◇第百四十四話◇偽物と本物が始まる夜
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リヴァイは、病室から出て扉を閉める。
大袈裟なくらいにゆっくり扉を閉めたのは、まだ未練が残っているからだ。
もう一度だけ、なまえは自分の名前を呼んで引き留めてくれないだろうか———そんな虚しい願いは、まだもう少しは心の中に残り続けるのだろう。
けれど、後悔もまたしていなかった。
理由は、単純明快だ。
なまえの隣に並ぶジャンが覚悟をした顔をしていたから、ではない。
ただただ2人がお似合いだった。隣にいることが、とても自然だった。
きっと彼らはこんな風に、生涯を共に生きようと誓うのだろうと容易に想像出来てしまったのだ。
そこに、自分の入る隙間はない。
気持ちがいいくらいの失恋だ。
やれることはやった。だから、後悔はない。
「はぁ。」
扉を閉めた途端に、小さくため息が漏れた。
ため息とともに、肩の力も抜けていく。
やっと、気が楽になった。
後は、なまえの為に自分に出来ることはただひとつ。
なまえが愛する人と幸せに生きられる未来を守ることだ。
よし———気合を入れて顔を上げたところで、廊下の角でこっそりとこちらを伺う視線を見つける。
見覚えのある問題児達、104期の調査兵だ。
コニーとサシャ、クリスタにユミルもいる。
作戦中はなまえに守られて無傷だった彼らは、普段の壁外調査でも強運を味方につけて、怪我をすることがあまりない。つまり、医療棟とは無縁だということだ。
そんな彼らが、わざわざ廊下の角に隠れてこっそりと様子を伺っている理由なんて、リヴァイが失恋した理由よりも単純明快だ。
だが、彼らがいたことは、逆にリヴァイにとっても都合がよかったのかもしれない。
「お前ら、そんなところで何やってる。」
声をかけると、4人はビクッと肩を跳ねさせた。
そして、観念した様子でリヴァイの元までやって来る。
「なまえさんが目を覚ましたと聞きました!
心配で様子を見に来ました。」
答えたのはサシャだった。
確かに、心配そうな表情をしてはいる。
だが、その隣で、ユミルだけが意地悪く口元をにやつかせている。
「まさか、三角関係の修羅場を覗きに来たんじゃありませんよ。
そんな悪趣味はありません。」
「え!?ちょっと!ユミル!なんで言っちゃうの!?」
「お前が面白ぇもんが見れるって言うから来たんだろ!俺達も巻き込むなよ!」
クリスタとコニーが慌てて抗議するが、ククッと喉を鳴らすユミルは聞いてはいない。
サシャはとても気まずそうに頬を掻いて、笑って誤魔化そうとしている。
全く仕方のない後輩達だ。
「残念だったな、面白いことが起きる予定は一切ねぇ。」
「えええ~…。」
キッパリとしたリヴァイの否定に、4人はあからさまに残念そうな反応を見せる。
他人の恋愛沙汰に首を突っ込んで、修羅場を期待するなんて、悪趣味にもほどがある。
「それじゃあ…、ジャンにはもう全く望みがないってことですか?」
悲しそうに訊ねたのは、サシャだった。
そんなサシャをフォローするように、クリスタが慌てた様子で付け足す。
「私達も分かってるんですよ!ジャンよりリヴァイ兵長の方が強いし、頼りがいもあるし、
男性としてどころか人間性の魅力でも、ジャンに勝ち目はないって!
「言い過ぎだな。」
「うるさいユミル!
