴレにも確認を取った」
どうやら、彼女の方が一枚上手だったらしい。リボーンは思わず舌打ちした。
「口が軽い連中め……」
「依頼主がボンゴレなら俺を呼べばよかっただろうが」
わざわざ半分外部のコロネロを呼ぶ理由があるのか、とラルは問う。リボーンは頷いて答えた。
「勿論だ。お前に怪我させたら煩い奴がいるんだぞ」
「コロネロが怪我しても、綱吉は騒ぐだろう?」
綱吉は痛みに敏感で、しかも泣き虫だ。包帯を巻いている両親を見るだけで、じんわりと目に涙を浮かべる。
迂闊に入院沙汰など起こしてしまった時は、琥珀色の目が真っ赤になるまで泣きじゃくってしまう。散々その光景を見ているリボーンはそれをよく知っていた。しかし、リボーンの言う煩い奴は別にいる。
――ラルが怪我をして騒ぐのは甘えたな子供だけではない。旦那も、中々に煩かった。
「ツナもだが、そっちじゃねえ」
「…………っ」
リボーンの本意を察したラルはほんのり頬を染めて顔を逸らした。からかいが成功したことに彼はにやりと笑む。
こういう反応が面白い。
ふと、リボーンは会話に参加しなくなったコロネロに目を向ける。彼は綱吉を膝に乗せ、今日の保育園での話を聞いてやっていた。ぎゅうと父親に抱きついて、綱吉は甘える。
「おとーさん、おうちまでかたぐるまして!」
「おう、ちゃんと掴まってるんだぞコラ」
「……あいつ疲れてんじゃねーのか」
――子供に使う体力はあるのか、この親ばかが。
本日二度目の悪態を飲み込んで、リボーンはじゃれあう父子になんともいえない視線を送った。