◇第二十三話◇お酒が喋らせる危険な秘密【前編】
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馴染みの呑み屋には、任務を終えた104期調査兵のメンバーが続々と集まって来ていた。
久しぶりに同期が揃うとあって、皆、出来るだけ早く仕事を終わらせようと努力したのか、約束の時間ピッタリにジャンがやって来たときには、ほとんど全員が集まっていて、一番奥にある座敷の広間は、既に騒がしくなっていた。
「遅いですよ~~!!もう先に始めちゃってますからね~!!
ジャンから誘ってきたのに、全くもう。」
座敷まで店員に案内されたジャンが靴を脱いで座敷に上がろうとしていると、今夜は芋ではなく、大好きな骨付きの肉を頬張っているサシャが早速、文句を言う。
その隣では、酒で顔を赤くしたコニーが、よく分からない腹踊りをしている。
テーブルを挟んで斜め向かいに座るベルトルトは、その意味の分からない踊りがツボにハマっているらしくて、腹を抱えて大笑いしている。
そして、そんな彼の隣では、ユミルとクリスタが、ひどく冷めた目をしている。
だが、テーブルの上には空になった酒のグラスが幾つも並んでいて、冷めた目のユミルとクリスタも、しっかりお酒は呑んでいるようだった。
約束の時間に到着したはずなのに、同期達がすっかり酔っぱらいになっているのを不思議に思いながら、ジャンが座敷に上がると、ライナーが声を掛けて来た。
「ジャン!こっちだ!こっちはまだ被害が少なく済むぞ。」
ライナーがそう言って、手招きをする。
大人数の為に二つのテーブルを並べている座敷で、ライナーの座っているのはサシャ達とは違うテーブルだった。
ベルトルトもライナーと同じテーブルだったようだが、ちょうど隣のテーブルとの境い目に座っていることもあって、コニーの腹踊りの犠牲になっているらしかった。
「もう始まってたんだな。時間が変更になったなんて聞いてねぇけど。」
ジャンは、ライナーの隣に腰を降ろしながら言った。
「早めに仕事切り上げたサシャとコニーが、約束の1時間前から酒盛りしてたんだよ。
ユミルとクリスタも早めに来てたらしい。
俺とベルトルトが、約束の15分前に来たときにはもうほとんどこの状態だった。
————ほらよ。」
答えながら、ライナーはジャンにメニュー表を渡す。
「あ~、それで。」
ジャンは、納得して頷きながら、メニュー表を開いた。
なまえと一緒に訓練場へ行ったときに、ついでに、104期での飲み会のことをサシャとコニーに伝えたら、飛び跳ねて喜んでいたのを思い出す。
あの日からずっと、今日の飲み会を楽しみにしていたのなら、騒がしくて仕方がないけれど、嬉しくも思う。
今日の飲み会は、壁外調査後、偶々、廊下で104期が揃った時にライナーが提案した。
次の壁外調査の日程が決まっていない今がチャンスだったから、すぐにクリスタが日程を調整して、今日の日に決まった。
そうでなければ、それぞれ、壁外任務や後輩の指導で忙しく、なかなか時間を取ることが出来なかったはずだ。
だが————。
コニーとサシャの騒がしい隣のテーブルに比べて、ライナーとジャンの座るテーブルは静かだった。
というよりも、人が少ない。
エレンとミカサ、アルミンがいないせいだ。
飲み物の注文を聞きに来た店員に、適当に酒を頼んでから、ジャンはライナーに訊ねた。
「エレン達はまだなのか?」
「あぁ。出かけようとしたところで、急にリヴァイ班に会議が入ったらしい。
それで、エレンとミカサと、団長の書記官のアルミンも遅れてくるってよ。」
ライナーは、近くのつまみを口に放り込みながら答えた。
「今頃、会議?壁外任務でもあるのか?」
「いや、この前、捕獲した巨人とエレンの巨人を使って、新しい実験がしたいって
ハンジさんが言いだしたんだよ。」
「あ~…、またあの人はとんでもねぇことを思いつくな。」
「全くだ。それで、ハンジ班も一緒に会議に参加だ。
俺とベルトルトは、必要になったら実験に参加するくらいで問題ねぇから、
