◇第百五十話◇友情の花火が未来を照らす
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ジャンが病室を出ていってから、それほど時間は経っていなかった。
病室の向こうの廊下を歩く誰かの声が賑やかに聞こえてきたのを合図にしたように、なまえの意識が夢の中から現実へと帰ってくる。
僅かに眉を顰めたなまえが、ゆっくりと瞼を開いた。
「おはよう。」
「…?あ、夢か。」
大きな欠伸をしながら、なまえがのっそりと体を起こす。
開いたばかりの目はトロンとしていた。どうやらまだ寝ぼけているらしい。
「少しは部屋を綺麗に保とうと気をつけるべきだ。
お前の補佐官が、大変そうに部屋の片付けをしていたぞ。」
「あーい。」
なまえは、気の抜けた返事をして、まだまだ欠伸が漏れる口を両手で隠した。
「全く、病室を散らかすなんて。信じられん。」
「ふふっ、リコって夢の中でもいつも怒ってる。」
なまえが、可笑しそうに言う。
その言い方では、今だけではなく、今までも夢の中でリコの姿を見たことがあるようだ。
その度に怒っていたという自分は、一体何に対してそんなに怒りを抱いていたのだろう。
「あぁ、そうだな。私は、怒っていた。
今も怒っている。」
「うん、知ってるよ。もう怒られちゃったし。」
「私が怒っているのは、自分自身にだ。」
「…いいのに、怒らなくて。
リコは、リコの大切なものを守ろうとしていただけでしょう。
知ってたよ、ずっと。リコはすごく優しくて、友達想いなだけだって。」
なまえは、体にかかるシーツごと自分の膝を抱き寄せて、柔らかく微笑んだ。
「私は…、忘れていた。
なまえが…、呆れるほど優しくて、友達思いだってことを。」
「忘れたままでいいの。そんなことは、このまま夢の中に置いていってね。」
なまえが、ひどく優しく瞳を細める。
リコの片眉が僅かに上がる。
いつの間に、目が覚めたのだろう。きっと彼女は、これは夢ではないことにもう気づいている。
「…夢の中の私は、いつも何に怒っていたんだ?」
「んーそうだなぁ。」
思い出すように、なまえが視線を天井に向ける。
すぐに何かが浮かんだのか、途端に表情を綻ばせ、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「リコが任務の後に食べるつもりだったお菓子を私が食べたことにも怒ってたし
訓練をサボってお昼寝してるのがバレちゃっても怒られたし、イアンとミタビをからかって
逃げ回ってるときに、たまたまリコにぶつかっちゃって、メガネが落ちて割れちゃったときも怒ってた。
リヴと一緒にリコの誕生日サプライズパーティーを計画したときなんて、泣きながら怒ってたよ。」
なまえが、おかしそうに笑う。
楽しそうに教えてくれれば、教えてくれるほど、リコは涙を堪える瞳と拳に力が入った。
夢の中の出来事としてなまえが語るその全てが、遠い昔の友人たちの姿と重なった。
(あぁ…、なまえはいつも、そんな夢の中で生きていたんだな。)
リコの腕が、なまえに伸びる。そして、そっと包み込むように抱きしめた。
腕の中で、驚いたように目を見開くなまえに、リコは告げる。
「なまえを眠り姫にしていたのは、私達だったんだな…っ。
ごめん…っ。なまえが、生きたいと思える現実にしてやれなくてっ。
夢の中に逃げ込ませてっ、本当にごめんっ。」
「…!?」
腕の中で、なまえが小さくビクリと肩を震わせた。
「いいんだよ。リコ達が、もう少し頑張ろうかなって思える世界があれば
私はそれでいいの。そのために調査兵団に入ったんだから。」
「いいわけないだろう。なまえだけ犠牲になって保たれる世界が
本当に良いわけがない。この世界が残酷なのは、誰か一人のせいじゃないんだ。」
