◇第二十六話◇彼の機嫌が分からない朝
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「ねぇ、教えてよ。私、何やらかしたの?」
食堂の一番奥、端のテーブル席で、私は隣に座るジャンに何度も同じ質問を繰り返している。
澄ました顔でスープを飲んでいるジャンの答えは、何度訊いても変わらない。
「自分の胸に手を当ててください。」
私を見ようともしないジャンの態度から察するに、失敗をしてしまったのだと思っている。
そして、ジャンは怒っているのかもしれない。
でも、それなら、シャワールームに行く準備をしておいてくれたり、私の髪を乾かしてくれたり、いつも通り優しかった。
とてもよく出来た補佐官だった。
あぁ、補佐官だから、仕事はしっかりしたということなのか。
『俺に見捨てられてもいいなら———。』
不意に、脳裏に蘇った低い声に、パンを齧ろうとしたまま、私は固まった。
今、聞こえたのは、ジャンの声だ。
昨日の夜の記憶だろうか———。
そんなことを考えながら、必死に記憶を辿っていたら、幾つか断片的に蘇って来た。
『婚約も解消しますよ。』
『調査兵団にはもう残れませんね。』
血の気が引いて行くようだった。
確かに、私はそう言われた。
ジャンの声はひどく冷たくて、怒っていた。
だから私は———。
どうしたんだっけ。
私、どうしたんだっけ———。
隣でパンを齧っているジャンをチラ見した。
じっとパンを見下ろしている伏目がちの表情から、彼の気持ちを読むことは出来なかった。
私は何かをやらかして、調査兵団に残るために協力してくれている補佐官を怒らせたのだ。
それはきっと、絶対だ。
もしかして、私が隠していた秘密というのは、リヴァイ兵長を好きだということだろうか。
それで、リヴァイ兵長にハッキリとフラれてしまった私が不憫で、ジャンはハッキリと言わないのかもしれない。
どうしよう。
リヴァイ兵長にも会いたくない。
「やぁ、なまえ!!」
隣の椅子に滑り込むように座って、私の肩を抱いたのはハンジさんだった。
楽しそうな表情と明るい声が、二日酔いと諸々で参っている頭に響いて、痛みが増した。
そして、やらかした私の失態を絶対に知っているハンジさんの登場に、焦りもした。
「ちゃんと起きれたんだね~。お酒を飲みまくってたから心配してたんだよ~。」
「あ…っ、あの…っ!!ハンジさん、昨日のことは———」
「ジャンにも謝ったんだけど、昨日は、本当にごめんねぇ~。
実はずっと、ジャンがなまえを脅して結婚を迫ってるのかと思っててさぁ。
本当に婚約者だって分かって、安心したよ!!」
「へ?」
よかった!よかった!———、とハンジさんが私の肩を叩く。
彼女が何を言っているのか分からずに、私は頭が痛いのも忘れてぽかんとしていた。
ハンジさんの隣にいるモブリットさんまで、似たようなことを言って、私とジャンに謝っている。
一体、何が起きているのか———。
「あ、なまえさん、おはようございます。」
「おはようっす。」
首を傾げる私のところへやってきたのは、ペトラとオルオだった。
彼らは挨拶もそこそこに、とても楽しそうに続けた。
「なまえさんって本当にジャンが大好きなんですね。
すっごく可愛かったです。」
「眠り姫も、普通の女なんだって分かって安心しましたよ。
いや、恋する乙女ってやつっすかね。」
純粋に嬉しそうな笑顔のペトラと、からかう気満々のニヤけ顔のオルオを見上げて、私はやっぱり首を傾げるしか出来ない。
彼らは何を言っているのか。
私は、失敗したのではないのか。
『ジャンがだいすきれす~。メロメロなんれす~。』
必死に回転させた頭に蘇ったのは、お酒を飲みまくって繰り返した言葉だった。
そうだ。私は、ちゃんと、ジャンが好きだとハンジさんに言えたのだ。
なんだ、やらかしてなんかいないじゃないか。
そうだ、ジャンは意地悪なんだった。
私が忘れているのをいいことに、不安を煽ってからかっていたのだろう。
ペトラとオルオが、隣のテーブルへ行った後、私は自慢気に口の端を上げて、ジャンの方を見た。
(ほら、私、ちゃんと出来たんじゃない。)
自慢気な私の目と、見下ろすジャンの視線が重なった。
私の心の声は、しっかりと聞こえたはずだ。
すると、その途端、ジャンが思いっきり吹き出した。
「ほんと…ッ、馬鹿っすね…ッ。」
ジャンは、笑いで声を震わせながら言った。
そして、片手でお腹を抱えて、ゲラゲラと笑いだした。
私が上手く乗り切ったことを、どうしてそんな馬鹿みたいに笑われなければならないのか。