会議参加を免れたんだけどな。」
「へぇ。」
ジャンは適当に頷いてみせた。
だが、内心、ホッとしていた。
飲み会ともなれば、帰りも遅くなるに決まっている。
その間、なまえを1人で兵舎に残すのは、すごく不安だった。
既に、結婚の挨拶から数日が経っていた。
ジャンの思惑通り、嘘だらけの噂は事実として調査兵団の兵舎内に広まり、噂の当人であるジャンとなまえが、肯定したことによって、上官と補佐官の恋人は、あっという間に調査兵団公認となった。
仕事柄、研究が主の任務であるハンジ班との関りも多いジャンとなまえだったが、「仕事中は今まで通りでお願いしたい。」と予防線を張ったことで、ボロを出すことを防いでいる。
表立ったトラブルもなく、困ったのは、『実はもう結婚しているらしい。』という噂の尾ひれを切り落とすのが面倒だったことくらいだ。
今のところは、怪しんでいるとは言え、ハンジも疑惑の域を抜け出せないままだし、問題なく恋人のフリを続けられているのだ。
だが、これを1年は継続させなければならないのだから、今が大丈夫だからと安心はできない。
出来ないのだけれど———。
『大丈夫だって~。』
出かける前に偽の恋人の部屋を訪れたジャンに、なまえは能天気にそう答えた。
それが余計に不安過ぎて、ギリギリまで飲み会に出るかどうか悩んだ結果、約束の時間ピッタリに呑み屋に到着することになったのだ。
だが、なまえが喜んで口を滑らせてしまいそうなリヴァイどころか、なまえの嘘を見抜いてしまいそうなハンジまで会議に参加しているのなら、しばらくは心配せずにいられそうだ。
そんなことを話しているうちに、ジャンが注文した酒を店員が運んできた。
楽しそうに騒いでいるサシャ達と関わりたくないジャンとライナーは、2人だけで乾杯を交わす。
そして、酒を飲んだジャンが、グラスをテーブルに置くのを待ってから、ライナーが肩を組んできた。
ガタイのいい腕が肩に乗り、無意識にジャンは猫背になる。
「ところで、ジャン。お前、眠り姫さんとそういう関係だったらしいな。」
ジャンの左側の視界のほとんどをライナーのニヤけた顔が占領した。
普段は、そこにあるのはなまえのぼんやりとした表情なだけに、ギャップが激しい。
「まぁな。」
ジャンは適当に言いながら、ライナーの右頬を片手で押し返した。
その話題には必ず触れられるだろうと思っていた。
呆気なく離れてくれたライナーだったが、話題は続けるつもりらしく、ニヤけた顔のままでジャンに訊ねる。
「いつからだよ。同期の俺達にまで隠してたこと知って、寂しかったんだぞ。」
「1年前。わざわざ話すようなことでもねぇだろ。
それに立場もあるじゃねぇか。補佐官に手を出したって上から叱られるのは、あの人だ。」
「まぁ、それもそうだな。それで、結婚が決まるまでは黙ってたってわけか。」
「まぁな。」
何日も前からジャンが用意しておいた言い訳を聞いたライナーは、それで納得してくれたようだった。
何度も頷いてから、半分以上減っているグラスを持って酒を喉に流し込んだ。
そして、全て飲み干したグラスをテーブルに少し乱暴に置いてから、感慨深げな表情で続けた。
「最近のお前の壁外での行動は、目に余るものがあって心配してたんだよ。」
「は?」
「いや、それが任務だってのは分かってはいたんだが、それにしても上官を守りすぎというか。
いつかお前が死ぬんじゃねぇかと心配してたんだよ。
だがそれも、恋人を守ってたってことなら納得できる。」
「あ~…、そうだな。あの人、放っておくとボーッとしたまま巨人に突っ込んでいくから。」
「それもそうだな。」
ハッハッとライナーが豪快に笑った。
久しぶりに同期が揃うとあって、皆、出来るだけ早く仕事を終わらせようと努力したのか、約束の時間ピッタリにジャンがやって来たときには、ほとんど全員が集まっていて、一番奥にある座敷の広間は、既に騒がしくなっていた。
「遅いですよ~~!!もう先に始めちゃってますからね~!!
