眠り姫は目覚めのキスを待っている

≪あらすじ≫

遠い昔————。
人類がまだ、恐ろしい天敵から逃げるために高く築いた壁の中で、不自由な暮らしを強いられていた時代に、美しくも風変わりな女がいた。
いつも心ここにあらずの上の空で、ありもしない妄想ばかりを語る彼女のことを、いつしか人々は〝眠り姫〟と呼ぶようになった。
人類が、壁で出来た鳥籠の中で生きているとき、彼女だけは、深い、深い、眠りの中にいた。
悲劇ばかりを目の当たりにしてしまった彼女には、残酷な現実は、あまりにも生きづら過ぎたのだ。
だから彼女は、夢の世界へと逃げ込むことにした。
それが、残酷な世界で彼女が見つけた、傷つかずに生きる術だった。
夢の世界は、彼女にとって、とても素晴らしい場所だった。
そこにいれば、彼女はいろんな物語のヒロインになれた。
優しい王子様とのラブ・ストーリーや、いつも笑っている仲間達との冒険アドベンチャー、他にもたくさんの物語を描いた。
そこでは、彼女が願えば、欲しいものはすべて手に入った。
それは、冷たい風が吹けば消えてしまう、淡い炎の向こうに浮かぶまやかしに過ぎなかったかもしれないが、それでも構わなかった。
彼女は、まやかしを映し出す炎を何度も灯し続けた。
そして、綺麗なドレスを身に纏い、招待客は自分だけの舞踏会で、広いホールを独り占めして、何の悩みもなく無邪気に踊り明かす。
夢の世界は、朝も夜も関係なく、彼女を踊らせた。
そして、それを、幸せだと信じさせた。
だが、いつかそれが、自らを騙していただけなのだと気づく日が訪れる。
彼女は、本物の幸せを知ってしまったのだ。
その途端、あれほど素晴らしかったはずの夢の世界が、一気に虚しいだけの空間へと変わり果てた。
寂しさに襲われた彼女は、そこで初めて孤独に気づく。
なぜなら、ありとあらゆるものを手に入れることが出来るはずの夢の世界には、愛する人だけがいなかったのだ。
意地悪な微笑みも、彼女をからかう低い声も、力強く抱きしめる腕も、そこにはない。
目を覚まさない限り、とびきり甘やかしてくれる、彼の優しい瞳を見つめ返すことが出来ないのだと気づいた瞬間、夢の世界に囚われた彼女が願うことは、ただひとつだけになった。

彼女は、深い、深い、眠りの中にいる。
ひたすら待ち続ける。
この世界でただひとり、誰よりも愛している、彼のキスを———。







※お相手:4年後のジャン(19歳)×リヴァイ兵長(30代半ば)
※原作沿いですが、マーレ編には突入しておりません。
 トロスト区奪還作戦以降の歴史が大きく変更されております。

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