Ciao,il mio iride
ふわりふわりと、闇に浮かぶ。すっかり慣れてしまったこの空間もこれで最後だと、ツナはぼんやりと予感していた。
明日には、リボーンが誕生する。自分はまた一人に戻る。
その思考を読んだかのように、闇からリボーンの声が降った。
「予定日、明日だな」
「そうだね。……何か、緊張するなあ」
こくんと、ツナは首肯して言葉を返す。思わず零れた本心に、リボーンは笑ったようだった。すぐに呆れたような声が降ってくる。
「今更だぞ」
闇を見つめて、ツナは仕方ないよ、と呟いた。明日には、経験した事のない事象が起こるのだ。身構えてしまうのは、必然だと彼女は思う。
「そんな事言われたって、怖いしどきどきするし不安だよ」
「大丈夫だぞ。俺がついてるからな」
どうしてか、そう言われると安心してしまう。やけに自信あり気なリボーンの声はツナの中に染みこんで、魔法のように彼女を落ち着かせた。消えていく不安に、ツナはにこりと笑む。
「そういえば、ずりぃぞ」
気分を上昇させたツナに、ふとリボーンは不平をぼやいた。何も思い当たる節がなくて、ツナは首をひねって聞き返す。
「え、何が?」
「ラルと賭け、しただろ」
「うん」
生き残ったら、京子と仲直りをする。そうラルと指切りをしたのは、数日前の話だ。それがどうしたのだろう。戸惑うツナに、リボーンは不満そうな声で、言う。
「ずりぃ」
「何でだよ」
「俺も賭け、したいぞ」
強請るリボーンを子供みたいだ。思って、そういえば子供だったと気付いた。思わずくすくすと笑ってしまったツナは、その合間思った疑問をリボーンに投げつける。
「……って、何賭けるんだよ」
「俺を産んで、お前が死ななかったら」
「うん」
条件はラルと同じだ。そこまで聞いて、一度ツナは頷いた。それを待って、リボーンは言葉を続ける。
「お前の秘密を話せ」
「…………………」
闇の向こうから聞こえたその声に、ツナは押し黙った。
「何か、隠してるだろ?」
秘密。
確かに、思い当たる事はある。言えない事が、ある。けれどそれはもう何年も言いも言われもしていない事実、リボーンが知っているはずがなかった。
けれど彼は、何かに気付いている。
この十ヶ月、誰よりツナの側にいたせいかは分からない。だが、リボーンは確信を持った声で、問いかけてきた。
「隠してるだろ、色々」
「…………まあ、ね」
否定はできない。
勿論、誰にだってひとつやふたつ、秘密を持って生きているだろう。ただツナのそれは、とてもとても大きなものだった。
(オレは、どうしたいんだろう)
秘密がどうなるか、どうあるべきか。彼女は考えたこともなかった。ツナはただ、それはずっと秘密でいなければならないとだけ、思っていた。
そう、教えられていた。
(オレは、リボーンに……)
無意識に胸元のタグを握り締める。癖になってるな、ぼんやりツナは思った。拳の下では、心臓がうるさく鳴っているのが分かる。
秘密について、ツナは考えてこなかった。けれどそれを暴かれるのは、彼女にとって恐ろしい事だった。知られてしまったら。きっと彼女を待つのはよい事よりも悪い事の方が多い。だから、彼女は恐怖する。
けれど、どうしてか。
今、ツナを包む感情はそれだけでは――恐怖だけではなかった。
「……いいよ」
自然と、ツナはその賭けに乗っていた。どうしてそう答えてしまったのか、ツナ自身にもよく分からない。自身をふんわりと包む感情の正体を、ツナは掴めずにいる。
けれど。
(知られてもいい、リボーンには)
そう思ったことは。それだけは、紛う事ない事実だった。
「約束だぞ」
「うん」
自然とツナは小指を立て目の前に出す。小指の根元が闇に消え、その奥に、ちいさな指が見えた気がした。
*****
気付けばもう予定日前日です。びっくりです。