ジャンから誘ってきたのに、全くもう。」
座敷まで店員に案内されたジャンが靴を脱いで座敷に上がろうとしていると、今夜は芋ではなく、大好きな骨付きの肉を頬張っているサシャが早速、文句を言う。
その隣では、酒で顔を赤くしたコニーが、よく分からない腹踊りをしている。
テーブルを挟んで斜め向かいに座るベルトルトは、その意味の分からない踊りがツボにハマっているらしくて、腹を抱えて大笑いしている。
そして、そんな彼の隣では、ユミルとクリスタが、ひどく冷めた目をしている。
だが、テーブルの上には空になった酒のグラスが幾つも並んでいて、冷めた目のユミルとクリスタも、しっかりお酒は呑んでいるようだった。
約束の時間に到着したはずなのに、同期達がすっかり酔っぱらいになっているのを不思議に思いながら、ジャンが座敷に上がると、ライナーが声を掛けて来た。
「ジャン!こっちだ!こっちはまだ被害が少なく済むぞ。」
ライナーがそう言って、手招きをする。
大人数の為に二つのテーブルを並べている座敷で、ライナーの座っているのはサシャ達とは違うテーブルだった。
ベルトルトもライナーと同じテーブルだったようだが、ちょうど隣のテーブルとの境い目に座っていることもあって、コニーの腹踊りの犠牲になっているらしかった。
「もう始まってたんだな。時間が変更になったなんて聞いてねぇけど。」
ジャンは、ライナーの隣に腰を降ろしながら言った。
「早めに仕事切り上げたサシャとコニーが、約束の1時間前から酒盛りしてたんだよ。
ユミルとクリスタも早めに来てたらしい。
俺とベルトルトが、約束の15分前に来たときにはもうほとんどこの状態だった。
————ほらよ。」
答えながら、ライナーはジャンにメニュー表を渡す。
「あ~、それで。」
ジャンは、納得して頷きながら、メニュー表を開いた。
なまえと一緒に訓練場へ行ったときに、ついでに、104期での飲み会のことをサシャとコニーに伝えたら、飛び跳ねて喜んでいたのを思い出す。
あの日からずっと、今日の飲み会を楽しみにしていたのなら、騒がしくて仕方がないけれど、嬉しくも思う。
今日の飲み会は、壁外調査後、偶々、廊下で104期が揃った時にライナーが提案した。
次の壁外調査の日程が決まっていない今がチャンスだったから、すぐにクリスタが日程を調整して、今日の日に決まった。
そうでなければ、それぞれ、壁外任務や後輩の指導で忙しく、なかなか時間を取ることが出来なかったはずだ。
だが————。
コニーとサシャの騒がしい隣のテーブルに比べて、ライナーとジャンの座るテーブルは静かだった。
というよりも、人が少ない。
エレンとミカサ、アルミンがいないせいだ。
飲み物の注文を聞きに来た店員に、適当に酒を頼んでから、ジャンはライナーに訊ねた。
「エレン達はまだなのか?」
「あぁ。出かけようとしたところで、急にリヴァイ班に会議が入ったらしい。
それで、エレンとミカサと、団長の書記官のアルミンも遅れてくるってよ。」
ライナーは、近くのつまみを口に放り込みながら答えた。
「今頃、会議?壁外任務でもあるのか?」
「いや、この前、捕獲した巨人とエレンの巨人を使って、新しい実験がしたいって
ハンジさんが言いだしたんだよ。」
「あ~…、またあの人はとんでもねぇことを思いつくな。」
「全くだ。それで、ハンジ班も一緒に会議に参加だ。
俺とベルトルトは、必要になったら実験に参加するくらいで問題ねぇから、
会議参加を免れたんだけどな。」
「へぇ。」
ジャンは適当に頷いてみせた。
