逃げるようにひた走る。追ってくる声がどうしようもなく怖い。ツナは転びそうになりながら、それでも必死で隠れる場所を探す。
思いのほか狭いスペースに身体を押し込んで、ツナは震える掌を見た。
どうして、オレはこんな所に居るんだろう、こんな幼い姿なんだろう。

それは、夢だから。

気付いたとき、ちり、と思い出すものがあった。

『呼べ』

近付く足音に怯え耳を塞ぎ目をしっかと閉じ、うずくまりながら、ツナは自分の内側から響く声を聞く。

『俺の名を呼べ』

高い子どもの声。そうだ、それを呼べばいい。少しずつ、混乱し絡まった思考がほどけだす。
呼べばいい、けれど、誰を？
簡単だ、ツナは確信して胸に手をやった。硬い、冷たいタグが指先に触れる。それを強く握り締め、ツナは叫んだ。
何よりも傍にある命の名を。

「リボーン！！」

刹那、ツナの腕が掴まれ、彼女は強い力で飛ばされた。ふわりとした浮遊感は感じたが、それ以外は何も、落ちる気配すらない。恐る恐る目を開くと、そこはいつもの暗闇だった。

「ツナ」

見えないけれどそこに居るリボーンも、同じ。
安堵感に息を吐いたツナを、もう一度リボーンが呼ぶ。その方向にツナは口を開いた。

「……リボーン、ありが」
「呼ぶのが遅せえ！」

礼を皆まで言わないうちに叱られ、彼女はしょぼんと眉を下げる。

「だって、夢だって気付くのに時間かかったんだ」
「ダメツナめ」
「何でオレの昔のあだ名知ってんだよ……」

ぐったりと聞くツナに、リボーンは皆そう思ってんだな、と軽口を吐く。それでも落ち込むツナを放置できなかったのか、宥めるような言葉をリボーンは投げた。

「まあ、呼ばねえよりはマシだったぞ」
「うん……」




「ねえ、リボーン」
「ん？」
「オレの夢……見た？」

さっき、悪夢から引っ張り上げた時の事だろう。ツナの心情を正しく理解したリボーンは問いをきっぱりと否定した。

「見てねーぞ」
「……そっか」

答えにほっとした様子のツナにリボーンが笑った。どちらかというと、それが悪戯心のこもった物で、ツナは嫌な予感を覚える。

「何だ、見て欲しかったのか？」
「逆！」
「……だろーな。まだ顔色が悪い」

吼えたツナの頬が、するりと撫でられる。温もりに不安を溶かされながらツナは目を閉じた。うつらうつらと、深い眠りが彼女の意識を引き込む。

「もうちょい寝とけ。今起きても日は昇ってねえぞ」
「うーん、……リボーン抱っこしたら、よく眠れるかも」

見えないけど。ツナがそうねだると、リボーンは鼻で笑った。

「俺が生まれるまで楽しみにしとくんだな」