◇第四十六話◇今はまだ夢と現実の狭間にいる
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専用の抱き枕がないと眠れないとか、適当なことを言われて、結局私は、ズルズルと、ジャンにベッドに引きずり込まれた。
隣で横になった私に掛布団をかけたジャンは、両腕で包むように抱きしめた。
本当に、今夜も抱き枕にするつもりらしい。
ジャン専用の抱き枕というのは、いつまで続くのだろう。
寝づらいとかっていう私の知る限りで最も最悪な被害があるわけでもないから、別にいいけれど——。
「これで、明日には治ってそうです。」
ジャンの嬉しそうな声が、頭上から落ちてくる。
私にうつすつもりかと頬を膨らませて文句を言えば、小さな笑い声が続いた。
「ねぇ。」
「ん?なんすか。」
「昨日、どうして私達、2人とも服着てなかったの?」
私は、包み込むジャンの腕の中から顔を出して、彼を見上げ、訊ねた。
本当は朝からずっと気になっていたのだ。
私だけが服を着ていなかったのなら、夜中に暑くて脱いだのかもしれないと思えた。
実際、最初はそうだと思っていたのだ。
でも、ジャンも服を着ていなかった。
まぁ、上だけだけれど、それでも、気になる。
普通、上司と部下は、上半身裸になって、同じベッドで眠ったりしないのだ。
「…さぁ。暑かったんじゃないっすか。」
「知らないの?」
「我儘な病人の看病で俺も疲れてたんで、よく覚えてないです。」
「私以外にも病人がいたのか。」
「アンタのことだよ。」
「やっぱり?」
クスクスと笑う私に、ジャンから呆れたような空気が漏れたのが聞こえた。
少し前まで、夢のようなキラキラした世界で、お姫様になった気分でいたのが嘘みたいだ。
心が踊って、ワクワクして、ドキドキしたのは本当だ。
でも、私は、今の方が楽しい。
だって、大好きなベッドの上にいるし、世界で一番強くて、きっとどんなことからだって私を守ってくれる人の腕の中で、心から安心して笑っていられる。
これ以上の幸せを探そうと思ったら、私はきっと本物の夢の世界に行くしかない。
あの夢のような世界よりも、ジャンとこうして過ごすなんてことない時間の方が楽しいのなら、きっとここが、現実の世界で一番幸せな場所なのだ。
だから、なんだか眠たくなってきて———。
『ジャン…、好きなの…。好き…。』
夢の中に半分足を踏み入れたようなふわふわとした意識の向こうから、ひどく切なそうな声が聞こえた。
それは、確かに私の声だった気がした。
「ジャン、好きなの。好き。」
ジャンを見上げた私は、聞こえて来た台詞と同じことを言ってみた。
目が合ったまま、ジャンは黙っていた。
しばらくの沈黙の後、やっと、ジャンが口を開く。
「今度は何を企んでるんですか?」
「だよね。」
「は?」
「ううん、なんでもないの。なんか、寝ぼけてて変な夢見てたみたい。」
私は視線を落として、ジャンの胸元に顔を埋めた。
ジャンの腕の中は、とても温かいし、心臓の鼓動が心地良い。
だからすぐに眠たくなってしまって、変な夢を見てしまったのだ。
「何すかそれ。」
ジャンは、そう言いながら、抱き直すようにして、腕の中にいる私を自分の身体に抱き寄せた。
「ジャンに告白する夢。」
「へー、珍しい夢ですね。で、返事は何でした?」
「さぁ?すごく悲しそうに好きって言ってたから、フラれたのかも。」
「それは残念でしたね。」
ジャンが小馬鹿にしたように言って、ククッと笑う。
「他人事みたいに言うな。振ったのはジャンだよ。」
「俺じゃねぇっすよ。なまえさんの夢でしょ。」
「モデルはジャンなんだから、夢の中の私を振って傷つけたのは、ジャン。
だから、ジャンが悪い。来月のデザートも私に寄越せ。」
「相変わらず横暴っすね。」
ジャンは楽しそうに言う。
まだ、少し声に元気はない。
でも、パーティーから帰って来たときのジャンは、辛そうな顔をしていて、声も弱々しかったのに比べれば、だいぶ良くなっているようで、安心した。
「なら、現実の世界で俺になまえさんが告白してきたら
振らないであげますよ。」
「あ、言ったからね。それなら、私の人生初の告白はジャンにしよ~。
初めての告白で振られたら、きっと引きずっちゃうもん。」
「いいっすね。
それで、いつ俺に告白します?」
「ん~、1000年後かなぁ~。」
「する気ねぇな。」
ジャンの呆れた声に、私はアハハと声を上げて笑う。
夢と現実の狭間は気持ちがいい。
ジャンの低い声は、まるで子守唄みたいだ。
優しくて、温かくて、凄くホッとする。
——ふわふわとした意識の向こうでは、何を言ってるのかは、よく分からなかったけれど。
