Ciao,il mio iride
疑念と困惑の欠片
戸惑った様子で辺りをきょろきょろ不安そうに見回す娘はよく見ずとも知った顔で。どうしたんだろう、とツナは思わず声を掛けた。
「クローム?」
はっと娘、クローム髑髏がツナを見る。小さくツナの名を呼んでぱたぱた駆け寄ってくる彼女に、ツナは首を傾げて聞いた。
「どうして、クロームがこんな所に?」
ボンゴレ本拠地、その屋敷内。
普段別館の研究棟に篭りっきりのクロームがこちらに来る、それはツナにとって思ってもみない出来事で、その理由も分からなかった。
「骸様のお使いで……ボンゴレ九代目の所に行こうとしたのだけど、迷っちゃったの……」
へなりと眉を下げてクロームは答えた。その細腕にはいくつかのファイルが抱えられている。
「それ、九代目に?」
ファイルを指差してツナが聞くと、こくり、クロームは首肯した。
「あんまりこっちには行かないから……」
「オレが案内しようか?」
ツナの提案に、クロームは驚いたようだった。眼帯に覆われていない左目が、大きく見開かれる。
「え?」
「場所分かるし、ちょうどオレ暇してたし」
「……いいの?」
「うん」
答え、ツナはまだ躊躇いを見せるクロームの手を取った。そしてすぐにこっちだよ、と歩き出す。
広い屋敷をすいすいと迷いなく進むツナに、クロームは瞠目する。同じような作りの通路を彼女は躊躇いなく歩いていた。
「詳しいのね、ツナは」
ぽつりと発したクロームの言葉にツナは答えた。
「ここ、長いから」
「…………?」
不思議そうに見返してくるクロームに、ツナはにこりと笑って答えを返す。
「昔からいるんだ。だから、自然と詳しくなって」
「そう、なの?」
「まあ研究棟の方面は入ったこと無かったから、知らないけどね」
研究棟は出入りの規制が厳しい。確かにマザーではない頃のツナがそこに立ち入ることはありえないだろうと、クロームは納得する。
けれどそれ以外は、どうなのだろう。
骸が持っていた記録ではツナはボンゴレの諜報部に所属していたという。それは、果たして『昔から』という彼女の表現と一致するのか。
戸惑いながら、クロームは隣を歩くツナを見た。それに気付かず、ツナはふと溢す。
「そういえば前も、こんな事あったなあ」
「まえ?」
「何年も……どれくらい前だったかな、忘れちゃったんだけど、こんな風に迷子の男の子を連れて行ったことがあってさ」
きっともう、オレより大きくなっちゃんたんだろうな。懐かしそうに笑うツナに、クロームは戸惑った。
昔から。何年も前。
記録と、ツナが話す言葉の差異。
些細な言葉で少しずつ、ツナが分からなくなっていく。
けれど何も聞けないまま、二人は広い屋敷を進んでいく。
「さ、ついた」
あっという間にたどり着いた執務室の扉の前で、ツナはさらりとクロームの手を離した。
「じゃあ、オレここまでだから」
「……ええ。ありがとう、ツナ」
クロームがおずおず扉を叩く。ほぼ同時に扉が開き、九代目ボンゴレが姿を見せた。彼はクロームに待ってたよと声を掛けた。
「随分早く着いたね。迷ってしまうのではないか心配していたのだが――ああ、案内してもらったんだね?」
彼はすぐにクロームの横に立つツナに気付き、目を細めた。クロームはこくりと頷く。
「……はい」
「ツナ、君は寄っていかないのかい?」
するとツナはにこやかに問う九代目をじっと見据えて、答えた。
「こないだ寄ったじゃないですか、っていうかあんまりオレで遊んでるとまたおじ様方に怒られますよ」
「……それは怖いな」
返事とは釣りあわない笑顔を九代目は見せる。じゃあオレはここで。そう言いツナは少し離れて、クロームに手を降った。
「じゃ、クローム、またね」
「うん。また」
ツナの背が廊下を消えるまで見送って、クロームはぽつりと言った。
「九代目」
「どうしたんだい?」
「……ツナは、不思議な子ね」
ファイルを胸で抱きしめ、彼女は言う。
今日のツナは不思議な事だらけで、けれどその不思議の正体は聞いてはいけないのだろう。何となく、クロームはそう予感していた。
