◇第百五十三話◇改めて想う、家族の愛
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長い話ではなかった。けれど、話を聞き終わった頃には、どっと疲れていた。
帰っていくなまえを見送り、玄関の扉を引きずるようにゆっくりと閉めた。心の奥が重たくなったせいだろうか、いつも通りのはずの扉が酷く重たかった。
「紅茶、新しいのを淹れますね。」
ダイニングに戻った母親は、冷めた紅茶の入ったカップを片付けると、新しいカップを用意した。
そして、なまえが座っていた椅子は空いたまま、数分前と同じ椅子に腰掛けると、自分のカップを両手で包んだ。冷たいカップの感触に、自分の為の紅茶を用意するのを忘れていたことに気づいたが、新しい紅茶を淹れる気にはなれなかった。
「私のを飲むかい?」
父親が訊ねてくれたけれど、母親は力なく首を横に振った。
それ以上は何も言わなかった父親も、紅茶を口にしようとはしなかった。
とんでもない話を聞いてしまった。
いつもフワフワと笑っていて、底抜けに明るい印象だったなまえが、あれほどのことを自分の胸の内にずっと秘めて生きてきたというのか。
どれほど苦しかっただろう。どれほど苦しんだのだろう。どれほど苦しんでいるのだろう。
自分達にはどうしてやることもできないと分かっていながら、今すぐに、その時の彼女の元へ駆け寄って助けてやりたい衝動に駆られる。そして同時に、自分の無力さに憤りと虚しさが広がった。
沈黙が続く中、茶葉の良い香りを漂わせる湯気だけが、ゆらゆらと揺れ続けた。
「ジャンは…、どうすると思いますか?」
母親が、心配そうに父親に訊ねた。
彼らは、なまえを受け入れる選択をした。少なくとも、息子の婚約者として相応しくないとは思わなかった。
彼女の判断が正しかったのか、間違っていたのかを判断するのは、部外者である自分達ではない。けれども、キルシュタイン夫妻は、なまえの判断を支持したいと思っている。それによって、助かった誰かは確かに存在しているからだ。
「支えられないと背を向けたのなら、私たちの息子はそれだけの男だったということだ。その程度の愛しかなかったんだろう。」
父親は、冷静に告げると、やっと紅茶を口にした。いつの間にか冷えていたらしい。一番美味しい瞬間は過ぎてしまっているが、それでもやはり、愛する妻が淹れてくれた紅茶の味は、好きだ。いつだって、心を落ち着けてくれる。
「だから、大丈夫だ。私たちの息子は、そんなつまらない男じゃない。」
紅茶のカップを眺めていた父親が顔を上げると、母親と目が合った。
母親が嬉しそうに微笑んだ。
「えぇ、そうですね。」
帰っていくなまえを見送り、玄関の扉を引きずるようにゆっくりと閉めた。心の奥が重たくなったせいだろうか、いつも通りのはずの扉が酷く重たかった。
「紅茶、新しいのを淹れますね。」
ダイニングに戻った母親は、冷めた紅茶の入ったカップを片付けると、新しいカップを用意した。
そして、なまえが座っていた椅子は空いたまま、数分前と同じ椅子に腰掛けると、自分のカップを両手で包んだ。冷たいカップの感触に、自分の為の紅茶を用意するのを忘れていたことに気づいたが、新しい紅茶を淹れる気にはなれなかった。
「私のを飲むかい?」
父親が訊ねてくれたけれど、母親は力なく首を横に振った。
それ以上は何も言わなかった父親も、紅茶を口にしようとはしなかった。
とんでもない話を聞いてしまった。
いつもフワフワと笑っていて、底抜けに明るい印象だったなまえが、あれほどのことを自分の胸の内にずっと秘めて生きてきたというのか。
どれほど苦しかっただろう。どれほど苦しんだのだろう。どれほど苦しんでいるのだろう。
自分達にはどうしてやることもできないと分かっていながら、今すぐに、その時の彼女の元へ駆け寄って助けてやりたい衝動に駆られる。そして同時に、自分の無力さに憤りと虚しさが広がった。
沈黙が続く中、茶葉の良い香りを漂わせる湯気だけが、ゆらゆらと揺れ続けた。
「ジャンは…、どうすると思いますか?」
母親が、心配そうに父親に訊ねた。
彼らは、なまえを受け入れる選択をした。少なくとも、息子の婚約者として相応しくないとは思わなかった。
彼女の判断が正しかったのか、間違っていたのかを判断するのは、部外者である自分達ではない。けれども、キルシュタイン夫妻は、なまえの判断を支持したいと思っている。それによって、助かった誰かは確かに存在しているからだ。
「支えられないと背を向けたのなら、私たちの息子はそれだけの男だったということだ。その程度の愛しかなかったんだろう。」
父親は、冷静に告げると、やっと紅茶を口にした。いつの間にか冷えていたらしい。一番美味しい瞬間は過ぎてしまっているが、それでもやはり、愛する妻が淹れてくれた紅茶の味は、好きだ。いつだって、心を落ち着けてくれる。
「だから、大丈夫だ。私たちの息子は、そんなつまらない男じゃない。」
紅茶のカップを眺めていた父親が顔を上げると、母親と目が合った。
母親が嬉しそうに微笑んだ。
「えぇ、そうですね。」
