◇第三十話◇いつか君は恋に奪われる
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部屋に戻ってすぐに、ジャンは、デスク横の本棚一番上に手を伸ばすと、迷うことなく1冊のファイルを取り出した。
そして、パラパラとめくりながら中を確認して、書類を一枚手に取る。
探しもしなかった私は、そんなところにあったのか——、なんて思いながら、ジャンを眺めていた。
そもそもこの部屋は、ジャンが片付けているのだから、私よりも彼の方が把握していて当然なのだ。
まさか、本棚の一番上に置いてあるなんて思わないから、自分でどうにかしようとしなくて良かったと、心底思った。
「これですよ。」
一応、受け取って書類を確認してみれば、確かに巨大樹の森がどうのと書いている。
こんな書類を作った覚えはないから、全てジャンが終わらせてくれたのだろう———、そう思ったけれど、所々に私のサインや筆跡があった。
記憶がないのに仕事を終わらせている私って、もしかして、夢遊病だろうか。
だって、気色悪い虫が這ったようなこの字は、寝ながら仕事をしたとしか思えないのだ。
まぁ、それでも、書いてあるのだから、終わらせた書類ということで間違いない。
「ありがとう、ジャン!さすが、私の自慢の補佐官だよ!」
「こんなときだけ、本当ちゃっかりしてますよね。」
ニカッと笑う私に、ジャンは苦笑を漏らしながら、頭の後ろを掻いた。
とにかく、これで団長に書類の提出も出来るし、私の取り急ぎの仕事は終わる。
後は、し損ねたお昼寝をするだけだ。
「じゃあ、書類は私が1人で提出してくるから、
ジャンはフレイヤのところに行ってあげたらいいよ。」
私は、壁掛けの時計を確認しながら、ジャンにそう提案した。
書類の提出くらいなら1人で出来るし、団長の雷から逃がしてくれたジャンの為に、私も何かしてあげたいと思ったのだ。
「は?」
「きっと、ジャンを待ってるよ。」
私は、ジャンの方を向いてニコリと微笑んだ。
でも、何時間もジャンを探し回ってやっと手に入れた書類に浮かれていた私は、ジャンの顔はちゃんと見てなかったのだ。
「私よりもジャンが好きって、それはそうだよね~、ハハ。
だって、私は———。」
言い切るよりも先に、私はジャンの右手に左腕を痛いくらいに掴まれていた。
突然の痛みに顔を顰めたときには、ドンッと言う音を耳元で聞いた。
背中に本棚の板をぶつけて、何の痛みに驚いたのかも、もう分からない。
私を本棚に叩きつけたジャンが、怖い顔で眉を吊り上げているのが、一瞬だけ見えた。
そんな気がしたのは、唇を塞がれた後だった。
強引にねじ込まれてきた舌が、昨日よりも乱暴に咥内を這いまわって、私から呼吸を奪う。
ゴツゴツとした本棚の板が背中にあたって痛くて、なんとか逃げようとしても、ジャンの両手が、私の手首を拘束して本棚に縫い付けようとしているから身動きも取れない。
「ん…っ、は…っ、ふぅ…っ、はァ…っ。」
酸素を求めて、必死に隙間を見つけては、私からは吐息ばかりが漏れる。
そして、ジャンの唇は、私の口を隙間がないくらいに塞いで、ほんの少しだけでも、酸素を肺に取り入れようと必死に藻掻く私の息の根を止めようとする。
息が苦しい。
頭が、クラクラする。
もう、立っていられない———。
膝から崩れ落ちそうだった私の腰を、ジャンがすくい上げるように抱き上げた。
そして漸く、唇が離れて、私は必死に酸素を吸った。
本棚に右肘をついたジャンが、私を見下ろす。
ジャンと本棚との間に挟まれた私は、逃げ場を失われていた。
息苦しさで涙が込み上げてしまっていたのか、ジャンを見上げる視界は少し滲んでいた。
「アンタ、いい加減にしろよ。」
「え…?」
眉を顰めて、切れ長の目を細く歪めて、ジャンは私を見下ろしていた。
「他の女が何言って来たって知るかよ。俺は、アンタの男だろ。」
「でもそれは——。」
