「しっかりと自分の任務は遂行できたみてぇだな。」

ヒストリアから傷の手当てを受けていたジャンを見つけて、リヴァイは声をかけた。
ちょうど処置が終わったところだったらしく、ジャンは立ち上がり振り返ると、少し困ったように首元を掻いた。
ジャンのことを補佐として優秀だと思ったのは事実だ。
なまえが、彼をなかなか手放したがらなかった理由を嫌という程に理解した。
けれど、ジャンを壁外調査に連れて行こうと決めたのは、補佐官が欲しかったからではない。
今回の作戦は、命懸けになることは分かっていた。
特に、作戦Ｄに移行した場合のなまえ班の任務は最も危険な任務のひとつだっただろう。
本当は、そばにいて守りたかった。けれど、どうしてもリヴァイはいつでもなまえのそばにいることは出来なかった。
だから、ジャンなら———実力差を嫌という程に知りながらも、何度も何度も必死に自分に食らいついてくるジャンを見て、リヴァイは彼に期待をした。
ライナーとベルトルトの正体を知ったとき、ジャンの心は強くいられるだろうか。自分がするべきことをすぐに見つけられるだろうか。
大丈夫だという確信はなかった。正直、賭けだった。
そして、ジャンは、リヴァイの期待通りの働きをしたのだろう。
壁上で再会したなまえには、怪我ひとつなかった。

「いまだに分からねぇことだらけっすけど…。」
「自分の役割さえ把握してりゃそれでいい。」
「リヴァイ兵長の役割、俺に返してくれるってことっすか。」
「————そのつもりは、ねぇ。」

なんだよ、それ———拗ねたようにジャンが口を尖らせる。
腹が立つほどに身長を伸ばして、生意気にも頼れる精鋭兵にまで成長したジャンが、少年に戻ったようだった。
なまえとの歳の差を、改めて感じる。
けれど、そんな彼だからこそなまえの隣にいるのがとても似合っていたのかもしれない———余計なことを考えたリヴァイが首を横に振った。
そのときだった。

「なまえ…！！」

ジャンが叫んだ。
切れ長の瞳を大きく見開くその表情には、焦りと共に絶望が浮かんでいる。
後ろを振り返らずとも、最悪の事態を想像出来た。
心が、見たくないと叫ぶ———そのはずなのに、リヴァイは反射的に振り返っていた。
リヴァイが見たのは、悲鳴を上げるナナバら仲間達と珍しく慌てた様子で声を荒げているエルヴィンと、そして、50ｍ下に頭から落ちて行こうとしているなまえの姿だった—————。