◇第二十六話◇彼の機嫌が分からない朝
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シャワーの蛇口を捻ると、熱いお湯が顔いっぱいに落ちて来た。
そうして、頭の先から足の爪の先まで温まっていくうちに、ジャンに言われたように確かに頭はスッキリし始めた。
でも、記憶は曖昧なままだ。
やっぱり思い出せない。
シャワールームを出た私は、肩にかけたタオルでガンガンする頭を刺激しないように髪の先をゆるく拭きながら自室へと向かう。
早朝のこの時間は、まだ起きている調査兵も少ないようで、廊下を歩いていても、すれ違うのは数人程度だった。
朝の明るく涼しい雰囲気の中、のんびりと過ぎているように見える兵舎を歩くのは、意外と気持ちがよかった。
シャワーを浴びて、頭も身体もスッキリしたから余計にそう感じるのかもしれない。
部屋に戻ると、ジャンはまだデスクで仕事をしていた。
どうしてこんなに真面目なんだろう。
なんでも器用にこなすジャンなら、うまく手を抜くやり方だって知っているはずなのに————。
部屋に入った私に気づいたジャンは、振り返ってすぐに眉を顰めた。
「髪、乾かしてこなかったんですか。」
「だって、頭が痛くて。」
「言い訳はいいですから、とりあえず、ソファに座ってください。」
言われた通りにソファに腰を降ろした私は、隣に座ったジャンに背を向けながら、いつものように、肩にかかっているタオルを渡した。
タオルを受け取ったジャンは、いつものように、濡れた髪を優しく拭いてくれる。
大きな手が、疲れた頭をマッサージするように包んで、濡れた髪を乾かしてくれるこの時間が、私は好きだ。
それに、自分で乾かすより楽だし———。
髪を乾かさないで部屋に戻る理由は、二日酔いだけじゃないことをジャンは気づいているはずだ。
それでも、毎回毎回、私の我儘に付き合ってくれる。
「この前ね。」
「何ですか?」
「ハンジさんが、いい加減に自分で髪を乾かすことを覚えてくださいって
モブリットさんに怒られちゃったって言ってた。」
「まぁ、そうでしょうね。」
「ジャンも怒る?」
「怒ったら、自分で乾かすようになるなら。」
「その1週間後くらいにね、
ハンジさん、髪の毛びしょ濡れのままで部屋に戻ってたよ。」
「でしょうね。俺は、モブリットさんみたいに優しくないんで
言っても無駄なことは言ってあげません。」
「そっか~。よかった~。」
「嫌味が通じないって無敵っすよね。」
後ろから、ジャンのため息が聞こえた。
嫌味が通じないわけではないけれど、スルーするスキルを身につけたのだ。
それを私に身につけさせたのは、たぶん、ジャンだと思う。
「ねぇ、ジャン。」
「ん?次は何ですか。」
「私、昨日、どうやって帰ってきたか知ってる?」
「やっぱり、覚えてないんですね。」
「ジャンは知ってるの?」
「教えませんけどね。」
「なんで!?」
悲愴な顔で後ろを振り向いたら、ジャンが眉を顰めた。
そして、大きな手で額を鷲掴みにされて、強引に前を向かされてしまった。
「記憶が吹っ飛ぶまで飲み過ぎるなまえさんが悪いんでしょ。
罰です。」
「そうだけど…。
じゃあ、ひとつだけ教えて。私、ちゃんと出来てた?」
不安を押し殺して、自分を信じて訊ねた。
でも、すごく緊張していて、私の感覚の全てが、頭に触れるジャンの手に集中しているみたいだった。
ジャンは、すぐには答えてはくれなかった。
やっぱり、私は何かしでかしてしまったのだろうか。
どんどん不安が増していく。
「なまえさんが、ずっと隠してた恥ずかしい秘密、暴露してましたよ。」
「え!?嘘!?」
私はまた後ろを向いた。
今度は、ジャンの表情を見る暇もなく、顔面を大きな手で鷲掴みにされて、強引に前を向かされた。
「だから、こっち向いたら髪が拭けないでしょ。」
「でも…!ねぇ、恥ずかしい秘密ってなに…!?
私、何言っちゃったの!?なんでそれをジャンが知ってるの!?
