◇第百五十五話◇いつかの幸せを想って、抱きしめていいよ
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「ーーーー以上が、今回の巨人発生事件の顛末になります。」
数日後、私は、普段は出来るだけ近寄りたくない調査兵団団長室で、エルヴィン団長に数日前に起こった恐ろしい事件について包み隠さず全てを報告していた。
あのような異常事態では、超大型巨人と鎧の巨人、及び女型の巨人の憲兵団移送作戦は続けられるわけもなく、作戦遂行後、私達は蜻蛉返りするしかなかった。それからも多忙な日々が続いた。漸く、エルヴィン団長に報告出来るまでの調査が済んだところだ。それでもまだ、解明されていないことややるべきことが残っている。つまり、私に出来たのは、途中報告のようなものだ。
共に調査を行なっていたハンジさんと兵士長という立場のリヴァイ兵長、それから、駐屯兵団の司令官であるピクシス司令にもきて貰っていた。そして、一際、重たい表情で立ち尽くしているコニーも一緒だった。誰もが口を噤み、静かに私の話を聞いてくれていた。
でも、彼らが本当は耳を塞ぎたいと願っていることを、私は知っている。私だって、本当はこんな話はしたくないし、信じたくもない。
全てを言い終わった後、私は疲れがどっと身体を襲うのを感じていた。早く、ジャンの腕に包まれて眠りたいと強く願っているのに、代わりに私を包むのはこれ以上ないほどの絶望と緊張感だった。
「つまり、巨人の正体は人間であると。」
エルヴィン団長が、ハッキリと告げた。
ビクッと肩を揺らした私の代わりに、ハンジさんが口を開く。
「すべての巨人がそうであるという確証はどこにもありませんが…。」
言いづらそうに濁したハンジさんだったけれど、本当はもうほとんど『確信』していることだった。
調査兵団兵舎の地下牢への幽閉に舞い戻ってしまったライナーとベルトルト、アンが正直に口を割ったからだ。彼らは、向こうの世界で巨人化させられた同胞達だったのだ。
「今回の巨人の発生源についてですが、やはり、なまえの仮説の信憑性を増す材料が揃うばかりでした。」
作戦遂行と同時に故郷の調査を指示されたのは、コニーとサシャだった。
サシャの故郷である集落に住む人々は、すでに馬で逃げた後で、皆無事だった。途中、足の悪い母親とその子供が家に取り残されていたようだったが、間一髪で救い出し、作戦通り、巨人は渓谷に落とすことにも成功したと報告を受けている。
問題が起こったのは、コニーの故郷だった。
コニー達が故郷にたどり着いたとき、そこに人の気配は全くなかったそうだ。代わりに、村の家屋は全て家の内側から何かが爆発したように破壊されていた。また、それだけの破壊跡がありながらも、血痕一つ見つからなかった。
無事だったからーーーーと思いたい気持ちはやまやまだけれど、残念ながら、ラガゴ村の住人はいまだにどこにも見つかっていない。
それと同時に、壁に破壊された穴はなかった。それなのに、なぜか壁内に出現し、渓谷の下に落とされた巨人、及び仕方なく討伐するしかなかった巨人の総数が、ラガゴ村の住民の数と一致してしまった。
いや、そのうちの一体は、渓谷の下にも落とされていないし、討伐もされていない。破壊されたコニーの実家で仰向けで倒れたままでいる。大きな身体とはアンバランスに細過ぎる両手両足のせいで、立ち上がることが出来ないのだ。そんな姿で、歩いてやってきたとは思えない状態だった。
そして、その巨人の顔は、コニーが見せてくれた母親の肖像画にそっくりだった。
つまりーーー。つまり、あの巨人は、コニーの母親だということだ。
ーーー誰かが、ラガゴ村の住民を巨人化させた。
それが、私とハンジさん達が辿り着いた答えだった。
「じゃあ…、何か?俺が必死こいて削ぎまくってた肉は、実は人の肉の一部で、俺は今まで人を殺して飛び回ってた…ってのか?」
ソファに腰を下ろしているリヴァイ兵長は俯いたまま、小さな声でこぼす。
ズキリ、と胸が痛んだ。
だから、いやなのだ。この世界は、どうしてこんなに残酷なんだろう。
「…確証は無いと言っただろ?」
ハンジさんもリヴァイ兵長の顔を見れなかった。
その後、私達は今後のことについて話し合った。まずは、ライナーとベルトルト、アニの処遇についてだ。今回、誰一人として死者を出さずに任務を遂行するには、ライナーやベルトルト、アニの協力が必要不可欠だった。彼らのおかげで、巨人化されたラガゴ村の人達を不要に討伐せずに済んだのだ。
