◇第三十四話◇愚息の憂いと母の愛
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なまえとジャンが、母親を兵舎の門まで見送りに出た頃には、青い空には赤が混ざり、どこか物悲しい雰囲気を漂わせ始めていた。
ジャンは、目の前に立つ母親を見下ろす。
(こんなに小さかったっけな。)
成長と共に、いつの間にか母親の身長は抜いていた。
でも、今日の彼女は、やけに小さく見えたのだ。
ふくよかな身体は何も変わっていないのに、どこか弱々しくて———。
そうだ、歳を取ったのだなと、改めて実感してしまったのかもしれない。
「うちの愚息を、どうぞよろしくお願いします。」
母親は、自分よりもだいぶ背の高いジャンの頭を手で押して、無理やり頭を下げさせた。
やめろよ、と文句を言って手を振りほどけば、なまえが可笑しそうに笑う。
それが気に入らなくて、ジャンの眉間の皴は増えるばかりだ。
親子で文句を言いあった後、母親がなまえに頭を下げた。
「お仕事で忙しいところを、お相手させてしまって
本当にごめんなさいね。」
「ほんとだぜ、ったく。」
首の後ろを擦りながら、ジャンが舌打ちを漏らせば、母親がまた小言を始めた。
それに、ジャンが面倒そうに返事をするのが、なまえは、とても面白いようだった。
一体、なにが楽しいのか分からない。
「大丈夫ですよ~、仕事なら後で、ジャンが・・・・。」
ジャンがやればいい———。
きっと、そう言おうとしたのだろう。
だが、さすがに、それを不憫な補佐官の母親に言うわけにはいかないと寸前で気づいたらしい。
なまえが慌てて口を両手で押さえた。
(バカ…。)
ジャンが、呆れてため息を吐く。
「うちの息子がどうかしました?」
「あ、いえ…!仕事なら、私達が力を合わせれば、あっという間に終わるので!!」
ね!——。
なまえが、ジャンを見上げて、とびきりの笑顔を見せる。
だが、目が怖い。必死過ぎて瞬きを忘れて、瞳孔の開いた目が怖い。
「…ソウッスネー。」
ジャンは、全く心を込めずに答えた。
くだらないお喋りをし続けてる間に終わらせられたはずの書類が、幾つも残っている。
それはきっと、今夜のジャンの睡眠時間と共に減っていくのだろう。
そして、そのすぐそばで、ベッドで気持ちよさそうに眠るなまえの寝顔も、鮮やかに想像できた。
それから、それなりの挨拶を交わして、漸く、母親が背を向けたときは、ジャンは心底ホッとしたのだ。
でも———。
「お母さん!!」
なまえが、背を向けたばかりの母親を呼び留めた。
少し驚いたように肩を揺らした後、母親が振り返る。
不思議そうに首を傾げる彼女に、なまえはとびきりの笑顔で言う。
「ジャンは、世界で一番強い男です!私の自慢の補佐官です!!
上官としてずっと彼を見てきた私が断言します!!
人類が自由を取り戻したとき、仲間と喜びを分かち合う中に、ジャンは必ずいる!!だから———。」
だから、何も心配しないでください————。
なまえが叫んだ言葉に、母親はゆっくりと目を見開いていった。
そして、その後、口元を両手で覆って、何度も何度も頷くように頭を下げる。
母親は何も言わなかった。
いや、言えなかったのだろう。
きっと、声にならなかったのだと思う。
頭を下げる小さな肩が、震えているから———。
それでも、ジャンだって、母親が何を思い、何を伝えたかったのか、分からないほどの愚息ではない。
「今度は、2人で遊びに来てちょうだいね!