「…そうかもね。私一人だけじゃ、守れなかった。
ごめんね。明日も楽しいだろうなって思える世界を守れなくて
ごめん。ごめんね…。ごめんなさい…っ。」
なまえが、リコの腕の中で泣きじゃくる。
声を上げて泣いているなまえを前にして、彼女がどれほど責任を感じて苦しんでいたのかを思い知る。
共に苦楽を共にした友人や、その仲間達が無惨に死んでいった。そんなあまりにも惨すぎる現実をなまえは一人で抱えていたのだ。
『それって、逆恨みっすよね。
駐屯兵団の精鋭兵達を殺したのは、なまえさんじゃなくて、巨人ですよ。』
あの日、ジャンが言っていた通りだ。
悪いのは、なまえじゃない。たとえ、なまえなら、イアン達を救う未来を選べたのだとしても、諸悪の根源は巨人なのだ。
なまえは、リコ達と同じ。途方もないほどに大きな世界のたった一つのピースで、巨人に大切な人たちを奪われ続けた被害者だ。
どんなに苦しかろうが、悔しかろうが、なまえを傷つけても良い理由になんてならない。ならなかったはずなのに、リコ達は、泣きながら震える、こんなに小さな身体に、駐屯兵団の兵士達の苦しみを全て押し付けた。たった一人で背負わせ続け、それが当然の報いだと信じ込んでいた。
なんて身勝手で恐ろしい考えだったかーーーーーー今さらになって、心臓が冷える。
「なまえが、無事に帰ってきてくれて、よかった。
もう二度と…、友達は失いたくないんだ。」
「…っ。」
「生きていてくれて、ありがとう。」
リコは、なまえが泣き止むまでずっと抱きしめ続けた。
伝えるべきは、謝罪だと思っていたのだ。
悔いたこと、過ち、その全てを謝るべきだと考えた。
でも違う。なまえが待っていたのは、謝罪じゃない。感謝だって違うだろう。
それは、この残酷な世界で、とても難しくて、ほんの少し気を緩めると失ってしまうもの。
なまえがずっと心から欲しているもの、それは、ー緒に生きていこうと手を取り合う友人と『明日』だった。
病室の向こうの廊下を歩く誰かの声が賑やかに聞こえてきたのを合図にしたように、なまえの意識が夢の中から現実へと帰ってくる。
僅かに眉を顰めたなまえが、ゆっくりと瞼を開いた。
「おはよう。」
「…?あ、夢か。」
大きな欠伸をしながら、なまえがのっそりと体を起こす。
開いたばかりの目はトロンとしていた。どうやらまだ寝ぼけているらしい。
「少しは部屋を綺麗に保とうと気をつけるべきだ。
お前の補佐官が、大変そうに部屋の片付けをしていたぞ。」
「あーい。」
なまえは、気の抜けた返事をして、まだまだ欠伸が漏れる口を両手で隠した。
「全く、病室を散らかすなんて。信じられん。」
「ふふっ、リコって夢の中でもいつも怒ってる。」
なまえが、可笑しそうに言う。
その言い方では、今だけではなく、今までも夢の中でリコの姿を見たことがあるようだ。
その度に怒っていたという自分は、一体何に対してそんなに怒りを抱いていたのだろう。
「あぁ、そうだな。私は、怒っていた。
今も怒っている。」
「うん、知ってるよ。もう怒られちゃったし。」
「私が怒っているのは、自分自身にだ。」
「…いいのに、怒らなくて。
リコは、リコの大切なものを守ろうとしていただけでしょう。
知ってたよ、ずっと。リコはすごく優しくて、友達想いなだけだって。」
なまえは、体にかかるシーツごと自分の膝を抱き寄せて、柔らかく微笑んだ。
「私は…、忘れていた。
なまえが…、呆れるほど優しくて、友達思いだってことを。」
「忘れたままでいいの。そんなことは、このまま夢の中に置いていってね。」
なまえが、ひどく優しく瞳を細める。
リコの片眉が僅かに上がる。
いつの間に、目が覚めたのだろう。きっと彼女は、これは夢ではないことにもう気づいている。
