◇第百五十三話◇改めて想う、家族の愛
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楽しい宴だった。息子は良い仲間達に囲まれて、幸せそうだったーーー。
その日の夜、ジャンの母親は、今日の昼間に見た息子の様子を、本当に嬉しそうに父親に話して聞かせていた。
何の前触れもなく来客が訪れたのは、そんな時だった。
夜の来客は、あの日、なまえは人殺しだったと教えにきたフレイヤ以来だった。
ドアベルの音にビクッと肩を揺らしたジャンの母親と父親は、互いに目を合わせた。
そして、どちらからともなく、椅子を立ち、緊張した面持ちで玄関に向かった。
「はい、どちら様でしょう?」
玄関扉の向こうにいる誰かに声をかけたのは、父親の方だった。
すぐに、来客から返事がくる。
「夜分遅くすみません。みょうじ・なまえです。」
可愛らしい鈴の音のような声なのに、凛としている。
聞き覚えのあるその声は、なまえのものだった。
想像もしていない来客に、ジャンの母親と父親は、また互いに見開いた目を合わせた。
けれど、なまえだとわかった途端に、ホッと安堵したのも事実だ。
彼女なら、自分たちを不安にさせるような話は持ってこないーーーなぜか、無条件にそう信じきっていた。
宴がお開きになった時、見送りにきてくれた調査兵幹部の中に、なまえの姿はなかった。ハンジの話によれば、憲兵団の対応が想定以上に長引いてしまい、見送りに間に合わなかったということのようだった。
正直に言えば、可愛いお嫁さんにも会いたいと思っていたから残念だったが、任務ならば仕方がないと納得もしていたのだ。
「まぁまぁ、なまえさん。いらっしゃいっ。どうぞ、どうぞ。」
母親は玄関を開けると、笑顔で彼女を招き入れた。
そして、父親が先頭に立って、ダイニングテーブルに案内した。
「今日は104期の調査兵の為に、わざわざお時間を作ってくださったのに、きちんとお見送りも出来ず、申し訳ありませんでした。
あの後、みんな、本当に楽しかったと嬉しそうにしていました。
本当にありがとうございました。」
椅子に腰を下ろすと、早速、なまえが頭を下げた。
「任務で忙しかったんだろう?わざわざ会いにきてくれて、ありがとうねぇ。」
申し訳なさそうに言ったジャンの母親だったけれど、綻ぶ頬は、嬉しさを隠しきれていなかった。
そんなジャンの母親とは対照的に、なまえの表情はどこか硬い。義母の前では誰だった緊張するものだ。当然だと言えば、当然かもしれない。でも、なまえはいつも、緊張しつつも、柔らかい笑みを浮かべてもいた。
今、目の前にいるなまえは、その「いつも」とは明らかに違った。
「…感謝をお伝えもしたかったのは本当ですが。
今日は、キルシュタイン夫妻に聞いてほしいお話があって、来ました。」
相変わらず、なまえの表情は硬いままで、緊張した面持ちだ。
「それは、息子には聞かれたくない話だということかな?」
訊ねたのは父親だったが、母親も同じことを考えていた。
わざわざ、一人で来たというのはそういうことなのだろう。
なまえは、躊躇いがちに、けれども、しっかりと、こくりと頷いた。
「まだ…、ジャンさんには、話す勇気が持てません。でも、いつかは話さなければいけないことだと思っています。」
「そうか。君にとって、そんなに重要な話を、息子よりも先に私たちが聞いてもいいのかな?」
「はい。キルシュタイン夫妻には、知っておいてもらいたいんです。その結果…、私がジャンさんの婚約者として相応しくないと判断されたのなら………。」
なまえはそこまで言って、言葉を切ってしまった。
不安そうに瞳を揺らす彼女は、今にも泣き出してしまいそうだった。
息子の婚約者として認めたくないーーーどうやら、彼女は、両親がそう思ってしまうかもしれないくらいに重要な話をしようとしているらしい。
「判断されたら、息子を諦めてくれるの?」
ジャンの母親が訊ねた。少しだけ、意地悪な質問だっただろうか。
ビクッとなまえの肩が揺れた。
「私はたくさんの間違いを犯して生きてきました。」
「そうだね。間違わずに生きてきた人間なんて一人もいない。」
ジャンの父親が言えば、なまえがゆっくりと頷いた。
「でも、全ての行動に責任を持って、選択してきました。だから、後悔はありません。
少なくとも、今から話す私の過去の行動は、正しくはなかったかもしれないけれど、間違っていたとも思っていません。
だから、私は、ジャンさんの婚約者として認めてもらうまで、何度でも何度でも、しつこいくらいにキルシュタイン夫妻を説得するつもりでいます。」
なまえが真っ直ぐに、ジャンの両親を見つめて、ハッキリと告げる。
覚悟を決めたその表情は、とても美しく、思わず、背筋がぞくりと冷えてしまったほどだった。
一体、どんな話をされるのだろうか、と胸のうちに不安が広がる。
けれど、強い覚悟を持って、会いに来てくれたーーー正直、それが嬉しくもあった。