「———って、また寝てんのかよ。早ぇって。」
ジャンの楽しそうな笑い声が、遠くで聞こえた。
今日は、とても幸せな夢を見られそうな気がする——。
隣で横になった私に掛布団をかけたジャンは、両腕で包むように抱きしめた。
本当に、今夜も抱き枕にするつもりらしい。
ジャン専用の抱き枕というのは、いつまで続くのだろう。
寝づらいとかっていう私の知る限りで最も最悪な被害があるわけでもないから、別にいいけれど——。
「これで、明日には治ってそうです。」
ジャンの嬉しそうな声が、頭上から落ちてくる。
私にうつすつもりかと頬を膨らませて文句を言えば、小さな笑い声が続いた。
「ねぇ。」
「ん?なんすか。」
「昨日、どうして私達、2人とも服着てなかったの?」
私は、包み込むジャンの腕の中から顔を出して、彼を見上げ、訊ねた。
本当は朝からずっと気になっていたのだ。
私だけが服を着ていなかったのなら、夜中に暑くて脱いだのかもしれないと思えた。
実際、最初はそうだと思っていたのだ。
でも、ジャンも服を着ていなかった。
まぁ、上だけだけれど、それでも、気になる。
普通、上司と部下は、上半身裸になって、同じベッドで眠ったりしないのだ。
「…さぁ。暑かったんじゃないっすか。」
「知らないの?」
「我儘な病人の看病で俺も疲れてたんで、よく覚えてないです。」
「私以外にも病人がいたのか。」
「アンタのことだよ。」
「やっぱり?」
クスクスと笑う私に、ジャンから呆れたような空気が漏れたのが聞こえた。
少し前まで、夢のようなキラキラした世界で、お姫様になった気分でいたのが嘘みたいだ。
心が踊って、ワクワクして、ドキドキしたのは本当だ。
でも、私は、今の方が楽しい。
だって、大好きなベッドの上にいるし、世界で一番強くて、きっとどんなことからだって私を守ってくれる人の腕の中で、心から安心して笑っていられる。
これ以上の幸せを探そうと思ったら、私はきっと本物の夢の世界に行くしかない。
あの夢のような世界よりも、ジャンとこうして過ごすなんてことない時間の方が楽しいのなら、きっとここが、現実の世界で一番幸せな場所なのだ。
だから、なんだか眠たくなってきて———。
『ジャン…、好きなの…。好き…。』
夢の中に半分足を踏み入れたようなふわふわとした意識の向こうから、ひどく切なそうな声が聞こえた。
それは、確かに私の声だった気がした。
「ジャン、好きなの。好き。」
ジャンを見上げた私は、聞こえて来た台詞と同じことを言ってみた。
目が合ったまま、ジャンは黙っていた。
しばらくの沈黙の後、やっと、ジャンが口を開く。
「今度は何を企んでるんですか?」
「だよね。」
「は?」
「ううん、なんでもないの。なんか、寝ぼけてて変な夢見てたみたい。」
私は視線を落として、ジャンの胸元に顔を埋めた。
ジャンの腕の中は、とても温かいし、心臓の鼓動が心地良い。
だからすぐに眠たくなってしまって、変な夢を見てしまったのだ。
「何すかそれ。」
ジャンは、そう言いながら、抱き直すようにして、腕の中にいる私を自分の身体に抱き寄せた。
「ジャンに告白する夢。」
「へー、珍しい夢ですね。で、返事は何でした?」
「さぁ?すごく悲しそうに好きって言ってたから、フラれたのかも。」
「それは残念でしたね。」
ジャンが小馬鹿にしたように言って、ククッと笑う。
「他人事みたいに言うな。振ったのはジャンだよ。」
「俺じゃねぇっすよ。なまえさんの夢でしょ。」
「モデルはジャンなんだから、夢の中の私を振って傷つけたのは、ジャン。
だから、ジャンが悪い。来月のデザートも私に寄越せ。」
「相変わらず横暴っすね。」
ジャンは楽しそうに言う。
まだ、少し声に元気はない。
でも、パーティーから帰って来たときのジャンは、辛そうな顔をしていて、声も弱々しかったのに比べれば、だいぶ良くなっているようで、安心した。
「なら、現実の世界で俺になまえさんが告白してきたら
振らないであげますよ。」
「あ、言ったからね。それなら、私の人生初の告白はジャンにしよ~。
初めての告白で振られたら、きっと引きずっちゃうもん。」
「いいっすね。
それで、いつ俺に告白します?」
「ん~、1000年後かなぁ~。」
「する気ねぇな。」
ジャンの呆れた声に、私はアハハと声を上げて笑う。
夢と現実の狭間は気持ちがいい。
ジャンの低い声は、まるで子守唄みたいだ。
優しくて、温かくて、凄くホッとする。
——ふわふわとした意識の向こうでは、何を言ってるのかは、よく分からなかったけれど。
「———って、また寝てんのかよ。早ぇって。」
ジャンの楽しそうな笑い声が、遠くで聞こえた。
今日は、とても幸せな夢を見られそうな気がする——。