彼らが私達、壁の中の人間を攻撃したのは、紛れもない事実だ。けれど、彼らはそれを後悔している。そして今、この世界にできた仲間や友人のために、自分達の立場を犠牲にして、私達を助けてくれた。それもまた事実なのだ。
憲兵団や王政は、ライナーとベルトルトから必要な情報を聞き出した後は、そのまま死刑にしてしまうつもりだろう。危険分子は取り除いた方がいい、という憲兵団の考えもわからなくもない。
けれど、私達は、ライナーとベルトルトという大きな力を手に入れることで、武力を強くする方がこの世界のためになるのではないかと考えている。きっとこれから、私達が対峙するのは、巨人よりもはるかに大きな『世界』だろう。きっと、想像も絶する戦争になる。その時に、超大型巨人と鎧の巨人が味方にいれば、とても心強い。裏切られる可能性がないわけではないし、むしろ、その確率の方が高いのかもしれないけれど、私はもう一度、彼らを信じたいのだ。
今後の作戦等についても話し合いを行なった後、私達はエルヴィン団長の部屋を後にした。
「あの…!なまえさん…!!」
団長の執務室を出てすぐに、コニーに呼び止められた。
振り返れば、唇を噛んでひどく傷ついた表情をしているコニーと目が合った。
あれからずっと、私はあれこれと忙しくしていたし、コニーもまた故郷の調査に出ていて調査兵団兵舎にいなかった。いや、私はもしかしたら、傷ついているコニーの顔を見る勇気がなくて、彼を避けていただけだったのかもしれない。
その証拠に、久々に会った彼に、何も言えなかった。何も言ってあげられなかった。家族や故郷の知り合い達が巨人化してしまった彼に、一体誰が、何を言えるというのだろう。慰めなんて、何の意味もない。彼に必要なのは、家族が元通りの姿に戻ることだけだ。でも、ライナー達は、一度巨人化した人間を元に戻せるなんて話は聞いたことはないと言っていた。そう言う彼らもひどく傷ついた顔をしていたから、きっと、嘘はついていないのだろう。
それなのに「きっと、いつかまた元通りになるよ。」なんて、誰が言えるだろう。もしかしたら、彼の大切な人達は、永遠に巨人のままかもしれないのにーーーー。
「ありがとうございました…!!」
コニーが、頭を下げた。太ももに鼻の頭がついてしまっているんじゃないかというくらいに、思いっきり頭を下げたのだ。いつの間にか、私よりも随分と身長が伸びて、もう長身だと呼んだ方が正しいくらいに大きくなったコニーが、半分に折れるくらいに頭を下げるから、心底驚いてしまった。
困惑する私は、何も言えなかった。何のお礼なのかが分からなかったのだ。
けれど、ハンジさんとリヴァイ兵長は顔を見合わせた後に、小さく首をすくめていて、コニーが何に礼を言っているのかを分かっているようだった。
「コニー、頭を上げて。私は何もしてなーーーー。」
「なまえさんのおかげで、俺の家族はみんな、無事でした…!!」
頭を下げたコニーが叫ぶように言ったそれに、私は大きく目を見開いた。
(あぁ…、よかった…。)
巨人化してしまったラガゴ村の人達は、人間に危害を加えないように、渓谷に閉じ込めることしかできなかった。調査兵や憲兵を襲ってきた為に、討伐するしかなかった人達もいる。
もしも、コニーの家族が、渓谷にいなかったらーーーつまりそれは、仲間達に家族を討伐されてしまったということだ。
そんな恐ろしいことを知ることが怖くて、私は誰にも、コニーの家族の安否を尋ねることができなかった。それが分かっていたのか、きっと知っているはずのジャンも何も言わなかった。
「そっか。教えてくれて、ありがとう。」
よかったねーーーーとは、言えなかった。
不幸中の幸い、というにはあまりにも悲劇的過ぎた。
「それだけじゃないです…っ。あの日、なまえさんが、俺達を守りながら、故郷のみんなも守る作戦を立ててくれたから…っ。俺の故郷のみんなは、誰も殺してない…っ。みんな、人間に戻ったときに自分を責めなくて済むんだ…っ。だから、ありがとうございました…っ。」
頭を下げたままで、コニーが言う。いつの間にか頼り甲斐があるように見えていた大きな肩が、小さく震えている。
そうか。コニーはまだ、家族やラガゴ村の人達が人間に戻る日が来ると信じているのだ。
(そうだよ。まだ諦めるのは早いじゃん。私達は調査兵なんだから、たくさん調べてみればいい…!)