「そろそろちゃんと自覚しろよ。
誰のためにこんなことしてると思ってんだよ…!」
「…っ、ごめん…。」
目を伏せて謝った私の上に、これでもかというくらいに大きなジャンため息が落ちてくる。
彼が怒るのも、最もだと思う。分かってる。
でも——、私はただ———。
兵団服のズボンの太ももの辺りを握りしめて、私は弱々しく口を開いた。
出てくるのは、ただの言い訳だ。
分かってる。
「ただ…、私は…、ジャンが大切なんだよ。」
「…なんすか、それ。」
「私のせいで、ジャンが素敵な恋が出来なくなったら嫌なの。
だから、ジャンを好きな娘がいて、ジャンもその娘が好きなら、
私との約束なんて忘れて、恋をして、欲しくて…。」
「で?」
「で…、えっと…。」
「それで、俺が他の女と恋人になったら、なまえさんはどうするんですか?
別にいいんですか?」
「…恋人のフリさせておいて、勝手だけど…。
ジャンを犠牲にして、調査兵団に残るよりは、いいと、思ってるよ。」
目を伏せたまま喋る私の上に、ジャンのため息はもう落ちて来なかった。
ただ、張りつめたような空気と、シンという音が聞こえてきそうなくらいに静かな部屋が、すごく息苦しい。
しばらくそんな状態が続いた後、本棚の間に私を挟んでいたジャンの身体が離れた。
「分かりました。ならお言葉に甘えて、他に好きな女が出来れば
勝手に恋人のフリの関係は解消させてもらいます。」
ジャンはそれだけを言うと、私に背を向けた。
「じゃ、俺はまだミケさんに頼まれた仕事が残ってるんで戻ります。」
「あ、うん。ありがとうね。」
「なまえさんも、そろそろ俺がいなくても仕事が出来るようになってくださいよ。」
「ごめんね、今日は本当に助かっ——。」
「俺に恋人が出来れば、今みたいになまえさんばかりに構ってやることは
出来なくなりますから。」
私が、それに返事することはなかった。
だって、ジャンは出て行ってしまったから。
扉が、パタン、と虚しい音を立てて閉まる。
(あぁ、そっか。ジャンに彼女が出来たら、
今みたいにいつでもなんでも甘えることは出来なくなっちゃうのか。)
私よりも、恋人を優先するジャンを想像した。
意外と真面目なジャンだから、任務中はしっかり上官の私に尽くしてくれるんだろうけれど、任務時間外の彼の時間は、もう私の好きには出来なくなってしまう。
虫が怖いからなんて理由で、真夜中に彼を起こしに行くなんて、絶対にしちゃダメだ。
彼の隣には、恋人が一緒に寝ているかもしれない。
ジャンは、恋人のフリの私の為に、結婚の挨拶だってしてくれた。
寝ぼけた私にお洒落をさせて外に連れ出して、手を繋いで歩いて、楽しいデートをしてくれた。
だから、本物の恋人が出来たら、ジャンはきっとすごく大切にして、楽しい彼でいてくれるんだと思う。
それが分かっているのに、どうして、私の甘えで補佐官を独り占め出来るだろう。
彼が恋をしたのなら、応援するべきだ。
私は、上官として、先輩として、仲間として、間違ってない。
ちゃんと、1人でも仕事が出来るようにならなくちゃ———。
ジャンが出て行った扉を視線で追いかけ続ける私の手は、無意識にシャツの胸元を握り締めていた。
(よし、お昼寝しよう。)
書類は起きてから、夕飯までに提出すれば問題ない。
ジャンが見つけてくれた書類をデスクの上に置いて、私は大好きなベッドに潜り込んだ。
そして、夕飯の時間はとっくに過ぎた頃、届かない書類の催促の為に団長にお使いを頼まれやって来たアルミンが、どんなに揺さぶっても起きない私に途方に暮れ、ジャンに助けを求めるまで、私は眠り続けた。
夢の中で、私は、またジャンとデートしてた。
芝生広場にシートを敷いて、美味しいものを食べる。昨日の再演みたいに、全く一緒。ただの私の現実だった。
せっかくの夢なのに、現実をやり直すなんて、残念だ———。
「なまえさん!!アンタ、いい加減にしろよ!?