戸惑った様子で辺りをきょろきょろ不安そうに見回す娘はよく見ずとも知った顔で。どうしたんだろう、とツナは思わず声を掛けた。
「クローム?」
はっと娘、クローム髑髏がツナを見る。小さくツナの名を呼んでぱたぱた駆け寄ってくる彼女に、ツナは首を傾げて聞いた。
「どうして、クロームがこんな所に?」
ボンゴレ本拠地、その屋敷内。
普段別館の研究棟に篭りっきりのクロームがこちらに来る、それはツナにとって思ってもみない出来事で、その理由も分からなかった。
「骸様のお使いで……ボンゴレ九代目の所に行こうとしたのだけど、迷っちゃったの……」
へなりと眉を下げてクロームは答えた。その細腕にはいくつかのファイルが抱えられている。
「それ、九代目に?」
ファイルを指差してツナが聞くと、こくり、クロームは首肯した。
「あんまりこっちには行かないから……」
「オレが案内しようか?」
ツナの提案に、クロームは驚いたようだった。眼帯に覆われていない左目が、大きく見開かれる。
「え?」
「場所分かるし、ちょうどオレ暇してたし」
「……いいの?」
「うん」
答え、ツナはまだ躊躇いを見せるクロームの手を取った。そしてすぐにこっちだよ、と歩き出す。
広い屋敷をすいすいと迷いなく進むツナに、クロームは瞠目する。同じような作りの通路を彼女は躊躇いなく歩いていた。
「詳しいのね、ツナは」
ぽつりと発したクロームの言葉にツナは答えた。
「ここ、長いから」
「…………?」
不思議そうに見返してくるクロームに、ツナはにこりと笑って答えを返す。
「昔からいるんだ。だから、自然と詳しくなって」
「そう、なの?」
「まあ研究棟の方面は入ったこと無かったから、知らないけどね」
研究棟は出入りの規制が厳しい。確かにマザーではない頃のツナがそこに立ち入ることはありえないだろうと、クロームは納得する。
けれどそれ以外は、どうなのだろう。
骸が持っていた記録ではツナはボンゴレの諜報部に所属していたという。それは、果たして『昔から』という彼女の表現と一致するのか。
戸惑いながら、クロームは隣を歩くツナを見た。それに気付かず、ツナはふと溢す。
「そういえば前も、こんな事あったなあ」
「まえ?」
「何年も……どれくらい前だったかな、忘れちゃったんだけど、こんな風に迷子の男の子を連れて行ったことがあってさ」
きっともう、オレより大きくなっちゃんたんだろうな。懐かしそうに笑うツナに、クロームは戸惑った。
昔から。何年も前。
記録と、ツナが話す言葉の差異。
些細な言葉で少しずつ、ツナが分からなくなっていく。
けれど何も聞けないまま、二人は広い屋敷を進んでいく。
「さ、ついた」
あっという間にたどり着いた執務室の扉の前で、ツナはさらりとクロームの手を離した。
「じゃあ、オレここまでだから」
「……ええ。ありがとう、ツナ」
クロームがおずおず扉を叩く。ほぼ同時に扉が開き、九代目ボンゴレが姿を見せた。彼はクロームに待ってたよと声を掛けた。
「随分早く着いたね。迷ってしまうのではないか心配していたのだが――ああ、案内してもらったんだね?」
彼はすぐにクロームの横に立つツナに気付き、目を細めた。クロームはこくりと頷く。
「……はい」
「ツナ、君は寄っていかないのかい?」
するとツナはにこやかに問う九代目をじっと見据えて、答えた。
「こないだ寄ったじゃないですか、っていうかあんまりオレで遊んでるとまたおじ様方に怒られますよ」
「……それは怖いな」
返事とは釣りあわない笑顔を九代目は見せる。じゃあオレはここで。そう言いツナは少し離れて、クロームに手を降った。
「じゃ、クローム、またね」
「うん。また」
ツナの背が廊下を消えるまで見送って、クロームはぽつりと言った。
「九代目」
「どうしたんだい?」
「……ツナは、不思議な子ね」
ファイルを胸で抱きしめ、彼女は言う。
今日のツナは不思議な事だらけで、けれどその不思議の正体は聞いてはいけないのだろう。何となく、クロームはそう予感していた。