ただ私達は友達の恋が叶って欲しいなって思ってるだけなんです。」
「つまり、上司の恋愛がぶっ壊れることを願ってるってことか。」
ユミルが余計なことを付け足すから、クリスタが声にならない悲鳴を上げた。
サシャとコニーが真っ青な顔をして、無言で首を横に振っている。早すぎて、彼らの表情がぼやけて見える。首がもげそうだ。
全く、本当に仕方のない部下達だ。
リヴァイは、漏れそうになる舌打ちをなんとか飲み込んだ。
「残念だったな、お前達の願いはそもそもひとつしか叶わねぇ。」
「…そうですよね。すみません、失礼なことを言ってしまって。」
クリスタが申し訳なさそうに目を伏せる。
さすがのユミルも上司へのこれ以上の暴言はマズイと自覚しているのか、何も言わずにクリスタの頭を優しく撫でるだけだった。
「そもそも俺達は婚約者でもなんでもねぇ。
本物の婚約者は、最初からジャンだ。」
「そうですよね。知ってましたよ。
傷つくなまえさんを兵長が慰めてるうちに
そういう関係になっちゃったんですよね。それも仕方ないって思っ…え?」
「え?!リヴァイ兵長、今何て言いました!?」
サシャとコニーが目を丸くして声を上げる。
クリスタは混乱している様子で、ユミルも片眉を上げて訝し気な表情を浮かべている。
仕方がない————そんな表情を顔に貼り付けて、リヴァイは自分がなまえの婚約者を名乗っていた理由を4人に丁寧に説明した。
大袈裟なくらいにゆっくり扉を閉めたのは、まだ未練が残っているからだ。
もう一度だけ、なまえは自分の名前を呼んで引き留めてくれないだろうか———そんな虚しい願いは、まだもう少しは心の中に残り続けるのだろう。
けれど、後悔もまたしていなかった。
理由は、単純明快だ。
なまえの隣に並ぶジャンが覚悟をした顔をしていたから、ではない。
ただただ2人がお似合いだった。隣にいることが、とても自然だった。
きっと彼らはこんな風に、生涯を共に生きようと誓うのだろうと容易に想像出来てしまったのだ。
そこに、自分の入る隙間はない。
気持ちがいいくらいの失恋だ。
やれることはやった。だから、後悔はない。
「はぁ。」
扉を閉めた途端に、小さくため息が漏れた。
ため息とともに、肩の力も抜けていく。
やっと、気が楽になった。
後は、なまえの為に自分に出来ることはただひとつ。
なまえが愛する人と幸せに生きられる未来を守ることだ。
よし———気合を入れて顔を上げたところで、廊下の角でこっそりとこちらを伺う視線を見つける。
見覚えのある問題児達、104期の調査兵だ。
コニーとサシャ、クリスタにユミルもいる。
作戦中はなまえに守られて無傷だった彼らは、普段の壁外調査でも強運を味方につけて、怪我をすることがあまりない。つまり、医療棟とは無縁だということだ。
そんな彼らが、わざわざ廊下の角に隠れてこっそりと様子を伺っている理由なんて、リヴァイが失恋した理由よりも単純明快だ。
だが、彼らがいたことは、逆にリヴァイにとっても都合がよかったのかもしれない。
「お前ら、そんなところで何やってる。」
声をかけると、4人はビクッと肩を跳ねさせた。
そして、観念した様子でリヴァイの元までやって来る。
「なまえさんが目を覚ましたと聞きました!
心配で様子を見に来ました。」
答えたのはサシャだった。
確かに、心配そうな表情をしてはいる。
だが、その隣で、ユミルだけが意地悪く口元をにやつかせている。
「まさか、三角関係の修羅場を覗きに来たんじゃありませんよ。
そんな悪趣味はありません。」
「え!?ちょっと!ユミル!なんで言っちゃうの!?」
「お前が面白ぇもんが見れるって言うから来たんだろ!俺達も巻き込むなよ!」
クリスタとコニーが慌てて抗議するが、ククッと喉を鳴らすユミルは聞いてはいない。
サシャはとても気まずそうに頬を掻いて、笑って誤魔化そうとしている。
全く仕方のない後輩達だ。
「残念だったな、面白いことが起きる予定は一切ねぇ。」
「えええ~…。」
キッパリとしたリヴァイの否定に、4人はあからさまに残念そうな反応を見せる。
他人の恋愛沙汰に首を突っ込んで、修羅場を期待するなんて、悪趣味にもほどがある。
「それじゃあ…、ジャンにはもう全く望みがないってことですか?」
悲しそうに訊ねたのは、サシャだった。
そんなサシャをフォローするように、クリスタが慌てた様子で付け足す。
「私達も分かってるんですよ!ジャンよりリヴァイ兵長の方が強いし、頼りがいもあるし、
男性としてどころか人間性の魅力でも、ジャンに勝ち目はないって!
「言い過ぎだな。」
「うるさいユミル!
ただ私達は友達の恋が叶って欲しいなって思ってるだけなんです。」
「つまり、上司の恋愛がぶっ壊れることを願ってるってことか。」
ユミルが余計なことを付け足すから、クリスタが声にならない悲鳴を上げた。
サシャとコニーが真っ青な顔をして、無言で首を横に振っている。早すぎて、彼らの表情がぼやけて見える。首がもげそうだ。
全く、本当に仕方のない部下達だ。
リヴァイは、漏れそうになる舌打ちをなんとか飲み込んだ。
「残念だったな、お前達の願いはそもそもひとつしか叶わねぇ。」
「…そうですよね。すみません、失礼なことを言ってしまって。」
クリスタが申し訳なさそうに目を伏せる。
さすがのユミルも上司へのこれ以上の暴言はマズイと自覚しているのか、何も言わずにクリスタの頭を優しく撫でるだけだった。
「そもそも俺達は婚約者でもなんでもねぇ。
本物の婚約者は、最初からジャンだ。」
「そうですよね。知ってましたよ。
傷つくなまえさんを兵長が慰めてるうちに
そういう関係になっちゃったんですよね。それも仕方ないって思っ…え?」
「え?!リヴァイ兵長、今何て言いました!?」
サシャとコニーが目を丸くして声を上げる。
クリスタは混乱している様子で、ユミルも片眉を上げて訝し気な表情を浮かべている。
仕方がない————そんな表情を顔に貼り付けて、リヴァイは自分がなまえの婚約者を名乗っていた理由を4人に丁寧に説明した。