どうして、俺が渡した書類がまだデスクにあって、アンタがベッドで寝てたんですか!?」
無理やり起こされた途端、ジャンに怒鳴られた。
ぼんやりとしながら、ジャンを見上げて、私は思った。
たぶん、彼は、カルシウム不足なんだ。
これ以上、身長が伸びてしまったら、見上げるときに首が痛くなるからやめて欲しいけど、怒りっぽいのはどうにかしてほしい。
カルシウムって何を食べれば取れるんだろう。
あぁ、お腹すいた。
「ねぇ、ジャン、今日の夕食って何?」
「とっくに夕飯の時間なんて過ぎてんだよ!!今、何時だと思ってんだ!?」
これでもかというくらいに目を吊り上げたジャンの隣で、アルミンがオロオロしていて、なんか面白かった。
そんなに焦らなくても大丈夫。
だって、夕飯ならきっとジャンが——。
「今すぐ団長に提出しに行きますよ!
その後に、とっておいた夕飯を食べさせてあげますから!」
ほら、やっぱり、ジャンは私の夕飯を取っておいてくれた。
私がひとりで仕事を頑張っていると思って夕飯をとっといてやったのにとかまだジャンのお説教は続いていたけれど———。
「俺がいないと本当に何も出来ねぇな。」
首の後ろを右手で擦りながら、ジャンがボソリと呟いた。
そして、パラパラとめくりながら中を確認して、書類を一枚手に取る。
探しもしなかった私は、そんなところにあったのか——、なんて思いながら、ジャンを眺めていた。
そもそもこの部屋は、ジャンが片付けているのだから、私よりも彼の方が把握していて当然なのだ。
まさか、本棚の一番上に置いてあるなんて思わないから、自分でどうにかしようとしなくて良かったと、心底思った。
「これですよ。」
一応、受け取って書類を確認してみれば、確かに巨大樹の森がどうのと書いている。
こんな書類を作った覚えはないから、全てジャンが終わらせてくれたのだろう———、そう思ったけれど、所々に私のサインや筆跡があった。
記憶がないのに仕事を終わらせている私って、もしかして、夢遊病だろうか。
だって、気色悪い虫が這ったようなこの字は、寝ながら仕事をしたとしか思えないのだ。
まぁ、それでも、書いてあるのだから、終わらせた書類ということで間違いない。
「ありがとう、ジャン!さすが、私の自慢の補佐官だよ!」
「こんなときだけ、本当ちゃっかりしてますよね。」
ニカッと笑う私に、ジャンは苦笑を漏らしながら、頭の後ろを掻いた。
とにかく、これで団長に書類の提出も出来るし、私の取り急ぎの仕事は終わる。
後は、し損ねたお昼寝をするだけだ。
「じゃあ、書類は私が1人で提出してくるから、
ジャンはフレイヤのところに行ってあげたらいいよ。」
私は、壁掛けの時計を確認しながら、ジャンにそう提案した。
書類の提出くらいなら1人で出来るし、団長の雷から逃がしてくれたジャンの為に、私も何かしてあげたいと思ったのだ。
