◇第三十七話◇悪夢に魘される眠り姫は彼を求める
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着替えをどうするのか、考え事をしながら扉を開いたジャンは、最初、いまいち状況を飲み込めなかった。
扉を開いたままの格好で、身体と共に思考が停止してしまったくらいだ。
ベッドにいたのは、なまえだけではなかった。縁に座っているのは、彼女の大好きなリヴァイで、彼らは———。
ジャンに気がついたリヴァイが、自分に抱き着いているなまえの肩をそっと押すと、2人を繋いでいた唇がゆっくりと離れた。
だが、リヴァイに離されたのが気に入らなかったのか、なまえはまた、彼に抱き着いた。
胸元に頬を寄せて、気持ちよさそうに眠ろうとしている彼女に、ジャンは思わず眉を顰める。
リヴァイも、それ以上は、なまえを引き離そうとはしないのだ。
今目の前に、〝婚約者〟と名のつく男がいるというのに、人類最強の男は、全く動じる様子がない。
それが、男としての自分を馬鹿にされているようで、ひどく気に入らなかった。
ジャンは、静かに扉を閉める。
パタン、と渇いた音を背中で聞いた後、口を開いた。
「何やってるんすか。」
シンとした部屋に、冷たく尖ったジャンの声は、やけに耳に響いた。
「エルヴィンから、なまえが熱を出して寝込んでると聞いて様子を見に来ただけだ。
お前こそ、熱を出して寝込んでる婚約者をほったらかしてどこ行ってやがったんだ。」
リヴァイの声には、ジャンに対する非難が含まれていた。
今、婚約者のいる女にキスをしていたくせに、どの口が言うのか。
落ち着いているリヴァイの前で、怒りに身を任せるのも、取り乱すような格好の悪いこともしたくなかった。
でも、怒りを抑え込もうとしたところで、苛立ちは消えない。
なんとか、震える拳に感情を流し込んで、リヴァイに抱き着いているなまえの元へと向かう。
「団長に呼び出されて次回の特殊任務の作戦について話し合いです。
兵長の方こそ、婚約者が仕事でいない間に、熱出して寝込んでる女に手を出すとか
なかなか姑息なことするんですね。人類最強の兵士も、ただの男だって知れて安心しましたよ。」
苛立ちは結局、嫌味になって、リヴァイを非難する。
ジャンの性格上、言わないと気が済まなかったのだ。
でも、リヴァイは言い訳もしなければ、言い返すわけでもない。
必死に怒りを抑えるジャンに対して、感情の乱れが全くないのだ。
少なくとも、ジャンにはそう見えた。
だから、ただ黙って自分を見返してくる端正な顔が、心底気に入らなかった。
ベッドにやって来たジャンは、なまえの腕を掴む。
無意識に力がこもってしまったせいか、彼女が、のっそりと、ゆっくりと、顔を上げる。
熱で潤み、虚ろになった瞳が、漸くジャンを捉える。
でも、それさえも、視線は定まらず、ちゃんと見えているのか分からない。
「あ、れ…?ジャ、ン…?なん、で?」
「俺がいたら悪かったですか。」
ジャンは、思わず眉を顰める。
そして、少し乱暴になまえの腕を引き上げて、横抱きにする。
「すいません。リヴァイ兵長が、俺の女のことを心配してくれてるのは有難いんすけど、
今から彼女の着替えをさせるんで出て行ってもらえますか。
それとも、俺が彼女の服を脱がすのをそこで見てます?」
自分のことを性格が良いと思ったことは、一度もない。
でも、ジャンは、静かな部屋で冷たく刺さるような最低な言葉が、自分のものだとは信じたくなかった。
さすがに、リヴァイも眉を顰めた。
「お前が戻ってきたなら、俺がここに残る必要もねぇ。
部屋に戻る。」
リヴァイは、そう言って立ち上がる。
部屋を出る前に、彼が言ったのが言い訳や、嫌味、せめて、宣戦布告なら、ジャンは、自分のことを嫌いにならずにすんだかもしれなかった。
でも——。
「なまえのことを責めないでやってくれ。
熱でどうかしてただけだ。
文句なら、俺が幾らでも聞く。悪いのは、俺だ。」
それだけ言って、返事の出来ないジャンを残してリヴァイが部屋を出ていく。
閉まった扉を睨みつけながら、ジャンは、何に怒っているのかも分からなくなっていた。
自分の感情よりも、なまえを守ることを最優先出来たリヴァイの方が、男としても人間としても、どう考えても上だとしか思えなくて、彼女を抱えながら、負けてしまったみたいだ。
勝ち負けに拘るそれこそが、そもそも、自分の自信のなさを物語っていることに、ジャンは気づいていた。
だって、誰が人類最強の兵士に敵うのだろう。
巨人すら、彼の前では、小さな赤ん坊のように何も出来なくなる。
そして、眠り姫は、彼ならこの残酷な世界から自分を救ってくれるのではないかと夢を見る。