「私が、人殺しだと呼ばれるようになった本当の理由をーーーー聞いてください。」
なまえが言った。
その日の夜、ジャンの母親は、今日の昼間に見た息子の様子を、本当に嬉しそうに父親に話して聞かせていた。
何の前触れもなく来客が訪れたのは、そんな時だった。
夜の来客は、あの日、なまえは人殺しだったと教えにきたフレイヤ以来だった。
ドアベルの音にビクッと肩を揺らしたジャンの母親と父親は、互いに目を合わせた。
そして、どちらからともなく、椅子を立ち、緊張した面持ちで玄関に向かった。
「はい、どちら様でしょう?」
玄関扉の向こうにいる誰かに声をかけたのは、父親の方だった。
すぐに、来客から返事がくる。
「夜分遅くすみません。みょうじ・なまえです。」
可愛らしい鈴の音のような声なのに、凛としている。
聞き覚えのあるその声は、なまえのものだった。
想像もしていない来客に、ジャンの母親と父親は、また互いに見開いた目を合わせた。
けれど、なまえだとわかった途端に、ホッと安堵したのも事実だ。
彼女なら、自分たちを不安にさせるような話は持ってこないーーーなぜか、無条件にそう信じきっていた。
宴がお開きになった時、見送りにきてくれた調査兵幹部の中に、なまえの姿はなかった。ハンジの話によれば、憲兵団の対応が想定以上に長引いてしまい、見送りに間に合わなかったということのようだった。
正直に言えば、可愛いお嫁さんにも会いたいと思っていたから残念だったが、任務ならば仕方がないと納得もしていたのだ。
「まぁまぁ、なまえさん。いらっしゃいっ。どうぞ、どうぞ。」
母親は玄関を開けると、笑顔で彼女を招き入れた。
そして、父親が先頭に立って、ダイニングテーブルに案内した。
「今日は104期の調査兵の為に、わざわざお時間を作ってくださったのに、きちんとお見送りも出来ず、申し訳ありませんでした。
あの後、みんな、本当に楽しかったと嬉しそうにしていました。
本当にありがとうございました。」
椅子に腰を下ろすと、早速、なまえが頭を下げた。
「任務で忙しかったんだろう?わざわざ会いにきてくれて、ありがとうねぇ。」
申し訳なさそうに言ったジャンの母親だったけれど、綻ぶ頬は、嬉しさを隠しきれていなかった。
そんなジャンの母親とは対照的に、なまえの表情はどこか硬い。義母の前では誰だった緊張するものだ。当然だと言えば、当然かもしれない。でも、なまえはいつも、緊張しつつも、柔らかい笑みを浮かべてもいた。
今、目の前にいるなまえは、その「いつも」とは明らかに違った。
「…感謝をお伝えもしたかったのは本当ですが。
今日は、キルシュタイン夫妻に聞いてほしいお話があって、来ました。」
相変わらず、なまえの表情は硬いままで、緊張した面持ちだ。
「それは、息子には聞かれたくない話だということかな?」
訊ねたのは父親だったが、母親も同じことを考えていた。
わざわざ、一人で来たというのはそういうことなのだろう。
なまえは、躊躇いがちに、けれども、しっかりと、こくりと頷いた。
「まだ…、ジャンさんには、話す勇気が持てません。でも、いつかは話さなければいけないことだと思っています。」
「そうか。君にとって、そんなに重要な話を、息子よりも先に私たちが聞いてもいいのかな?」
「はい。キルシュタイン夫妻には、知っておいてもらいたいんです。その結果…、私がジャンさんの婚約者として相応しくないと判断されたのなら………。」
なまえはそこまで言って、言葉を切ってしまった。
不安そうに瞳を揺らす彼女は、今にも泣き出してしまいそうだった。
息子の婚約者として認めたくないーーーどうやら、彼女は、両親がそう思ってしまうかもしれないくらいに重要な話をしようとしているらしい。
「判断されたら、息子を諦めてくれるの?」
ジャンの母親が訊ねた。少しだけ、意地悪な質問だっただろうか。
ビクッとなまえの肩が揺れた。
「私はたくさんの間違いを犯して生きてきました。」
「そうだね。間違わずに生きてきた人間なんて一人もいない。」
ジャンの父親が言えば、なまえがゆっくりと頷いた。
「でも、全ての行動に責任を持って、選択してきました。だから、後悔はありません。
少なくとも、今から話す私の過去の行動は、正しくはなかったかもしれないけれど、間違っていたとも思っていません。
だから、私は、ジャンさんの婚約者として認めてもらうまで、何度でも何度でも、しつこいくらいにキルシュタイン夫妻を説得するつもりでいます。」
なまえが真っ直ぐに、ジャンの両親を見つめて、ハッキリと告げる。
覚悟を決めたその表情は、とても美しく、思わず、背筋がぞくりと冷えてしまったほどだった。
一体、どんな話をされるのだろうか、と胸のうちに不安が広がる。
けれど、強い覚悟を持って、会いに来てくれたーーー正直、それが嬉しくもあった。
「私が、人殺しだと呼ばれるようになった本当の理由をーーーー聞いてください。」
なまえが言った。
