◇第百三十八話◇守りたい人と守るべき想い(3)
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「待ちなさいよ!!アンタ達が助けに来なさいよ!!逃げんじゃないわよ!!」
ベルトルトという人間の存在に気付いたのか、巨人は鎧の巨人の周りに群れを成していた。
けれど、それがなぜか次第に減っていき、壁の方へ向かいだしてくれたのだ。
そのおかげで、漸く巨人の群れから抜け出した鎧の巨人が壁の向こうへ走り出したときだった。
壁の方から自分達の名前を叫ぶ声がしたのだ。
「何かあったみたいだよ。大丈夫かな…?」
両手で胸元を覆うようにして鎧の巨人から守られているベルトルトは、不安そうな声を漏らした。
鎧の巨人でいる間、ライナーが喋ることはない。
でも、立ち止まることも振り返ることもしない態度で、ライナーの意思はベルトルトに届いた。
「そう、だよね…。僕達は戦士なんだ。
彼らは、僕達の仲間じゃない。敵なんだ。」
言い聞かせるようにベルトルトが言う。
違う———そう言えたらどんなにいいだろうか。
悲鳴のような叫びから背を向けながら、ベルトルトはそんなことを考えていた。
産まれてきたのがこの壁の中だったのなら、どうなっていたのだろう。
何度もそんな愚かな妄想をしたことがある。
きっと自分達は、友人達がしているのと同じように、本当の敵の存在も知らず、巨人を駆逐さえすれば自由を取り戻せると盲信して危険な世界を飛び回っていたに違いない。
どうせ、自由なんて手に入らないのに————。
(でも…。)
でも、こんなに苦しい思いはしなくてもよかった。
エレンの母親を殺さずに済んだし、彼はずっと自分達の友人でいてくれただろう。
共に脅威に立ち向かえるだけの強い絆を結ぶ仲間がいて、馬鹿みたいなことをしては、共に笑って、時には泣いて、最後にはやっぱり馬鹿笑いをして、歳をとってからも共に酒を飲む友人にも恵まれていたのだろう。
個性的で、厳しくも優しい先輩達にもまれながら、本当の意味で〝強い人間〟へと成長していけたかもしれない。
ただ生まれた世界が違っていただけで、ライナー達とエレン達の運命は大きく変わってしまった。
そして、もう二度と、交わることはない。
「調査兵は、誰も死んでない!!怪我はしたけど、誰も死んでない!!
なまえさんが守ってくれたからよ!!」
「…ッ!」
思わず上げそうになった声を、ベルトルトは両手で口を覆って飲み込んだ。
まさか———。
誰も死んでいないなんて、ありえない。
朝を迎えて他にも巨人は大勢いただろうし、実際、その巨人の大群に鎧の巨人は足止めを喰らっていたのだ。
だから、自分はまた人を殺したのだと、そう信じていた。
必死に逃げる間も何度だって友人の顔がチラついたけれど、考えないようにした。
(よかった…っ。)
死んでいなかった。
これから先、マーレ軍の侵攻が本格的に始まれば、今度こそ調査兵達の命は無事では済まないのだろう。
けれど、今はまだ、誰も死んでいない。
仲間だと笑い合った彼らは、生きている。
(殺してなかった…っ。)
よかった。本当に、よかった———。
人を殺したいと思う人間が、どこにいるというのだろう。
少なくとも、ライナーとベルトルトは違う。アニだって違う。
いつだって、大切な人達の笑顔を願っている。
それだけなのに————。
「ジャンさん…!!」
離れていく壁の方から、悲鳴と共に友人の名前が聞こえた。
ベルトルトという人間の存在に気付いたのか、巨人は鎧の巨人の周りに群れを成していた。
けれど、それがなぜか次第に減っていき、壁の方へ向かいだしてくれたのだ。
そのおかげで、漸く巨人の群れから抜け出した鎧の巨人が壁の向こうへ走り出したときだった。
壁の方から自分達の名前を叫ぶ声がしたのだ。
「何かあったみたいだよ。大丈夫かな…?」
両手で胸元を覆うようにして鎧の巨人から守られているベルトルトは、不安そうな声を漏らした。
鎧の巨人でいる間、ライナーが喋ることはない。
でも、立ち止まることも振り返ることもしない態度で、ライナーの意思はベルトルトに届いた。
「そう、だよね…。僕達は戦士なんだ。
彼らは、僕達の仲間じゃない。敵なんだ。」
言い聞かせるようにベルトルトが言う。
違う———そう言えたらどんなにいいだろうか。
悲鳴のような叫びから背を向けながら、ベルトルトはそんなことを考えていた。
産まれてきたのがこの壁の中だったのなら、どうなっていたのだろう。
何度もそんな愚かな妄想をしたことがある。
きっと自分達は、友人達がしているのと同じように、本当の敵の存在も知らず、巨人を駆逐さえすれば自由を取り戻せると盲信して危険な世界を飛び回っていたに違いない。
どうせ、自由なんて手に入らないのに————。
(でも…。)
でも、こんなに苦しい思いはしなくてもよかった。
エレンの母親を殺さずに済んだし、彼はずっと自分達の友人でいてくれただろう。
共に脅威に立ち向かえるだけの強い絆を結ぶ仲間がいて、馬鹿みたいなことをしては、共に笑って、時には泣いて、最後にはやっぱり馬鹿笑いをして、歳をとってからも共に酒を飲む友人にも恵まれていたのだろう。
個性的で、厳しくも優しい先輩達にもまれながら、本当の意味で〝強い人間〟へと成長していけたかもしれない。
ただ生まれた世界が違っていただけで、ライナー達とエレン達の運命は大きく変わってしまった。
そして、もう二度と、交わることはない。
「調査兵は、誰も死んでない!!怪我はしたけど、誰も死んでない!!
なまえさんが守ってくれたからよ!!」
「…ッ!」
思わず上げそうになった声を、ベルトルトは両手で口を覆って飲み込んだ。
まさか———。
誰も死んでいないなんて、ありえない。
朝を迎えて他にも巨人は大勢いただろうし、実際、その巨人の大群に鎧の巨人は足止めを喰らっていたのだ。
だから、自分はまた人を殺したのだと、そう信じていた。
必死に逃げる間も何度だって友人の顔がチラついたけれど、考えないようにした。
(よかった…っ。)
死んでいなかった。
これから先、マーレ軍の侵攻が本格的に始まれば、今度こそ調査兵達の命は無事では済まないのだろう。
けれど、今はまだ、誰も死んでいない。
仲間だと笑い合った彼らは、生きている。
(殺してなかった…っ。)
よかった。本当に、よかった———。
人を殺したいと思う人間が、どこにいるというのだろう。
少なくとも、ライナーとベルトルトは違う。アニだって違う。
いつだって、大切な人達の笑顔を願っている。
それだけなのに————。
「ジャンさん…!!」
離れていく壁の方から、悲鳴と共に友人の名前が聞こえた。