ジャンもバーに来たの!?」
「教えるのはひとつだけって言ったじゃないっすか。
それ以上は喋りませんよ。」
「そんなぁ~…。」
私は両手で顔を覆った。
一体、どんな恥ずかしい秘密を喋ってしまったのだろう。
リヴァイ兵長とキスをする妄想をしたことなら、ジャンに暴露してしまったことがある。
でもそれを、リヴァイ兵長本人の前で暴露していたら———。
想像もしたくない事態に、私は、このまま一生眠り続けたいと心底願った。
そうして、頭の先から足の爪の先まで温まっていくうちに、ジャンに言われたように確かに頭はスッキリし始めた。
でも、記憶は曖昧なままだ。
やっぱり思い出せない。
シャワールームを出た私は、肩にかけたタオルでガンガンする頭を刺激しないように髪の先をゆるく拭きながら自室へと向かう。
早朝のこの時間は、まだ起きている調査兵も少ないようで、廊下を歩いていても、すれ違うのは数人程度だった。
朝の明るく涼しい雰囲気の中、のんびりと過ぎているように見える兵舎を歩くのは、意外と気持ちがよかった。
シャワーを浴びて、頭も身体もスッキリしたから余計にそう感じるのかもしれない。
部屋に戻ると、ジャンはまだデスクで仕事をしていた。
どうしてこんなに真面目なんだろう。
なんでも器用にこなすジャンなら、うまく手を抜くやり方だって知っているはずなのに————。
部屋に入った私に気づいたジャンは、振り返ってすぐに眉を顰めた。
「髪、乾かしてこなかったんですか。」
「だって、頭が痛くて。」
「言い訳はいいですから、とりあえず、ソファに座ってください。」
言われた通りにソファに腰を降ろした私は、隣に座ったジャンに背を向けながら、いつものように、肩にかかっているタオルを渡した。
タオルを受け取ったジャンは、いつものように、濡れた髪を優しく拭いてくれる。
大きな手が、疲れた頭をマッサージするように包んで、濡れた髪を乾かしてくれるこの時間が、私は好きだ。
それに、自分で乾かすより楽だし———。
髪を乾かさないで部屋に戻る理由は、二日酔いだけじゃないことをジャンは気づいているはずだ。
それでも、毎回毎回、私の我儘に付き合ってくれる。
「この前ね。」
「何ですか?」
「ハンジさんが、いい加減に自分で髪を乾かすことを覚えてくださいって
モブリットさんに怒られちゃったって言ってた。」
「まぁ、そうでしょうね。」
「ジャンも怒る?」
「怒ったら、自分で乾かすようになるなら。」
「その1週間後くらいにね、
ハンジさん、髪の毛びしょ濡れのままで部屋に戻ってたよ。」
「でしょうね。俺は、モブリットさんみたいに優しくないんで
言っても無駄なことは言ってあげません。」
「そっか~。よかった~。」
「嫌味が通じないって無敵っすよね。」
後ろから、ジャンのため息が聞こえた。
嫌味が通じないわけではないけれど、スルーするスキルを身につけたのだ。
それを私に身につけさせたのは、たぶん、ジャンだと思う。
「ねぇ、ジャン。」
「ん?次は何ですか。」
「私、昨日、どうやって帰ってきたか知ってる?」
「やっぱり、覚えてないんですね。」
「ジャンは知ってるの?」
「教えませんけどね。」
「なんで!?」
悲愴な顔で後ろを振り向いたら、ジャンが眉を顰めた。
そして、大きな手で額を鷲掴みにされて、強引に前を向かされてしまった。
「記憶が吹っ飛ぶまで飲み過ぎるなまえさんが悪いんでしょ。
罰です。」
「そうだけど…。
じゃあ、ひとつだけ教えて。私、ちゃんと出来てた?」
不安を押し殺して、自分を信じて訊ねた。
でも、すごく緊張していて、私の感覚の全てが、頭に触れるジャンの手に集中しているみたいだった。
ジャンは、すぐには答えてはくれなかった。
やっぱり、私は何かしでかしてしまったのだろうか。
どんどん不安が増していく。
「なまえさんが、ずっと隠してた恥ずかしい秘密、暴露してましたよ。」
「え!?嘘!?」
私はまた後ろを向いた。
今度は、ジャンの表情を見る暇もなく、顔面を大きな手で鷲掴みにされて、強引に前を向かされた。
「だから、こっち向いたら髪が拭けないでしょ。」
「でも…!ねぇ、恥ずかしい秘密ってなに…!?
私、何言っちゃったの!?なんでそれをジャンが知ってるの!?
ジャンもバーに来たの!?」
「教えるのはひとつだけって言ったじゃないっすか。
それ以上は喋りませんよ。」
「そんなぁ~…。」
私は両手で顔を覆った。
一体、どんな恥ずかしい秘密を喋ってしまったのだろう。
リヴァイ兵長とキスをする妄想をしたことなら、ジャンに暴露してしまったことがある。
でもそれを、リヴァイ兵長本人の前で暴露していたら———。
想像もしたくない事態に、私は、このまま一生眠り続けたいと心底願った。