意味が分からない。
「今日のジャンはご機嫌だね~。」
ハンジさんがニマニマした顔で言った。
食堂の一番奥、端のテーブル席で、私は隣に座るジャンに何度も同じ質問を繰り返している。
澄ました顔でスープを飲んでいるジャンの答えは、何度訊いても変わらない。
「自分の胸に手を当ててください。」
私を見ようともしないジャンの態度から察するに、失敗をしてしまったのだと思っている。
そして、ジャンは怒っているのかもしれない。
でも、それなら、シャワールームに行く準備をしておいてくれたり、私の髪を乾かしてくれたり、いつも通り優しかった。
とてもよく出来た補佐官だった。
あぁ、補佐官だから、仕事はしっかりしたということなのか。
『俺に見捨てられてもいいなら———。』
不意に、脳裏に蘇った低い声に、パンを齧ろうとしたまま、私は固まった。
今、聞こえたのは、ジャンの声だ。
昨日の夜の記憶だろうか———。
そんなことを考えながら、必死に記憶を辿っていたら、幾つか断片的に蘇って来た。
『婚約も解消しますよ。』
『調査兵団にはもう残れませんね。』
血の気が引いて行くようだった。
確かに、私はそう言われた。
ジャンの声はひどく冷たくて、怒っていた。
だから私は———。
どうしたんだっけ。
私、どうしたんだっけ———。
隣でパンを齧っているジャンをチラ見した。
じっとパンを見下ろしている伏目がちの表情から、彼の気持ちを読むことは出来なかった。
私は何かをやらかして、調査兵団に残るために協力してくれている補佐官を怒らせたのだ。
それはきっと、絶対だ。
もしかして、私が隠していた秘密というのは、リヴァイ兵長を好きだということだろうか。
それで、リヴァイ兵長にハッキリとフラれてしまった私が不憫で、ジャンはハッキリと言わないのかもしれない。
どうしよう。
リヴァイ兵長にも会いたくない。
「やぁ、なまえ!!」
隣の椅子に滑り込むように座って、私の肩を抱いたのはハンジさんだった。
楽しそうな表情と明るい声が、二日酔いと諸々で参っている頭に響いて、痛みが増した。
そして、やらかした私の失態を絶対に知っているハンジさんの登場に、焦りもした。
「ちゃんと起きれたんだね~。お酒を飲みまくってたから心配してたんだよ~。」
「あ…っ、あの…っ!!ハンジさん、昨日のことは———」
「ジャンにも謝ったんだけど、昨日は、本当にごめんねぇ~。
実はずっと、ジャンがなまえを脅して結婚を迫ってるのかと思っててさぁ。
本当に婚約者だって分かって、安心したよ!!」
「へ?」
よかった!よかった!———、とハンジさんが私の肩を叩く。
彼女が何を言っているのか分からずに、私は頭が痛いのも忘れてぽかんとしていた。
ハンジさんの隣にいるモブリットさんまで、似たようなことを言って、私とジャンに謝っている。
一体、何が起きているのか———。
「あ、なまえさん、おはようございます。」
「おはようっす。」
首を傾げる私のところへやってきたのは、ペトラとオルオだった。
彼らは挨拶もそこそこに、とても楽しそうに続けた。
「なまえさんって本当にジャンが大好きなんですね。
すっごく可愛かったです。」
「眠り姫も、普通の女なんだって分かって安心しましたよ。
いや、恋する乙女ってやつっすかね。」
純粋に嬉しそうな笑顔のペトラと、からかう気満々のニヤけ顔のオルオを見上げて、私はやっぱり首を傾げるしか出来ない。
彼らは何を言っているのか。
私は、失敗したのではないのか。
『ジャンがだいすきれす~。メロメロなんれす~。』
必死に回転させた頭に蘇ったのは、お酒を飲みまくって繰り返した言葉だった。
そうだ。私は、ちゃんと、ジャンが好きだとハンジさんに言えたのだ。
なんだ、やらかしてなんかいないじゃないか。
そうだ、ジャンは意地悪なんだった。
私が忘れているのをいいことに、不安を煽ってからかっていたのだろう。
ペトラとオルオが、隣のテーブルへ行った後、私は自慢気に口の端を上げて、ジャンの方を見た。
(ほら、私、ちゃんと出来たんじゃない。)
自慢気な私の目と、見下ろすジャンの視線が重なった。
私の心の声は、しっかりと聞こえたはずだ。
すると、その途端、ジャンが思いっきり吹き出した。
「ほんと…ッ、馬鹿っすね…ッ。」
ジャンは、笑いで声を震わせながら言った。
そして、片手でお腹を抱えて、ゲラゲラと笑いだした。
私が上手く乗り切ったことを、どうしてそんな馬鹿みたいに笑われなければならないのか。
意味が分からない。
「今日のジャンはご機嫌だね~。」
ハンジさんがニマニマした顔で言った。