「ジャン、お前がそんなに死にたがりのクソ野郎だとは思わなかった。」

両腕を組んで、リヴァイが言う。
淡々としたその口調が、余計に彼の怒りを物語っているようだった。
一方で、説教の対象となっているジャンは、伸びすぎた長身を出来る限り小さくして頭を垂れている。
そのせいなのか、背の低いリヴァイの方がジャンを見下ろしているように見える程だ。

「…すみません。」

消え入りそうな声で謝罪するジャンからは、反省の色が伺える。
けれど、リヴァイの怒りは一向に治まらないようだ。

「なんだったか。確かお前は俺に、クソくらえ、と言ったか。」
「…いえ、それはそういう意味じゃなくて…。」
「じゃあ、どういう意味だ。言ってみろ。」
「…本当、すみません…。」
「お前は俺に指をくわえて見てて欲しかったらしいが、
　俺はどうすりゃよかったんだ。
　俺が指をくわえる前に、お前は巨人に喰われかけてたんだが？」
「…マジで、本当にすみません…。　
　俺、あの時どうかしてたっていうか…その…。」

本来の姿よりも少なくとも3割増しでは強くカッコよく見られたいと思っているのが、ジャンという男だ。
そのジャンが、情けない姿を晒しながら、ただひたすら謝り続けている。
なかなか見られない光景だ。
けれど、怒られて当然だ———とアルミンは思っている。
恐ろしいことをしたのだ。
ジャンがなまえを抱えたまま巨人の大群の中へと飛び込んでいったのが見えたとき、アルミンの脳裏をよぎったのは、巨人に喰われた瞬間のあのおぞましい感覚だった。
絶望と恐怖、悲しみ、この世にある全ての負の感情が一気に押し寄せてきたみたいだったのを今でもよく覚えている。助けてくれたエレンが巨人に飲み込まれた瞬間の恐怖と共に、忘れられずにいる体験のひとつだ。
鎧の巨人が命懸けでジャンを助けてくれたのを見たときには、安堵で膝から崩れ落ちた。
そして、アルミンは思い知ったのだ。
ジャンはもう、アルミンにとって自分の身体の一部みたいなものだった。
それはきっと、104期のメンバーみんながそうなのだ。
ライナーやベルトルトに対しても同じなのだと思う。
彼らでなければ他の仲間は死んでも構わないなんて思うわけがない。
けれど、104期のメンバーには、いつまでも生きていて欲しい。
壁のなくなった世界で笑っていて欲しい———そう願っているのだ。

「あれはいつ終わるんだ。」

コニーが呆れたように言う。
アレとは、リヴァイの説教のことだろう。
いつ終わるのかと言えば、きっとまだまだ続くはずだ。
エレンから、リヴァイの説教はねちねちとしつこいと以前聞いたことがある。
確かにその通りのようだ。

「なまえさんが目を覚ませば終わりますよ、きっと。」

サシャが言う。
そうだね————心の中で零れたアルミンの声は、音にはならなかった。
怖かったのだ。
なまえがこのまま目を覚まさなかったら———、彼女が本当に眠り姫になってしまったら————。
調査兵団が壊れてしまう、そんな予感がする。