◇第百四十八話◇恋人がいるということ
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「・・・・・・・。・・・・・??」
瞼が朝の光を感じ、あともう少し寝ようかななんて思いながら目を開けてからどれくらい経っただろうか。
鳥の声が聞こえているけれど、たぶん、彼らは早起きの子達なのだろう。
窓の向こうに見える空は、まだ青というよりも白に近い。
あの白が真っ青になる頃には、私は答えを見つけられるだろうか。
今のところ、私の頭の中に浮かぶのはハテナマークばかりなのだ。
(ジャン…?だよね…?)
目の前にある寝顔は、見覚えのあるジャンの寝顔だ。
昼間は、意地の悪いことばかり言うために歪んだ薄い唇も、仕事や世界への苛立ちを隠そうともしないで皴が寄っている眉間も、そこにはない。
閉じた瞼の下で朝の光を反射する長い睫毛も、うっすらとほんの少しだけ開いた薄い唇も、鼻にかかっている長い前髪も、ジャンを象るすべてが綺麗で夢を見ているみたいな気持ちになる。
(触れて、確かめてみようか…?)
もしかすると、本当に夢なのかもしれない。
ジャンと恋人になれたという喜びが、私に妄想を見せている可能性は大いにある。
勇気を出して、ジャンの頬にそっと手を伸ばしてみる。
あぁ、でも怖い。もしも、本当に夢だったのなら?
触れた途端に消えてしまう————そんな儚い夢だったとしたらどうしたらいいのだろう。
この世界は残酷で、あまりにも無情なのだ。
嫌という程に思い知らされてきた。何度も、何度も———。
(でも…!)
その中で、いつだって変わらなかったのがジャンだった。
いつも現実の中にいて、時に弱く、でも、とても強く。彼はいつも、現実から目を逸らさずに立ち続けていた。
このまま逃げてしまうんだろう、そんな風に思ったことは何度もあった。若い兵士達は皆そうだった。それでも良いと思っていた。
逃げたい兵士は、早いうちに逃げた方がいい。
でも、彼は何度心が折れかけても、逃げなかった。現実のど真ん中で、理不尽に向かって怒り続けていた。
そうやって、私のことも諦めずに、手を伸ばし続けてくれたのだ。
「ジャン…?」
私は、ついに彼の名前を呼んで、その頬に触れた。
ジャンは、消えなかった。
冷たい私の指先は、ジャンの体温で温もりを思い出す。
その代わり、ジャンは少し不機嫌そうに眉を顰めた。
「ん~…、まだ、ねましょ…。」
不機嫌そうなままで、ジャンは長い腕を私の腰にまわして強引に引き寄せた。
そのせいで、私の世界は、唐突にジャンの香りに包まれる。
耳元のすぐそばに聞こえてきた掠れた寝惚けた声が、耳たぶをかすっていくからくすぐったくて、思わず身体が震えてしまう。
「ジャン…?!まだ寝るって…、どうしてここに———。」
「さっき、やっと眠れたばっか、なんすから。おとなしく俺の抱き枕に徹してて。」
私の腰にまわされているジャンの腕の力が強くなった。
このままこうして寝かせておけ、ということらしい。
よく分からないけれど、ジャンはやっぱり夢じゃなかった。
久しぶりのジャンの腕の中は、懐かしいような、恥ずかしいような、不思議な感じだ。
でも、とても幸せで、安心して、嬉しくてたまらない。
だから、私もこれ以上は考えるのも抵抗するのもやめた。
どちらにしろ、まだ二度寝するつもりで目を開けたのだ。
私の予定も何も変わってない。
だから、おとなしく眠ることに決めて、私もジャンの腰に手をまわしてみた。
すると、少しだけ、ジャンの身体がビクリと強張った。
そして、目を閉じたままで彼はクスッと笑った。
「お利口さんっすね。」
子供にするみたいに、ジャンが私の頭を撫でる。
馬鹿にしているみたいに、クスクスと笑っている。
でも、すごく満足そうだ。
「私はいつだってお利口さんだからね。」
ジャンの腰にもっとギュッと抱き着いて、甘えてみた。
なんだか、すごく懐かしい。この感じが、いつだって居心地がよかったのを改めて思い出す。
私はこうやって、ジャンと過ごすのが大好きだった。大好きなのだ。
「どうだか。」
「そうでしょ。」
私達は、抱きしめ合いながらクスクスと可笑しそうに笑った。
そばにいるだけ、そこに大好きな人がいるだけ、それだけで世界が夢の中みたいに幸せで溢れている。
私は今、生きている。沢山の命を犠牲にして、彼らの無念を刻んで、生きている。現実を生きている。
「知らなかったの?」
「そうっすね…。
じゃあ、教えてくださいよ。もっと、いろんなこと。」
ジャンは少しだけ思案すると、よく見る意地の悪い笑みを浮かべて口元を歪めた。
なんだか嫌な予感がして言い返そうとしたときには、私の唇をはジャンの唇に塞がれてしまう。
あぁ、ジャンのキスだ。強引で自分勝手なジャンのキスだ。
「いいよ。じゃあ、ジャンも教えてね。」
「なまえだけ、っすよ。」
「特別?」
「特別。」
私達は見つめ合う。その瞳には、お互いを愛おしく思う気持ちが溢れている。
あぁ、私は今、幸せだ。
生きていて、よかった。
瞼が朝の光を感じ、あともう少し寝ようかななんて思いながら目を開けてからどれくらい経っただろうか。
鳥の声が聞こえているけれど、たぶん、彼らは早起きの子達なのだろう。
窓の向こうに見える空は、まだ青というよりも白に近い。
あの白が真っ青になる頃には、私は答えを見つけられるだろうか。
今のところ、私の頭の中に浮かぶのはハテナマークばかりなのだ。
(ジャン…?だよね…?)