私は唇を噛むと、コニーの元へと歩み寄った。
「うん。そうだよ。コニーの大切な人達はみんな、ちゃんと今まで通りの生活に戻れる。だから、大丈夫だよ。心配しないで。絶対に、大丈夫だから。」
大きくて、頼り甲斐があって、でもまだ19歳の彼を抱きしめた。
その途端、コニーが膝から崩れ落ちた。そして、大きな声をあげて、子供のように泣き叫ぶ。
私の腰に抱きついて、泣きじゃくるコニーを私もギュッと抱きしめる。
遠くから、ジャンが廊下を猛スピードで走ってくる姿が見えた。
私の代わりにライナー達の尋問をお願いしていたのだけれど、必要な話は聞き終わったのだろうか。
すぐにやってきたジャンは、泣いているコニーを見下ろすと、しばらく眉間に皺を寄せて黙り込んでいた。
「…今だけだからな。」
スッと目を逸らして、ジャンが小さく言う。
そして彼は、コニーに何も声をかけずに、団長の執務室と入っていった。どうやら、私に会いにきたのではなく、エルヴィン団長に報告があったようだ。
ジャンの背中を見送るハンジさんはククッと面白そうに笑って、リヴァイ兵長は呆れたようにため息を吐いていた。
まさか、上司の彼氏であり、同期の友人でもジャンがやってきたことも知らないまま、コニーは私に抱きついて泣きじゃくり続けていた。
ジャンが執務室から出てきたのは、コニーの足音が遠ざかってからだった。
「なまえに抱きつけるのは、俺だけの特権なのに。」
執務室の外で彼氏が出てくるのを待っていた私に、ジャンは一瞬だけ驚いた表情を見せた後、拗ねたように口を尖らせてから抱きついてきた。
その姿が可愛くて、大きな腕の中で、私は小さく笑った。
あぁ、幸せだ。
いつか、コニーもまた、家族を抱きしめて、抱きしめられる日々が帰ってくる。絶対に。
そう信じてまた、今日から頑張ろう。
数日後、私は、普段は出来るだけ近寄りたくない調査兵団団長室で、エルヴィン団長に数日前に起こった恐ろしい事件について包み隠さず全てを報告していた。
あのような異常事態では、超大型巨人と鎧の巨人、及び女型の巨人の憲兵団移送作戦は続けられるわけもなく、作戦遂行後、私達は蜻蛉返りするしかなかった。それからも多忙な日々が続いた。漸く、エルヴィン団長に報告出来るまでの調査が済んだところだ。それでもまだ、解明されていないことややるべきことが残っている。つまり、私に出来たのは、途中報告のようなものだ。
共に調査を行なっていたハンジさんと兵士長という立場のリヴァイ兵長、それから、駐屯兵団の司令官であるピクシス司令にもきて貰っていた。そして、一際、重たい表情で立ち尽くしているコニーも一緒だった。誰もが口を噤み、静かに私の話を聞いてくれていた。
でも、彼らが本当は耳を塞ぎたいと願っていることを、私は知っている。私だって、本当はこんな話はしたくないし、信じたくもない。
全てを言い終わった後、私は疲れがどっと身体を襲うのを感じていた。早く、ジャンの腕に包まれて眠りたいと強く願っているのに、代わりに私を包むのはこれ以上ないほどの絶望と緊張感だった。
「つまり、巨人の正体は人間であると。」
エルヴィン団長が、ハッキリと告げた。
ビクッと肩を揺らした私の代わりに、ハンジさんが口を開く。
「すべての巨人がそうであるという確証はどこにもありませんが…。」
言いづらそうに濁したハンジさんだったけれど、本当はもうほとんど『確信』していることだった。
調査兵団兵舎の地下牢への幽閉に舞い戻ってしまったライナーとベルトルト、アンが正直に口を割ったからだ。彼らは、向こうの世界で巨人化させられた同胞達だったのだ。
「今回の巨人の発生源についてですが、やはり、なまえの仮説の信憑性を増す材料が揃うばかりでした。」
作戦遂行と同時に故郷の調査を指示されたのは、コニーとサシャだった。
サシャの故郷である集落に住む人々は、すでに馬で逃げた後で、皆無事だった。途中、足の悪い母親とその子供が家に取り残されていたようだったが、間一髪で救い出し、作戦通り、巨人は渓谷に落とすことにも成功したと報告を受けている。
問題が起こったのは、コニーの故郷だった。
