◇第百四十七話◇最愛を唱えるのは天使か悪魔か
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想像もしていなかったなまえからの告白だった。
驚いたと共に、ジャンは返事をすぐに出せない自分にも戸惑っていた。
彼女の気持ちが嬉しいのは確かだ。こうなることをずっと前から願っていた。
けれど、手を伸ばせばすぐそこにある幸せに躊躇しているのもまた事実なのだ。
それが何なのか、自分でもハッキリはしない。
沈黙が続くほどに、不安そうな表情に変わっていくなまえは、まだ何も言っていないうちから泣いてしまいそうになっている。
なまえを泣かせるのは本望ではない。
ジャンは、必死に頭の中を整理した。そして、自分の気持ちを確かめた。
「なまえさんの気持ちは嬉しいです。」
そう言うと、なまえの表情が一気に明るくなった。
「でも、すみません。
婚約者にはなれません。」
そう続ければ、なまえは絶望した顔をして、滝のような涙を流した。
本当に表情が豊かで面白い人だ。
こうなることを期待して、わざと意地悪な回答の仕方をした自分の性格の悪さも自覚している。
ジャンは想定通りに動いてくれたなまえが可愛くて、思わず笑ってしまいそうになったのを必死に堪えながら、さらに続けた。
「恋人になりましょう、俺達。」
「…え?」
ジャンの言葉に面食らったのか、なまえの頬を濁流のごとく流れ落ちていた滝のような涙が止まった。
なまえは、呆気にとられたような顔をしているけれど、そこまでおかしなことを言ったつもりはない。
そもそも、始まりが『偽物の婚約者』だとか『本物の婚約者』というのがおかしいのだ。
大抵の男女が、まずは恋人から始まるはずだ。そこから、良いところや悪いところを見せあい、受け入れあい、許し合い、関係を育んでいくんじゃないだろうか。
それが、ジャンとなまえには足りなかった。
だから、こうして長いすれ違いを続けて、お互いに傷つけあうということになってしまったのではないかと、ジャンは考えたのだ。
正直、自分は補佐官としてなまえのことをよく理解していたし、信頼関係は深く築けていると信じていた。だが、それはただの思い上がりだったと思い知った。
上司と部下としては、確かに信頼関係はあっただろう。
けれど、男女としては、自分達の関係は未熟過ぎたのだ。
「俺はもう、なまえさんとすれ違うのは嫌です。
なまえさんはどうですか?」
「そ…っ、そんなの私も嫌だよ!
それなら、巨人に八つ裂きにされる方がマシだよ!!」
目を見開いて、なまえが叫ぶように答える。
真っ青な表情からは、彼女の本気が伝わってくる。
想像していたよりもずっと重症だったのかもしれない。
思わず出そうになった苦笑いを噛み殺し、ジャンは続ける。
「なら、俺達、いちからやり直しましょう。
…っていうか、まだ何も始まってなかったっつーか。」
ジャンの言葉の意味をなまえは咀嚼しようとしているようだった。
いつの間にか涙は止まり、真っ直ぐに見つめてくる。
なまえの真剣さが伝わってくる。それだけで、ジャンはこれまでの苦労が報われるようだった。
「俺は、これから、なまえさんとひとつひとつ関係を作っていきたい。
恋人としてのなまえさんのこともたくさん知りたい。
なまえさんは、知りたくないっすか?」
「っ、知…っ、知りたい…!」
漸く、ジャンの言葉の意味を理解したらしいなまえは、また泣きそうになっている。
必死に涙を堪えて答える姿がいじらしくて、とうとうジャンは苦笑いを噛み殺せなかった。
思わず、産まれたばかりの小さな子犬を愛でるように、なまえの頭を撫でてしまう。
「俺、なまえさんの隣にいても誰にも文句を言わせない男になりますから。
そしたら、プロポーズさせてください。」
「うん…っ、うん…っ!
私も…っ、ジャンにつり合う女の人になる!頑張る…!」
ジャンにとって、なまえは上司で、憧れの調査兵でもある。
いつだって、手の届かない高嶺の花だった。
そんな彼女から『つり合う女の人になる』と宣言されたのに面食らう。
けれど、なまえにとっても、自分という存在は、必死に手を伸ばしてでも隣を並んで歩きたいと思えるものになっていたのかもしれない。
そう思うと、少しだけ恥ずかしくて、くすぐったい気持ちになる。
「プロポーズの答えは、イエス以外は受け付けねぇから。」
照れ隠しに出てしまった身勝手なセリフそのままに、ジャンは思いのままになまえの身体を抱き寄せた。
背中に手をまわして包み込めば、なまえがジャンの背中に力強くしがみつく。
ジャンの両手で余ってしまいそうなほどに、とても小さな背中だ。兵士のくせに、筋肉がどこにあるか分からないくらいに華奢な身体だ。
けれど、調査兵になると決めたその日からずっと追いかけていた憧れの背中でもある。
そして、お似合いだと噂されるリヴァイと並ぶ姿を、いつも後ろから見つめていた。遠い背中だった。
そんな彼女が今、自分の腕の中にいる。
彼女が望んで、そこにいる。
ここが自分の居場所だと、なまえが安心して過ごせるようになるまで、努力しよう。愛していこう。
今度こそ———。
「よろしくお願いしますね。
偽物の婚約者から本物の恋人になった、なまえさん。」
なまえの耳たぶすれすれで、息を吹きかけるように囁く。
途端に、なまえは顔を真っ赤にして、背筋に添木が入ったみたいにピンッと伸びた。
