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Ciao,il mio iride

ぼんやりと、ツナは歩いていた。立ち止まっては空を見上げ、ふう、と溜息を吐く。

「オレはどうしたらいいのかな」
「何がだ」
「うわぁ!!」

独り言に返事をされ、ツナはびくりと肩を震わせて振り返った。そこには、いつものごとくマーモンを頭に乗せたスクアーロが立っていた。どうした、そう彼女は問う。

「……何辛気臭い面して歩いてんだ」
「ちょっと、考え事。……っても、オレの事じゃないけど」

するとにやりとマーモンが口元だけで笑い、ツナを指差して指摘した。

「随分余裕だね。君、臨月じゃないの?」
「……そう、なんだけど。でもどうしても、気になるんだ」

随分大きくなった腹を撫で、ツナはまた溜息を吐いて呟いた。
ぽんぽんと、スクアーロがツナの頭に手を置いて言う。

「てめえの事だ、またくだらねえ事で考え込んでんだろうが、あんま考えすぎんじゃねえぞ。一番重要なのが目の前にあるのは他でもねえお前だからな」
「うん。ありがと、スクアーロ」
「……それにしたって君、どうなるんだろうね」

スクアーロの頭の上からツナを見下ろし、マーモンはふとそんな事を言った。

「賭けてみるかい、スクアーロ」

唐突なマーモンの提案に、スクアーロはぎょっと頭上を見上げ、毒舌の子供を牽制するように返答する。

「マーモン……妙な事言うんじゃねえぞお」

そのやり取りに、引っかかるものがあったのか。ツナはマーモンを見上げ、問いを投げつけた。

「賭け?」
「うん。君が『あの』リボーンを産んで、生きていられるか」

あまりに思わせぶりな口調に、ツナは更に疑問を浮かべる。そして、素直な彼女はそれをそのまま口にした。

「どういうこと?」
「それはね――むぐっ」

答えようとした、瞬間。マーモンはスクアーロに首根っこをつかまれ口を押さえられ、がばりと頭上から引き下ろされた。それでもマーモンは、彼女の手のひら越しにもごもごと何かを言う。しかしそれは言葉にならず、それを抑えるスクアーロは大声でマーモンを怒鳴りつけた。

「余計な事言うんじゃねえ!!」
「賭け…………あ!」

そんなやり取りを考え事半分に見ていたツナは急に両手を合わせ、ひらめいた!と目を輝かせた。先ほどまで浮かない顔をしていたというのに、今は楽しげでさえいる。その変貌ぶりにぎょっとするスクアーロを、ツナは呼んだ。

「ねえ、スクアーロ」
「どうしたあ?」
「ラルちゃん、どこにいるか知ってる?」

持ち出されたのはなりそこないと呼ばれるアルコバレーノの名。
ツナの真意が分からず、けれどスクアーロは問いかけにきっぱりと答えた。

「知らねえぞお」

その腕の中でマーモンも否定に首を振る。二人とも元々ラルとの縁は薄い。滅多に会う事もなく、居場所を知っているはずがなかった。

「うーん……ん、と……雲雀さんとこかなあ」

小首を傾げながら一人結論を出したツナは、くるりと踵を返す。何があった、とスクアーロは問うた。

「どうしたあ」
「いい事思いついたんだ!ありがと、マーモン」

どうやらマーモンの言葉がヒントになったらしい。うきうきと背中を弾ませ、ツナはそのまま駆け出そうとする。それを慌てて止めて、スクアーロは落ち着けとツナを宥めた。

「走るんじゃねえ」
「うん!」

けれど急ぎ足で雲雀の研究室に向かうツナをふたりは見送る。その姿が消えた頃、ようやくスクアーロの腕から抜け出したマーモンは、気の抜けた様子でスクアーロに言った。

「スクアーロ」
「ん?」
「あの子、変わってるね」

曖昧に、スクアーロはその言葉を肯定する。くしゃりと銀髪の先を掴み、彼女は答えた。

「昔からあんなんだぜえ。ま、あいつらしいがな」




「雲雀さん、ラルちゃんいますか?」

ばたん、と扉を開け研究室に飛び込んできたツナに、雲雀は諌めるよう言葉を返した。

「煩いよ」
「す、すみません」
「もうちょっと落ち着いたら?臨月だろ、君」
「気をつけます……」

ひたすらにツナは謝る。と、雲雀の後ろからひょっこりとラルが姿を見せた。どうやらツナの予想した通り、ここにいたらしい。
ラルはてくてくとツナに歩み寄ると、彼女を見上げて聞いた。

「どうした、俺に用か?」
「うん。あのね……」

ツナは真顔でラルに向き合う。その真剣な様子に、ラルも居住まいを正して向き直った。感心があるのかないのか、雲雀は黙り込んで傍観に徹している。

「賭けをしよう」

きっぱりとした口調で、ツナは言った。

「…………賭け?」

きょとん、とラルは聞き返す。ツナはそれに頷いて、説明を――賭けの内容を、話し出した。

「オレがリボーンを産んで死ななかったら、京子ちゃんと仲直りする」

……あー、喧嘩はしてないから、仲直りって言わないか。
そんな事を呟くツナに、ラルは眉を寄せ、理解ができない、そうちいさく言うと、こう聞いてきた。

「……どうして、そう俺達の事を気にするんだ?」
「…………ラルちゃん?」
「お前がやけに気にしていると、コロネロが言っていた。だがあいつと俺の問題に、お前は関係ないだろう?」
「関係は、ないけど」

へなりと眉を下げてツナは曖昧な笑顔を見せる。

「仲良くして欲しいなって、オレが思うんだ。二人とも、さびしそうだし。それに……」

言葉を途切れさせ、何か、足りない言葉を探すように上を向いたツナに、ラルは黙ってその先の声を待った。

「…………家族、だし。オレには家族って、よく分からないんだけどね。分からないからこそ、仲良くしてほしいっていうか……あれ、何言いたいか分かんなくなっちゃった、ごめん」

頭をかいて謝るツナに、ラルは息を吐いた。そして呆れとも、諦めともつかない視線を、ツナの琥珀色をした目に向ける。

「本当に、お前はお人好しだな」
「うん。自覚してる」

悪びれもせず笑顔を浮かべ続けるツナに、ラルもほんのりと口元を緩め、ちいさく頷いた。

「……いいだろう。その賭け、乗ってやる」
「本当!?」

瞬間、ツナはぱっと表情を明るくし、そんな彼女にラルはもう一度頷いてみせる。

「俺もずっとこのままは……嫌だからな」

ぽつりと零れた本音は、恐らくはラルの抱える本物の思いで。それを聞いたツナは嬉しそうに頷き、手を出して提案した。

「じゃあ、約束!指きりしよ」
「…………ああ」

ぴょん、とラルは机に飛び乗るとツナの差し出した小指に、自分の小指を絡めた。




その、翌日。
ふらりと骸の研究室に現れたコロネロは珍しく一人で、彼は心底不思議な表情で、ツナに聞いた。

「お前、どんな魔法使ったんだコラ」
「え?」
「あの強情が、京子と会うかもしれねえって……どういう事だコラ」

んー、と腕組して考え、ツナはウインクを返した。

「……まだ、内緒」




*****
ツナ、動き出すの巻。
いつの間にか臨月ですがそういえばそういう描写をすっかり忘れていたような……すみません。
臨月のおなかってどんなだったっけな、と思い出せない自分です。

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