目の前にある寝顔は、見覚えのあるジャンの寝顔だ。
昼間は、意地の悪いことばかり言うために歪んだ薄い唇も、仕事や世界への苛立ちを隠そうともしないで皴が寄っている眉間も、そこにはない。
閉じた瞼の下で朝の光を反射する長い睫毛も、うっすらとほんの少しだけ開いた薄い唇も、鼻にかかっている長い前髪も、ジャンを象るすべてが綺麗で夢を見ているみたいな気持ちになる。
(触れて、確かめてみようか…?)
もしかすると、本当に夢なのかもしれない。
ジャンと恋人になれたという喜びが、私に妄想を見せている可能性は大いにある。
勇気を出して、ジャンの頬にそっと手を伸ばしてみる。
あぁ、でも怖い。もしも、本当に夢だったのなら?
触れた途端に消えてしまう————そんな儚い夢だったとしたらどうしたらいいのだろう。
この世界は残酷で、あまりにも無情なのだ。
嫌という程に思い知らされてきた。何度も、何度も———。
(でも…!)
その中で、いつだって変わらなかったのがジャンだった。
いつも現実の中にいて、時に弱く、でも、とても強く。彼はいつも、現実から目を逸らさずに立ち続けていた。
このまま逃げてしまうんだろう、そんな風に思ったことは何度もあった。若い兵士達は皆そうだった。それでも良いと思っていた。
逃げたい兵士は、早いうちに逃げた方がいい。
でも、彼は何度心が折れかけても、逃げなかった。現実のど真ん中で、理不尽に向かって怒り続けていた。
そうやって、私のことも諦めずに、手を伸ばし続けてくれたのだ。
「ジャン…?」
私は、ついに彼の名前を呼んで、その頬に触れた。
ジャンは、消えなかった。
冷たい私の指先は、ジャンの体温で温もりを思い出す。
その代わり、ジャンは少し不機嫌そうに眉を顰めた。
「ん~…、まだ、ねましょ…。」
不機嫌そうなままで、ジャンは長い腕を私の腰にまわして強引に引き寄せた。
そのせいで、私の世界は、唐突にジャンの香りに包まれる。
耳元のすぐそばに聞こえてきた掠れた寝惚けた声が、耳たぶをかすっていくからくすぐったくて、思わず身体が震えてしまう。
「ジャン…?!まだ寝るって…、どうしてここに———。」
「さっき、やっと眠れたばっか、なんすから。おとなしく俺の抱き枕に徹してて。」
私の腰にまわされているジャンの腕の力が強くなった。
このままこうして寝かせておけ、ということらしい。
よく分からないけれど、ジャンはやっぱり夢じゃなかった。
久しぶりのジャンの腕の中は、懐かしいような、恥ずかしいような、不思議な感じだ。
でも、とても幸せで、安心して、嬉しくてたまらない。
だから、私もこれ以上は考えるのも抵抗するのもやめた。
どちらにしろ、まだ二度寝するつもりで目を開けたのだ。
私の予定も何も変わってない。
だから、おとなしく眠ることに決めて、私もジャンの腰に手をまわしてみた。
すると、少しだけ、ジャンの身体がビクリと強張った。
そして、目を閉じたままで彼はクスッと笑った。
「お利口さんっすね。」
子供にするみたいに、ジャンが私の頭を撫でる。
馬鹿にしているみたいに、クスクスと笑っている。
でも、すごく満足そうだ。
「私はいつだってお利口さんだからね。」
ジャンの腰にもっとギュッと抱き着いて、甘えてみた。
なんだか、すごく懐かしい。この感じが、いつだって居心地がよかったのを改めて思い出す。
私はこうやって、ジャンと過ごすのが大好きだった。大好きなのだ。
「どうだか。」
「そうでしょ。」
私達は、抱きしめ合いながらクスクスと可笑しそうに笑った。
そばにいるだけ、そこに大好きな人がいるだけ、それだけで世界が夢の中みたいに幸せで溢れている。
私は今、生きている。沢山の命を犠牲にして、彼らの無念を刻んで、生きている。現実を生きている。
「知らなかったの?」
「そうっすね…。
じゃあ、教えてくださいよ。もっと、いろんなこと。」
ジャンは少しだけ思案すると、よく見る意地の悪い笑みを浮かべて口元を歪めた。
なんだか嫌な予感がして言い返そうとしたときには、私の唇をはジャンの唇に塞がれてしまう。
あぁ、ジャンのキスだ。強引で自分勝手なジャンのキスだ。
「いいよ。じゃあ、ジャンも教えてね。」
「なまえだけ、っすよ。」
「特別?」
「特別。」
私達は見つめ合う。その瞳には、お互いを愛おしく思う気持ちが溢れている。
あぁ、私は今、幸せだ。
生きていて、よかった。