夢を見るのも最後、思ったより子供だったリボーンと、思ったより秘密主義だったツナさんです。
次で、終わる予定。
明日には、リボーンが誕生する。自分はまた一人に戻る。
その思考を読んだかのように、闇からリボーンの声が降った。
「予定日、明日だな」
「そうだね。……何か、緊張するなあ」
こくんと、ツナは首肯して言葉を返す。思わず零れた本心に、リボーンは笑ったようだった。すぐに呆れたような声が降ってくる。
「今更だぞ」
闇を見つめて、ツナは仕方ないよ、と呟いた。明日には、経験した事のない事象が起こるのだ。身構えてしまうのは、必然だと彼女は思う。
「そんな事言われたって、怖いしどきどきするし不安だよ」
「大丈夫だぞ。俺がついてるからな」
どうしてか、そう言われると安心してしまう。やけに自信あり気なリボーンの声はツナの中に染みこんで、魔法のように彼女を落ち着かせた。消えていく不安に、ツナはにこりと笑む。
「そういえば、ずりぃぞ」
気分を上昇させたツナに、ふとリボーンは不平をぼやいた。何も思い当たる節がなくて、ツナは首をひねって聞き返す。
「え、何が?」
「ラルと賭け、しただろ」
「うん」
生き残ったら、京子と仲直りをする。そうラルと指切りをしたのは、数日前の話だ。それがどうしたのだろう。戸惑うツナに、リボーンは不満そうな声で、言う。
「ずりぃ」
「何でだよ」
「俺も賭け、したいぞ」
強請るリボーンを子供みたいだ。思って、そういえば子供だったと気付いた。思わずくすくすと笑ってしまったツナは、その合間思った疑問をリボーンに投げつける。
「……って、何賭けるんだよ」
「俺を産んで、お前が死ななかったら」
「うん」
条件はラルと同じだ。そこまで聞いて、一度ツナは頷いた。それを待って、リボーンは言葉を続ける。
「お前の秘密を話せ」
「…………………」
闇の向こうから聞こえたその声に、ツナは押し黙った。
「何か、隠してるだろ?」
秘密。
確かに、思い当たる事はある。言えない事が、ある。けれどそれはもう何年も言いも言われもしていない事実、リボーンが知っているはずがなかった。
けれど彼は、何かに気付いている。
この十ヶ月、誰よりツナの側にいたせいかは分からない。だが、リボーンは確信を持った声で、問いかけてきた。
「隠してるだろ、色々」
「…………まあ、ね」
否定はできない。
勿論、誰にだってひとつやふたつ、秘密を持って生きているだろう。ただツナのそれは、とてもとても大きなものだった。
(オレは、どうしたいんだろう)
秘密がどうなるか、どうあるべきか。彼女は考えたこともなかった。ツナはただ、それはずっと秘密でいなければならないとだけ、思っていた。
そう、教えられていた。
(オレは、リボーンに……)
無意識に胸元のタグを握り締める。癖になってるな、ぼんやりツナは思った。拳の下では、心臓がうるさく鳴っているのが分かる。
秘密について、ツナは考えてこなかった。けれどそれを暴かれるのは、彼女にとって恐ろしい事だった。知られてしまったら。きっと彼女を待つのはよい事よりも悪い事の方が多い。だから、彼女は恐怖する。
けれど、どうしてか。
今、ツナを包む感情はそれだけでは――恐怖だけではなかった。
「……いいよ」
自然と、ツナはその賭けに乗っていた。どうしてそう答えてしまったのか、ツナ自身にもよく分からない。自身をふんわりと包む感情の正体を、ツナは掴めずにいる。
けれど。
(知られてもいい、リボーンには)
そう思ったことは。それだけは、紛う事ない事実だった。
「約束だぞ」
「うん」
自然とツナは小指を立て目の前に出す。小指の根元が闇に消え、その奥に、ちいさな指が見えた気がした。
*****
気付けばもう予定日前日です。びっくりです。
夢を見るのも最後、思ったより子供だったリボーンと、思ったより秘密主義だったツナさんです。
次で、終わる予定。