だが、内心、ホッとしていた。
飲み会ともなれば、帰りも遅くなるに決まっている。
その間、なまえを1人で兵舎に残すのは、すごく不安だった。
既に、結婚の挨拶から数日が経っていた。
ジャンの思惑通り、嘘だらけの噂は事実として調査兵団の兵舎内に広まり、噂の当人であるジャンとなまえが、肯定したことによって、上官と補佐官の恋人は、あっという間に調査兵団公認となった。
仕事柄、研究が主の任務であるハンジ班との関りも多いジャンとなまえだったが、「仕事中は今まで通りでお願いしたい。」と予防線を張ったことで、ボロを出すことを防いでいる。
表立ったトラブルもなく、困ったのは、『実はもう結婚しているらしい。』という噂の尾ひれを切り落とすのが面倒だったことくらいだ。
今のところは、怪しんでいるとは言え、ハンジも疑惑の域を抜け出せないままだし、問題なく恋人のフリを続けられているのだ。
だが、これを1年は継続させなければならないのだから、今が大丈夫だからと安心はできない。
出来ないのだけれど———。
『大丈夫だって~。』
出かける前に偽の恋人の部屋を訪れたジャンに、なまえは能天気にそう答えた。
それが余計に不安過ぎて、ギリギリまで飲み会に出るかどうか悩んだ結果、約束の時間ピッタリに呑み屋に到着することになったのだ。
だが、なまえが喜んで口を滑らせてしまいそうなリヴァイどころか、なまえの嘘を見抜いてしまいそうなハンジまで会議に参加しているのなら、しばらくは心配せずにいられそうだ。
そんなことを話しているうちに、ジャンが注文した酒を店員が運んできた。
楽しそうに騒いでいるサシャ達と関わりたくないジャンとライナーは、2人だけで乾杯を交わす。
そして、酒を飲んだジャンが、グラスをテーブルに置くのを待ってから、ライナーが肩を組んできた。
ガタイのいい腕が肩に乗り、無意識にジャンは猫背になる。
「ところで、ジャン。お前、眠り姫さんとそういう関係だったらしいな。」
ジャンの左側の視界のほとんどをライナーのニヤけた顔が占領した。
普段は、そこにあるのはなまえのぼんやりとした表情なだけに、ギャップが激しい。
「まぁな。」
ジャンは適当に言いながら、ライナーの右頬を片手で押し返した。
その話題には必ず触れられるだろうと思っていた。
呆気なく離れてくれたライナーだったが、話題は続けるつもりらしく、ニヤけた顔のままでジャンに訊ねる。
「いつからだよ。同期の俺達にまで隠してたこと知って、寂しかったんだぞ。」
「1年前。わざわざ話すようなことでもねぇだろ。
それに立場もあるじゃねぇか。補佐官に手を出したって上から叱られるのは、あの人だ。」
「まぁ、それもそうだな。それで、結婚が決まるまでは黙ってたってわけか。」
「まぁな。」
何日も前からジャンが用意しておいた言い訳を聞いたライナーは、それで納得してくれたようだった。
何度も頷いてから、半分以上減っているグラスを持って酒を喉に流し込んだ。
そして、全て飲み干したグラスをテーブルに少し乱暴に置いてから、感慨深げな表情で続けた。
「最近のお前の壁外での行動は、目に余るものがあって心配してたんだよ。」
「は?」
「いや、それが任務だってのは分かってはいたんだが、それにしても上官を守りすぎというか。
いつかお前が死ぬんじゃねぇかと心配してたんだよ。
だがそれも、恋人を守ってたってことなら納得できる。」
「あ~…、そうだな。あの人、放っておくとボーッとしたまま巨人に突っ込んでいくから。」
「それもそうだな。」
ハッハッとライナーが豪快に笑った。