「は?」
「きっと、ジャンを待ってるよ。」
私は、ジャンの方を向いてニコリと微笑んだ。
でも、何時間もジャンを探し回ってやっと手に入れた書類に浮かれていた私は、ジャンの顔はちゃんと見てなかったのだ。
「私よりもジャンが好きって、それはそうだよね~、ハハ。
だって、私は———。」
言い切るよりも先に、私はジャンの右手に左腕を痛いくらいに掴まれていた。
突然の痛みに顔を顰めたときには、ドンッと言う音を耳元で聞いた。
背中に本棚の板をぶつけて、何の痛みに驚いたのかも、もう分からない。
私を本棚に叩きつけたジャンが、怖い顔で眉を吊り上げているのが、一瞬だけ見えた。
そんな気がしたのは、唇を塞がれた後だった。
強引にねじ込まれてきた舌が、昨日よりも乱暴に咥内を這いまわって、私から呼吸を奪う。
ゴツゴツとした本棚の板が背中にあたって痛くて、なんとか逃げようとしても、ジャンの両手が、私の手首を拘束して本棚に縫い付けようとしているから身動きも取れない。
「ん…っ、は…っ、ふぅ…っ、はァ…っ。」
酸素を求めて、必死に隙間を見つけては、私からは吐息ばかりが漏れる。
そして、ジャンの唇は、私の口を隙間がないくらいに塞いで、ほんの少しだけでも、酸素を肺に取り入れようと必死に藻掻く私の息の根を止めようとする。
息が苦しい。
頭が、クラクラする。
もう、立っていられない———。
膝から崩れ落ちそうだった私の腰を、ジャンがすくい上げるように抱き上げた。
そして漸く、唇が離れて、私は必死に酸素を吸った。
本棚に右肘をついたジャンが、私を見下ろす。
ジャンと本棚との間に挟まれた私は、逃げ場を失われていた。
息苦しさで涙が込み上げてしまっていたのか、ジャンを見上げる視界は少し滲んでいた。
「アンタ、いい加減にしろよ。」
「え…?」
眉を顰めて、切れ長の目を細く歪めて、ジャンは私を見下ろしていた。
「他の女が何言って来たって知るかよ。俺は、アンタの男だろ。」
「でもそれは——。」
「そろそろちゃんと自覚しろよ。
誰のためにこんなことしてると思ってんだよ…!」
「…っ、ごめん…。」
目を伏せて謝った私の上に、これでもかというくらいに大きなジャンため息が落ちてくる。
彼が怒るのも、最もだと思う。分かってる。
でも——、私はただ———。
兵団服のズボンの太ももの辺りを握りしめて、私は弱々しく口を開いた。
出てくるのは、ただの言い訳だ。
分かってる。
「ただ…、私は…、ジャンが大切なんだよ。」
「…なんすか、それ。」
「私のせいで、ジャンが素敵な恋が出来なくなったら嫌なの。
だから、ジャンを好きな娘がいて、ジャンもその娘が好きなら、
私との約束なんて忘れて、恋をして、欲しくて…。」
「で?」
「で…、えっと…。」
「それで、俺が他の女と恋人になったら、なまえさんはどうするんですか?