美味しいオムライスを作って待ってるわ!!」
頭を上げた母親は、感謝の言葉の代わりに、今日一番の嬉しそうな顔で言った。
楽しそうに手を振って、母親が帰っていく。
次に会えるのはいつだろうか。
偶には、手紙を出してやるのも悪いことではないかもしれない。
そんなことを考えているジャンの隣で、なまえは、母親の背中が見えなくなるまで、一緒に見送ってくれた。
ジャンは、目の前に立つ母親を見下ろす。
(こんなに小さかったっけな。)
成長と共に、いつの間にか母親の身長は抜いていた。
でも、今日の彼女は、やけに小さく見えたのだ。
ふくよかな身体は何も変わっていないのに、どこか弱々しくて———。
そうだ、歳を取ったのだなと、改めて実感してしまったのかもしれない。
「うちの愚息を、どうぞよろしくお願いします。」
母親は、自分よりもだいぶ背の高いジャンの頭を手で押して、無理やり頭を下げさせた。
やめろよ、と文句を言って手を振りほどけば、なまえが可笑しそうに笑う。
それが気に入らなくて、ジャンの眉間の皴は増えるばかりだ。
親子で文句を言いあった後、母親がなまえに頭を下げた。
「お仕事で忙しいところを、お相手させてしまって
本当にごめんなさいね。」
「ほんとだぜ、ったく。」
首の後ろを擦りながら、ジャンが舌打ちを漏らせば、母親がまた小言を始めた。
それに、ジャンが面倒そうに返事をするのが、なまえは、とても面白いようだった。
一体、なにが楽しいのか分からない。
「大丈夫ですよ~、仕事なら後で、ジャンが・・・・。」
ジャンがやればいい———。
きっと、そう言おうとしたのだろう。
だが、さすがに、それを不憫な補佐官の母親に言うわけにはいかないと寸前で気づいたらしい。
なまえが慌てて口を両手で押さえた。
(バカ…。)
ジャンが、呆れてため息を吐く。
「うちの息子がどうかしました?」
「あ、いえ…!仕事なら、私達が力を合わせれば、あっという間に終わるので!!」
ね!——。
なまえが、ジャンを見上げて、とびきりの笑顔を見せる。
だが、目が怖い。必死過ぎて瞬きを忘れて、瞳孔の開いた目が怖い。
「…ソウッスネー。」
ジャンは、全く心を込めずに答えた。
くだらないお喋りをし続けてる間に終わらせられたはずの書類が、幾つも残っている。
それはきっと、今夜のジャンの睡眠時間と共に減っていくのだろう。
そして、そのすぐそばで、ベッドで気持ちよさそうに眠るなまえの寝顔も、鮮やかに想像できた。
それから、それなりの挨拶を交わして、漸く、母親が背を向けたときは、ジャンは心底ホッとしたのだ。
でも———。
「お母さん!!」
なまえが、背を向けたばかりの母親を呼び留めた。
少し驚いたように肩を揺らした後、母親が振り返る。
不思議そうに首を傾げる彼女に、なまえはとびきりの笑顔で言う。
「ジャンは、世界で一番強い男です!私の自慢の補佐官です!!
上官としてずっと彼を見てきた私が断言します!!
人類が自由を取り戻したとき、仲間と喜びを分かち合う中に、ジャンは必ずいる!!だから———。」
だから、何も心配しないでください————。
なまえが叫んだ言葉に、母親はゆっくりと目を見開いていった。
そして、その後、口元を両手で覆って、何度も何度も頷くように頭を下げる。
母親は何も言わなかった。
いや、言えなかったのだろう。
きっと、声にならなかったのだと思う。
頭を下げる小さな肩が、震えているから———。
それでも、ジャンだって、母親が何を思い、何を伝えたかったのか、分からないほどの愚息ではない。
「今度は、2人で遊びに来てちょうだいね!
美味しいオムライスを作って待ってるわ!!」
頭を上げた母親は、感謝の言葉の代わりに、今日一番の嬉しそうな顔で言った。
楽しそうに手を振って、母親が帰っていく。
次に会えるのはいつだろうか。
偶には、手紙を出してやるのも悪いことではないかもしれない。
そんなことを考えているジャンの隣で、なまえは、母親の背中が見えなくなるまで、一緒に見送ってくれた。