最初から負けが決まっている勝負どころか、勝負にすらなっていなかったのだ。
そんなこと、最初から、分かっていたけれど———。
扉を開いたままの格好で、身体と共に思考が停止してしまったくらいだ。
ベッドにいたのは、なまえだけではなかった。縁に座っているのは、彼女の大好きなリヴァイで、彼らは———。
ジャンに気がついたリヴァイが、自分に抱き着いているなまえの肩をそっと押すと、2人を繋いでいた唇がゆっくりと離れた。
だが、リヴァイに離されたのが気に入らなかったのか、なまえはまた、彼に抱き着いた。
胸元に頬を寄せて、気持ちよさそうに眠ろうとしている彼女に、ジャンは思わず眉を顰める。
リヴァイも、それ以上は、なまえを引き離そうとはしないのだ。
今目の前に、〝婚約者〟と名のつく男がいるというのに、人類最強の男は、全く動じる様子がない。
それが、男としての自分を馬鹿にされているようで、ひどく気に入らなかった。
ジャンは、静かに扉を閉める。
パタン、と渇いた音を背中で聞いた後、口を開いた。
「何やってるんすか。」
シンとした部屋に、冷たく尖ったジャンの声は、やけに耳に響いた。
「エルヴィンから、なまえが熱を出して寝込んでると聞いて様子を見に来ただけだ。
お前こそ、熱を出して寝込んでる婚約者をほったらかしてどこ行ってやがったんだ。」
リヴァイの声には、ジャンに対する非難が含まれていた。
今、婚約者のいる女にキスをしていたくせに、どの口が言うのか。
落ち着いているリヴァイの前で、怒りに身を任せるのも、取り乱すような格好の悪いこともしたくなかった。
でも、怒りを抑え込もうとしたところで、苛立ちは消えない。
なんとか、震える拳に感情を流し込んで、リヴァイに抱き着いているなまえの元へと向かう。
「団長に呼び出されて次回の特殊任務の作戦について話し合いです。
兵長の方こそ、婚約者が仕事でいない間に、熱出して寝込んでる女に手を出すとか
なかなか姑息なことするんですね。人類最強の兵士も、ただの男だって知れて安心しましたよ。」
苛立ちは結局、嫌味になって、リヴァイを非難する。
ジャンの性格上、言わないと気が済まなかったのだ。
でも、リヴァイは言い訳もしなければ、言い返すわけでもない。
必死に怒りを抑えるジャンに対して、感情の乱れが全くないのだ。
少なくとも、ジャンにはそう見えた。
だから、ただ黙って自分を見返してくる端正な顔が、心底気に入らなかった。
ベッドにやって来たジャンは、なまえの腕を掴む。
無意識に力がこもってしまったせいか、彼女が、のっそりと、ゆっくりと、顔を上げる。
熱で潤み、虚ろになった瞳が、漸くジャンを捉える。
でも、それさえも、視線は定まらず、ちゃんと見えているのか分からない。
「あ、れ…?ジャ、ン…?なん、で?」
「俺がいたら悪かったですか。」
ジャンは、思わず眉を顰める。
そして、少し乱暴になまえの腕を引き上げて、横抱きにする。
「すいません。リヴァイ兵長が、俺の女のことを心配してくれてるのは有難いんすけど、
今から彼女の着替えをさせるんで出て行ってもらえますか。
それとも、俺が彼女の服を脱がすのをそこで見てます?」
自分のことを性格が良いと思ったことは、一度もない。
でも、ジャンは、静かな部屋で冷たく刺さるような最低な言葉が、自分のものだとは信じたくなかった。
さすがに、リヴァイも眉を顰めた。
「お前が戻ってきたなら、俺がここに残る必要もねぇ。
部屋に戻る。」
リヴァイは、そう言って立ち上がる。
部屋を出る前に、彼が言ったのが言い訳や、嫌味、せめて、宣戦布告なら、ジャンは、自分のことを嫌いにならずにすんだかもしれなかった。
でも——。
「なまえのことを責めないでやってくれ。
熱でどうかしてただけだ。
文句なら、俺が幾らでも聞く。悪いのは、俺だ。」
それだけ言って、返事の出来ないジャンを残してリヴァイが部屋を出ていく。
閉まった扉を睨みつけながら、ジャンは、何に怒っているのかも分からなくなっていた。
自分の感情よりも、なまえを守ることを最優先出来たリヴァイの方が、男としても人間としても、どう考えても上だとしか思えなくて、彼女を抱えながら、負けてしまったみたいだ。
勝ち負けに拘るそれこそが、そもそも、自分の自信のなさを物語っていることに、ジャンは気づいていた。
だって、誰が人類最強の兵士に敵うのだろう。
巨人すら、彼の前では、小さな赤ん坊のように何も出来なくなる。
そして、眠り姫は、彼ならこの残酷な世界から自分を救ってくれるのではないかと夢を見る。
最初から負けが決まっている勝負どころか、勝負にすらなっていなかったのだ。
そんなこと、最初から、分かっていたけれど———。