別にいいんですか?」
「…恋人のフリさせておいて、勝手だけど…。
ジャンを犠牲にして、調査兵団に残るよりは、いいと、思ってるよ。」
目を伏せたまま喋る私の上に、ジャンのため息はもう落ちて来なかった。
ただ、張りつめたような空気と、シンという音が聞こえてきそうなくらいに静かな部屋が、すごく息苦しい。
しばらくそんな状態が続いた後、本棚の間に私を挟んでいたジャンの身体が離れた。
「分かりました。ならお言葉に甘えて、他に好きな女が出来れば
勝手に恋人のフリの関係は解消させてもらいます。」
ジャンはそれだけを言うと、私に背を向けた。
「じゃ、俺はまだミケさんに頼まれた仕事が残ってるんで戻ります。」
「あ、うん。ありがとうね。」
「なまえさんも、そろそろ俺がいなくても仕事が出来るようになってくださいよ。」
「ごめんね、今日は本当に助かっ——。」
「俺に恋人が出来れば、今みたいになまえさんばかりに構ってやることは
出来なくなりますから。」
私が、それに返事することはなかった。
だって、ジャンは出て行ってしまったから。
扉が、パタン、と虚しい音を立てて閉まる。
(あぁ、そっか。ジャンに彼女が出来たら、
今みたいにいつでもなんでも甘えることは出来なくなっちゃうのか。)
私よりも、恋人を優先するジャンを想像した。
意外と真面目なジャンだから、任務中はしっかり上官の私に尽くしてくれるんだろうけれど、任務時間外の彼の時間は、もう私の好きには出来なくなってしまう。
虫が怖いからなんて理由で、真夜中に彼を起こしに行くなんて、絶対にしちゃダメだ。
彼の隣には、恋人が一緒に寝ているかもしれない。
ジャンは、恋人のフリの私の為に、結婚の挨拶だってしてくれた。
寝ぼけた私にお洒落をさせて外に連れ出して、手を繋いで歩いて、楽しいデートをしてくれた。
だから、本物の恋人が出来たら、ジャンはきっとすごく大切にして、楽しい彼でいてくれるんだと思う。
それが分かっているのに、どうして、私の甘えで補佐官を独り占め出来るだろう。
彼が恋をしたのなら、応援するべきだ。
私は、上官として、先輩として、仲間として、間違ってない。
ちゃんと、1人でも仕事が出来るようにならなくちゃ———。
ジャンが出て行った扉を視線で追いかけ続ける私の手は、無意識にシャツの胸元を握り締めていた。
(よし、お昼寝しよう。)
書類は起きてから、夕飯までに提出すれば問題ない。
ジャンが見つけてくれた書類をデスクの上に置いて、私は大好きなベッドに潜り込んだ。
そして、夕飯の時間はとっくに過ぎた頃、届かない書類の催促の為に団長にお使いを頼まれやって来たアルミンが、どんなに揺さぶっても起きない私に途方に暮れ、ジャンに助けを求めるまで、私は眠り続けた。
夢の中で、私は、またジャンとデートしてた。
芝生広場にシートを敷いて、美味しいものを食べる。昨日の再演みたいに、全く一緒。ただの私の現実だった。
せっかくの夢なのに、現実をやり直すなんて、残念だ———。
「なまえさん!!アンタ、いい加減にしろよ!?
どうして、俺が渡した書類がまだデスクにあって、アンタがベッドで寝てたんですか!?」
無理やり起こされた途端、ジャンに怒鳴られた。
ぼんやりとしながら、ジャンを見上げて、私は思った。
たぶん、彼は、カルシウム不足なんだ。
これ以上、身長が伸びてしまったら、見上げるときに首が痛くなるからやめて欲しいけど、怒りっぽいのはどうにかしてほしい。
カルシウムって何を食べれば取れるんだろう。
あぁ、お腹すいた。
「ねぇ、ジャン、今日の夕食って何?」
「とっくに夕飯の時間なんて過ぎてんだよ!!今、何時だと思ってんだ!?」
これでもかというくらいに目を吊り上げたジャンの隣で、アルミンがオロオロしていて、なんか面白かった。
そんなに焦らなくても大丈夫。
だって、夕飯ならきっとジャンが——。
「今すぐ団長に提出しに行きますよ!
その後に、とっておいた夕飯を食べさせてあげますから!」
ほら、やっぱり、ジャンは私の夕飯を取っておいてくれた。
私がひとりで仕事を頑張っていると思って夕飯をとっといてやったのにとかまだジャンのお説教は続いていたけれど———。
「俺がいないと本当に何も出来ねぇな。」
首の後ろを右手で擦りながら、ジャンがボソリと呟いた。