『私は、ライナーとベルトルトにこれ以上、人を殺させたくないんです。
　それが友人だったなら尚更———。
　それはきっと、彼らの心も殺してしまうから。守ってあげたい。』

あの日、作戦会議でなまえが言った言葉が、ハンジとモブリットの脳裏に蘇る。
なんて生温いことを言っているんだろう———正直、あの場にいる誰もがそう思ったはずだ。
相手は人類最大の仇だ。
彼らは、仲間ではなかったのだ。
こんな作戦、本当にうまくいくのか。心配でたまらなかった。
なまえは、精鋭兵の中でも特に優秀な兵士だ。彼女が、捕獲作戦の最前線にいてくれたらどれほどの力になるか。彼女自身も理解していたはずだ。
出来れば、仲間を守る為ではなく、捕獲の為にブレードを振るってほしかった。
けれど、エルヴィンは、なまえのあまりにも優しすぎる作戦を受け入れて決行させた。
そして、その結果がこれだ。
失敗するはずだった作戦は、思いがけず最大の仇が自ら戻って来てくれたことで、捕獲に成功した。
それで終わるはずだったのに、なまえに守られ続けた104期の調査兵達は、彼女の本意に気付いた。
そして、それをライナー達に伝えたことで、あれほど頑なだった彼らの心を解くことにまで成功した。

「まさか…。」

騒がしい彼らを眺めながら、あの会議のことを思い出していたハンジは、顎に手を添えて呟く。
まさか、エルヴィンはここまで考えていて———。
確かに、104期の調査兵をライナー達の元へ連れて行くようにと指示を出したのは団長であるエルヴィンだ。
いや、でも——。まさか、そんなはずはない。
先見の明があるエルヴィンでも、ここまで予想していただなんて———。

「いや、でも……。」

あのときの不敵な笑みのエルヴィンを思い返して、ハンジは考えを改める。
あれは確かに、作戦の成功を期待している顔だった。

「さすがだな。」

ハンジは、感心したように呟いた。
帰還してからずっと眉間に皴を寄せて辛そうにしていた彼女の表情は、とても久しぶりに柔らかくなっていた。