コニー達が故郷にたどり着いたとき、そこに人の気配は全くなかったそうだ。代わりに、村の家屋は全て家の内側から何かが爆発したように破壊されていた。また、それだけの破壊跡がありながらも、血痕一つ見つからなかった。
無事だったからーーーーと思いたい気持ちはやまやまだけれど、残念ながら、ラガゴ村の住人はいまだにどこにも見つかっていない。
それと同時に、壁に破壊された穴はなかった。それなのに、なぜか壁内に出現し、渓谷の下に落とされた巨人、及び仕方なく討伐するしかなかった巨人の総数が、ラガゴ村の住民の数と一致してしまった。
いや、そのうちの一体は、渓谷の下にも落とされていないし、討伐もされていない。破壊されたコニーの実家で仰向けで倒れたままでいる。大きな身体とはアンバランスに細過ぎる両手両足のせいで、立ち上がることが出来ないのだ。そんな姿で、歩いてやってきたとは思えない状態だった。
そして、その巨人の顔は、コニーが見せてくれた母親の肖像画にそっくりだった。
つまりーーー。つまり、あの巨人は、コニーの母親だということだ。
ーーー誰かが、ラガゴ村の住民を巨人化させた。
それが、私とハンジさん達が辿り着いた答えだった。
「じゃあ…、何か?俺が必死こいて削ぎまくってた肉は、実は人の肉の一部で、俺は今まで人を殺して飛び回ってた…ってのか?」
ソファに腰を下ろしているリヴァイ兵長は俯いたまま、小さな声でこぼす。
ズキリ、と胸が痛んだ。
だから、いやなのだ。この世界は、どうしてこんなに残酷なんだろう。
「…確証は無いと言っただろ?」
ハンジさんもリヴァイ兵長の顔を見れなかった。
その後、私達は今後のことについて話し合った。まずは、ライナーとベルトルト、アニの処遇についてだ。今回、誰一人として死者を出さずに任務を遂行するには、ライナーやベルトルト、アニの協力が必要不可欠だった。彼らのおかげで、巨人化されたラガゴ村の人達を不要に討伐せずに済んだのだ。
彼らが私達、壁の中の人間を攻撃したのは、紛れもない事実だ。けれど、彼らはそれを後悔している。そして今、この世界にできた仲間や友人のために、自分達の立場を犠牲にして、私達を助けてくれた。それもまた事実なのだ。
憲兵団や王政は、ライナーとベルトルトから必要な情報を聞き出した後は、そのまま死刑にしてしまうつもりだろう。危険分子は取り除いた方がいい、という憲兵団の考えもわからなくもない。
けれど、私達は、ライナーとベルトルトという大きな力を手に入れることで、武力を強くする方がこの世界のためになるのではないかと考えている。きっとこれから、私達が対峙するのは、巨人よりもはるかに大きな『世界』だろう。きっと、想像も絶する戦争になる。その時に、超大型巨人と鎧の巨人が味方にいれば、とても心強い。裏切られる可能性がないわけではないし、むしろ、その確率の方が高いのかもしれないけれど、私はもう一度、彼らを信じたいのだ。
今後の作戦等についても話し合いを行なった後、私達はエルヴィン団長の部屋を後にした。
「あの…!なまえさん…!!」
団長の執務室を出てすぐに、コニーに呼び止められた。
振り返れば、唇を噛んでひどく傷ついた表情をしているコニーと目が合った。
あれからずっと、私はあれこれと忙しくしていたし、コニーもまた故郷の調査に出ていて調査兵団兵舎にいなかった。いや、私はもしかしたら、傷ついているコニーの顔を見る勇気がなくて、彼を避けていただけだったのかもしれない。
その証拠に、久々に会った彼に、何も言えなかった。何も言ってあげられなかった。家族や故郷の知り合い達が巨人化してしまった彼に、一体誰が、何を言えるというのだろう。慰めなんて、何の意味もない。彼に必要なのは、家族が元通りの姿に戻ることだけだ。でも、ライナー達は、一度巨人化した人間を元に戻せるなんて話は聞いたことはないと言っていた。そう言う彼らもひどく傷ついた顔をしていたから、きっと、嘘はついていないのだろう。
それなのに「きっと、いつかまた元通りになるよ。」なんて、誰が言えるだろう。もしかしたら、彼の大切な人達は、永遠に巨人のままかもしれないのにーーーー。
