エレンが差し出した手に、細く綺麗なミカサの手が乗った。
まるで、世界一大切なお姫様を扱うみたいに、エレンが、彼女をエスコートしながら、馬車から降ろす。
それがまるで、小説のワンシーンを見ているみたいに素敵で、私は思わず見惚れてしまった。

「なまえ、何をボーっとしてんだ。
　そのまま、馭者に兵舎に連れて帰ってもらうつもりか？」

リヴァイ兵長に名前を呼ばれてハッとする。
いつの間にか、隣に座っていたリヴァイ兵長も馬車から降りてしまっていたらしい。

「降ります、降ります！絶対に行きます！」

早口で言って、慌てて立ち上がる。
そして、降りようとした私の前には、見慣れない華奢な手が差し出されていた。

「そんな恰好じゃ降り辛ぇだろ。掴まれ。」

リヴァイ兵長が、私を見上げて言う。
あぁ、違う。
憧れの騎士が、お姫様を守ろうとしているのだ。
きっとこうやって、彼に大切にされ続けて、彼女は彼を愛するようになる。
ううん、本当はね、お姫様は、騎士に出逢ったそのときからずっと惹かれてた。
そして、彼も本当はずっと、叶わないと知りながらお姫様を想ってた。
だから、2人が禁断の恋に落ちるのは、とても自然なことで、いつか気持ちが通じ合って、愛し合うようになって、それから————。

「おい。」

リヴァイ兵長の声で、ハッとした。
そんな私を見て、リヴァイ兵長が呆れたような視線を向ける。

「どうしてお前はいつも、すぐにボーッとするんだ。」
「すみません…。」

いたたまれない気持ちで目を伏せて謝る。
そして、私は、今度こそ、緊張しながら、リヴァイ兵長の手に自分の手を重ねた。
華奢だけれど、仲間達の為にずっと戦い続けて来た男の人らしい細さの手だ。
初めて触れたわけじゃないのに、初めて触れたみたいにドキドキした。
きっと、リヴァイ兵長が、騎士の格好をしているせいだ。
私は今、本物の眠り姫なんだ———。