「…夢の中の私は、いつも何に怒っていたんだ?」
「んーそうだなぁ。」
思い出すように、なまえが視線を天井に向ける。
すぐに何かが浮かんだのか、途端に表情を綻ばせ、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「リコが任務の後に食べるつもりだったお菓子を私が食べたことにも怒ってたし
訓練をサボってお昼寝してるのがバレちゃっても怒られたし、イアンとミタビをからかって
逃げ回ってるときに、たまたまリコにぶつかっちゃって、メガネが落ちて割れちゃったときも怒ってた。
リヴと一緒にリコの誕生日サプライズパーティーを計画したときなんて、泣きながら怒ってたよ。」
なまえが、おかしそうに笑う。
楽しそうに教えてくれれば、教えてくれるほど、リコは涙を堪える瞳と拳に力が入った。
夢の中の出来事としてなまえが語るその全てが、遠い昔の友人たちの姿と重なった。
(あぁ…、なまえはいつも、そんな夢の中で生きていたんだな。)
リコの腕が、なまえに伸びる。そして、そっと包み込むように抱きしめた。
腕の中で、驚いたように目を見開くなまえに、リコは告げる。
「なまえを眠り姫にしていたのは、私達だったんだな…っ。
ごめん…っ。なまえが、生きたいと思える現実にしてやれなくてっ。
夢の中に逃げ込ませてっ、本当にごめんっ。」
「…!?」
腕の中で、なまえが小さくビクリと肩を震わせた。
「いいんだよ。リコ達が、もう少し頑張ろうかなって思える世界があれば
私はそれでいいの。そのために調査兵団に入ったんだから。」
「いいわけないだろう。なまえだけ犠牲になって保たれる世界が
本当に良いわけがない。この世界が残酷なのは、誰か一人のせいじゃないんだ。」
「…そうかもね。私一人だけじゃ、守れなかった。
ごめんね。明日も楽しいだろうなって思える世界を守れなくて
ごめん。ごめんね…。ごめんなさい…っ。」
なまえが、リコの腕の中で泣きじゃくる。
声を上げて泣いているなまえを前にして、彼女がどれほど責任を感じて苦しんでいたのかを思い知る。
共に苦楽を共にした友人や、その仲間達が無惨に死んでいった。そんなあまりにも惨すぎる現実をなまえは一人で抱えていたのだ。
『それって、逆恨みっすよね。
駐屯兵団の精鋭兵達を殺したのは、なまえさんじゃなくて、巨人ですよ。』
あの日、ジャンが言っていた通りだ。
悪いのは、なまえじゃない。たとえ、なまえなら、イアン達を救う未来を選べたのだとしても、諸悪の根源は巨人なのだ。
なまえは、リコ達と同じ。途方もないほどに大きな世界のたった一つのピースで、巨人に大切な人たちを奪われ続けた被害者だ。
どんなに苦しかろうが、悔しかろうが、なまえを傷つけても良い理由になんてならない。ならなかったはずなのに、リコ達は、泣きながら震える、こんなに小さな身体に、駐屯兵団の兵士達の苦しみを全て押し付けた。たった一人で背負わせ続け、それが当然の報いだと信じ込んでいた。
なんて身勝手で恐ろしい考えだったかーーーーーー今さらになって、心臓が冷える。
「なまえが、無事に帰ってきてくれて、よかった。
もう二度と…、友達は失いたくないんだ。」
「…っ。」
「生きていてくれて、ありがとう。」
リコは、なまえが泣き止むまでずっと抱きしめ続けた。
伝えるべきは、謝罪だと思っていたのだ。
悔いたこと、過ち、その全てを謝るべきだと考えた。
でも違う。なまえが待っていたのは、謝罪じゃない。感謝だって違うだろう。
それは、この残酷な世界で、とても難しくて、ほんの少し気を緩めると失ってしまうもの。
なまえがずっと心から欲しているもの、それは、ー緒に生きていこうと手を取り合う友人と『明日』だった。