「ありがとうございました…!!」
コニーが、頭を下げた。太ももに鼻の頭がついてしまっているんじゃないかというくらいに、思いっきり頭を下げたのだ。いつの間にか、私よりも随分と身長が伸びて、もう長身だと呼んだ方が正しいくらいに大きくなったコニーが、半分に折れるくらいに頭を下げるから、心底驚いてしまった。
困惑する私は、何も言えなかった。何のお礼なのかが分からなかったのだ。
けれど、ハンジさんとリヴァイ兵長は顔を見合わせた後に、小さく首をすくめていて、コニーが何に礼を言っているのかを分かっているようだった。
「コニー、頭を上げて。私は何もしてなーーーー。」
「なまえさんのおかげで、俺の家族はみんな、無事でした…!!」
頭を下げたコニーが叫ぶように言ったそれに、私は大きく目を見開いた。
(あぁ…、よかった…。)
巨人化してしまったラガゴ村の人達は、人間に危害を加えないように、渓谷に閉じ込めることしかできなかった。調査兵や憲兵を襲ってきた為に、討伐するしかなかった人達もいる。
もしも、コニーの家族が、渓谷にいなかったらーーーつまりそれは、仲間達に家族を討伐されてしまったということだ。
そんな恐ろしいことを知ることが怖くて、私は誰にも、コニーの家族の安否を尋ねることができなかった。それが分かっていたのか、きっと知っているはずのジャンも何も言わなかった。
「そっか。教えてくれて、ありがとう。」
よかったねーーーーとは、言えなかった。
不幸中の幸い、というにはあまりにも悲劇的過ぎた。
「それだけじゃないです…っ。あの日、なまえさんが、俺達を守りながら、故郷のみんなも守る作戦を立ててくれたから…っ。俺の故郷のみんなは、誰も殺してない…っ。みんな、人間に戻ったときに自分を責めなくて済むんだ…っ。だから、ありがとうございました…っ。」
頭を下げたままで、コニーが言う。いつの間にか頼り甲斐があるように見えていた大きな肩が、小さく震えている。
そうか。コニーはまだ、家族やラガゴ村の人達が人間に戻る日が来ると信じているのだ。
(そうだよ。まだ諦めるのは早いじゃん。私達は調査兵なんだから、たくさん調べてみればいい…!)
私は唇を噛むと、コニーの元へと歩み寄った。
「うん。そうだよ。コニーの大切な人達はみんな、ちゃんと今まで通りの生活に戻れる。だから、大丈夫だよ。心配しないで。絶対に、大丈夫だから。」
大きくて、頼り甲斐があって、でもまだ19歳の彼を抱きしめた。
その途端、コニーが膝から崩れ落ちた。そして、大きな声をあげて、子供のように泣き叫ぶ。
私の腰に抱きついて、泣きじゃくるコニーを私もギュッと抱きしめる。
遠くから、ジャンが廊下を猛スピードで走ってくる姿が見えた。
私の代わりにライナー達の尋問をお願いしていたのだけれど、必要な話は聞き終わったのだろうか。
すぐにやってきたジャンは、泣いているコニーを見下ろすと、しばらく眉間に皺を寄せて黙り込んでいた。
「…今だけだからな。」
スッと目を逸らして、ジャンが小さく言う。
そして彼は、コニーに何も声をかけずに、団長の執務室と入っていった。どうやら、私に会いにきたのではなく、エルヴィン団長に報告があったようだ。
ジャンの背中を見送るハンジさんはククッと面白そうに笑って、リヴァイ兵長は呆れたようにため息を吐いていた。
まさか、上司の彼氏であり、同期の友人でもジャンがやってきたことも知らないまま、コニーは私に抱きついて泣きじゃくり続けていた。
ジャンが執務室から出てきたのは、コニーの足音が遠ざかってからだった。
「なまえに抱きつけるのは、俺だけの特権なのに。」
執務室の外で彼氏が出てくるのを待っていた私に、ジャンは一瞬だけ驚いた表情を見せた後、拗ねたように口を尖らせてから抱きついてきた。
その姿が可愛くて、大きな腕の中で、私は小さく笑った。
あぁ、幸せだ。
いつか、コニーもまた、家族を抱きしめて、抱きしめられる日々が帰ってくる。絶対に。
そう信じてまた、今日から頑張ろう。
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