反応が相変わらずで、ジャンは意地悪くククッと笑った。なまえが少しだけ怒っていた。
驚いたと共に、ジャンは返事をすぐに出せない自分にも戸惑っていた。
彼女の気持ちが嬉しいのは確かだ。こうなることをずっと前から願っていた。
けれど、手を伸ばせばすぐそこにある幸せに躊躇しているのもまた事実なのだ。
それが何なのか、自分でもハッキリはしない。
沈黙が続くほどに、不安そうな表情に変わっていくなまえは、まだ何も言っていないうちから泣いてしまいそうになっている。
なまえを泣かせるのは本望ではない。
ジャンは、必死に頭の中を整理した。そして、自分の気持ちを確かめた。
「なまえさんの気持ちは嬉しいです。」
そう言うと、なまえの表情が一気に明るくなった。
「でも、すみません。
婚約者にはなれません。」
そう続ければ、なまえは絶望した顔をして、滝のような涙を流した。
本当に表情が豊かで面白い人だ。
こうなることを期待して、わざと意地悪な回答の仕方をした自分の性格の悪さも自覚している。
ジャンは想定通りに動いてくれたなまえが可愛くて、思わず笑ってしまいそうになったのを必死に堪えながら、さらに続けた。
「恋人になりましょう、俺達。」
「…え?」
ジャンの言葉に面食らったのか、なまえの頬を濁流のごとく流れ落ちていた滝のような涙が止まった。
なまえは、呆気にとられたような顔をしているけれど、そこまでおかしなことを言ったつもりはない。
そもそも、始まりが『偽物の婚約者』だとか『本物の婚約者』というのがおかしいのだ。
大抵の男女が、まずは恋人から始まるはずだ。そこから、良いところや悪いところを見せあい、受け入れあい、許し合い、関係を育んでいくんじゃないだろうか。
それが、ジャンとなまえには足りなかった。
だから、こうして長いすれ違いを続けて、お互いに傷つけあうということになってしまったのではないかと、ジャンは考えたのだ。
正直、自分は補佐官としてなまえのことをよく理解していたし、信頼関係は深く築けていると信じていた。だが、それはただの思い上がりだったと思い知った。
上司と部下としては、確かに信頼関係はあっただろう。
けれど、男女としては、自分達の関係は未熟過ぎたのだ。
「俺はもう、なまえさんとすれ違うのは嫌です。
なまえさんはどうですか?」
「そ…っ、そんなの私も嫌だよ!
それなら、巨人に八つ裂きにされる方がマシだよ!!」
目を見開いて、なまえが叫ぶように答える。
真っ青な表情からは、彼女の本気が伝わってくる。
想像していたよりもずっと重症だったのかもしれない。
思わず出そうになった苦笑いを噛み殺し、ジャンは続ける。
「なら、俺達、いちからやり直しましょう。
…っていうか、まだ何も始まってなかったっつーか。」
ジャンの言葉の意味をなまえは咀嚼しようとしているようだった。
いつの間にか涙は止まり、真っ直ぐに見つめてくる。
なまえの真剣さが伝わってくる。それだけで、ジャンはこれまでの苦労が報われるようだった。
「俺は、これから、なまえさんとひとつひとつ関係を作っていきたい。
恋人としてのなまえさんのこともたくさん知りたい。
なまえさんは、知りたくないっすか?」
「っ、知…っ、知りたい…!」
漸く、ジャンの言葉の意味を理解したらしいなまえは、また泣きそうになっている。
必死に涙を堪えて答える姿がいじらしくて、とうとうジャンは苦笑いを噛み殺せなかった。
思わず、産まれたばかりの小さな子犬を愛でるように、なまえの頭を撫でてしまう。
「俺、なまえさんの隣にいても誰にも文句を言わせない男になりますから。
そしたら、プロポーズさせてください。」
「うん…っ、うん…っ!
私も…っ、ジャンにつり合う女の人になる!頑張る…!」
ジャンにとって、なまえは上司で、憧れの調査兵でもある。
いつだって、手の届かない高嶺の花だった。
そんな彼女から『つり合う女の人になる』と宣言されたのに面食らう。
けれど、なまえにとっても、自分という存在は、必死に手を伸ばしてでも隣を並んで歩きたいと思えるものになっていたのかもしれない。
そう思うと、少しだけ恥ずかしくて、くすぐったい気持ちになる。
「プロポーズの答えは、イエス以外は受け付けねぇから。」
照れ隠しに出てしまった身勝手なセリフそのままに、ジャンは思いのままになまえの身体を抱き寄せた。
背中に手をまわして包み込めば、なまえがジャンの背中に力強くしがみつく。
ジャンの両手で余ってしまいそうなほどに、とても小さな背中だ。兵士のくせに、筋肉がどこにあるか分からないくらいに華奢な身体だ。
けれど、調査兵になると決めたその日からずっと追いかけていた憧れの背中でもある。
そして、お似合いだと噂されるリヴァイと並ぶ姿を、いつも後ろから見つめていた。遠い背中だった。
そんな彼女が今、自分の腕の中にいる。
彼女が望んで、そこにいる。
ここが自分の居場所だと、なまえが安心して過ごせるようになるまで、努力しよう。愛していこう。
今度こそ———。
「よろしくお願いしますね。
偽物の婚約者から本物の恋人になった、なまえさん。」
なまえの耳たぶすれすれで、息を吹きかけるように囁く。
途端に、なまえは顔を真っ赤にして、背筋に添木が入ったみたいにピンッと伸びた。
反応が相変わらずで、ジャンは意地悪くククッと笑った。なまえが少しだけ怒っていた。